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聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。  作者: きなこ軍曹/半透めい
第一章 聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。
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俺がやった…らしい。

pv、ブクマ、評価ありがとうございます。

 「グギャァアアアアア」


 眼前に広がるゴブリンの大群。


 そこに単身で突っ込むなど正気の沙汰ではないんだろうけど、俺だって作戦がないわけじゃない。


 俺には『回復魔法』がある。それもとびきりのやつが。


 もし俺が怪我したとしてもソレで治してしまえばいいのだ。


 


 ゴブリンが手に届く距離にまで近づく。


 そこで俺は不思議な感覚に陥った。手が、独りでに動き出した気がしたのだ。


 「え?」


 よく見ると、俺の手にはゴブリンの体液と思われる汁がべっとりとついている。そして後ろには真っ二つになっているゴブリンの死体があった。


 どうやら、俺がやった…らしい。しかし、今はそんなこと考えている暇はない。何千ものゴブリンが俺目掛けて攻撃してくる。


 しかし、攻撃があたっても、常日頃から腕を切ったりしている俺には屁でもないようなモノばかりだ。


 「あ、あれ!?ゴブリン弱ッ!?」


 多少傷が多くなってくれば自分で回復できる。そしてまたゴブリンを切っていく。


 もはや、手が勝手に動くことなんて気にならなくなってきた。ただ、近くにいるゴブリンの身体をなぞるだけ。そうするだけでゴブリンが死んでいく。


 「ヒールッ!」




 何回目のヒールだったのか、ついにソレは現れた。


 ゴブリンよりも一際大きく手にはなにやら棍棒のようなものも持っている。


 「ゴブリンキング、か……」


 「グギャァアアアアああアアアアアアアアああアアアア!!!」


 ゴブリンキングの咆哮を皮切りに、ほかのゴブリンが一斉に襲ってくる。


 「ッ!?ックソったれ!!」


 俺は襲いかかってくるゴブリンをナイフでなぞる。


 そしてまた、ゴブリンが死んでいく。

 


 とうとう、今ソコにいるのは俺とゴブリンキングだけになった。


 俺が全部のゴブリンを殺したのか、それとも生き残ったゴブリンが逃げ出したのかは判らないが、これなら街は大丈夫だろう。


 それにしても、どうして俺はゴブリンを殺せたんだろうか


 今まで俺はモンスターと戦った経験なんて村でもしたことがない。そうなると考えられるのは、回復魔法の特訓の成果だろうか。


 


 ずっと自分の身体を切り刻んでいたから『痛みの感じ方』を忘れた。


 ずっと自分の身体を切り刻んでいたから『ナイフの使い方』を覚えた。


 ずっと自分の身体を切り刻んでいたから『生き物の殺し方』を覚えた。




 おそらく、そういう事なんだろう。


 「回復魔法様様だな。ヒール」


 俺は体に残っている噛み跡や切り傷を治す。


 残る敵はゴブリンキング、ただ一匹。


しかし、その巨躯に似合わない素早い動きに不意を突かれ、一撃をもらってしまった。ゴブリンとは比べ物にならないその衝撃に身体が宙を舞うが、それでも俺には届かない。


ヒールを使いながら立ち上がり、俺はゴブリンキングを見据える。


 「お前たちには悪いけど、ここを退くわけにはいかないんだ。だから、ここで死んでくれ」


 







 


「ハァ、これ倒したのは良いけど、なんて説明しよう」


 俺は地面に転がっているゴブリンキングだったものに目をやりながら、今しがたこちらに向かってきている討伐隊のことを考えていた。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 モンスターの大群が発生されたという知らせがきてから、冒険者である俺は討伐隊の中にいた。


 俺は冒険者の中ではそれなりに腕が立つと自負している。討伐隊でも重要な前線を任された。


 モンスターの大群の討伐は思いの外難航していた。しかし、そんなとき後方からとんでもない知らせが舞い込んでくる。


 「緊急!緊急!!街の反対側で新たなモンスターの大群が発見された!!こちらと同規模の大群と見られるとのこと!!」


 なんだって!?今の状態だけでもこちとらきついってのに逆にはこれと同じのがいるだって!?


 腕の立つ冒険者はほとんどがこちらに来ていると聞いている。ということは今、街はほとんど無防備ということだ。


 「こちらの大群を殲滅した後、救援に向かう!!」


 指揮官はああ言っているが、到底間に合うとも思えない。


 


 しばらくした後、大群を殲滅し終わったので今度は街の反対側に向かう。


 


 「おいおい、これどんな冗談だよ。」


 俺たちが街の反対側についたとき、そこには既にモンスターの大群は居なかった。


 唯、真っ黒のコートにフードを被った奴が一人。地面にはゴブリンの死体と思われるものが数え切れないほど転がっている。よく見たらゴブリンキングまでもが死体となって転がっているではないか。


 それが示すことは一つ。俺たちが何十人もいてやっと倒しきった大群をたった独りで殺しきったということだ。


 柄にもなく鳥肌が立つ。


 ふとソイツが口を開いた。

 

 「俺は、この街で世話になってるもんだ。恩返しだとでも思ってくれればいい」


 そう言い残し、ソイツは街に帰っていった。


 俺を含めた討伐隊の全てが、その場から動くことができなかった。



 

 今、街ではその噂で持ちきりである、


 噂によると、ソイツは街でこう呼ばれているらしい――――――


                ―――――『漆黒の救世主』様と。


 


 


 


 

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