あの女誰
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「ギルドはもうそろそろ騒ぎになってるかもしれないなぁ……」
俺はたくさんの人が行き交う道を俯きながらギルドへと向かう。
エスイックの話によるともうすぐギルドには宣戦布告のことを公表する、ということだったので俺が着いたときにはどうなっているか分からない。
「……何しようかなぁ……」
人にぶつからないようにしながら俺は考える。
ニアたちにはギルドへと行く、と言ったが実のところ純粋に気晴らしがしたかっただけだ。
恐らくギルドであれば俺の気を逸らす話題が少しくらいならあるだろう。
「……適当に討伐クエストでも受けてもいいし」
実際それが一番気を紛らわすためには効果的かもしれない。
「……っと、すみません」
そんなことを考えながら歩いていると、道を歩いていた人と偶然ぶつかってしまった。
どう見ても俺が下を向きながら歩いていたのが悪いので間髪いれずに謝る。
「い、いえっ、こちらこ、そ……ってネスト!?」
「え……?」
突然呼ばれた俺の名前に思わず相手の顔を確かめると、なんとそこにはアウラが立っていた。
「え、えっ!?」
しかもそれだけでなく、アウラの後ろにはリリィやアスハさんまでもが驚いた顔をしてこちらを見ているではないか。
「ど、どうしてここにいるんだ?」
アウラたちは今街で留守番してもらっていたはずで、こんなところにいる予定など何もなかったはずだ。
「それは私が説明します」
俺と質問に対し、アウラの後ろにいたアスハさんが俺に近づいてくる。
「実は私、この度行われる武闘大会の事務員として召集されまして、ネストさんに任せられた二人をおいてくるわけにもいかなかったので、一緒に連れてきてしまいました」
「あぁ、そういうことか」
街にあるギルドでも優秀らしいアスハさんなら招集されるのも仕方ないのかもしれない。
しかし一つだけ気になることがあった。
「けど、アウラは都に入るとき大丈夫でした?」
以前アウラたちが都に入る時に主人がいない奴隷は入れてもらえない、ということがあった。
今回俺は同行していなかったはずなのにどうして入ることができたのだろうか。
「あぁ、それでしたら今は武闘大会で商人の方などが稼ぎ時ですから、関所はほとんど無いに等しいところまで解放されているんですよ」
「なるほど……」
確かにビエスト国に出発するときと帰ってきたときを比べても商店街の賑わいは増している気がする。
「ネストー久しぶりーっ!」
するとアスハさんと話していた俺に、リリィが思い切り飛び込んできた。
「よっ……と」
突然のことながらも何とか転ばないようにリリィを抱きとめる。
「うへへぇー」
俺の腕に抱かれたリリィはゴシゴシと俺の身体に頭を擦りつけてきて、気持ちよさそうにしていた。
俺はすぐ目の前にあるリリィの頭を優しく撫でる。
「……」
どうしてかアウラとアスハさんが無言でこちらを見ているようだけど、まぁ今はこのリリィを撫でていよう。
それからしばらくリリィの頭を撫でてあげて、ようやく満足してくれたらしいリリィが俺から少し離れる。
それでもかなり近い距離なのだがまぁいいか。
「それでネストさんは何か用事でも?」
その時ふと思い出したかのように、アスハさんが俺に聞いてくる。
「あ……あー」
そこで俺自身、ギルドへ行こうとしていたことを思い出した。
それは元はといえば少しでも気を紛らわすためだ。
「……いや、特にないよ」
しかし俺はやっぱりギルドへ行くのは止めることにした。
「そうですか。実は私たちももう用事は済ませたので、これからどうしましょう?」
なぜなら既に十分、俺の気を紛らわすことができたから。
「じゃあお城にいこう!」
俺はトルエたちも待たせているので一度城へと帰るよう提案し、そしてリリィと手をつなぎながら城へと脚を向けたのだった。
「…………」
俺は今正座させられていた。
時を少し遡って説明しよう。
まず俺はアウラたちを連れて城へと帰り、トルエたちが待っている部屋へとたどり着いた。
そして部屋の扉を開けてからようやくそういえばアウラたちは獣人が苦手だったことを思い出し、慌てて部屋の外に出そうとしたのだ。
しかし時すでに遅くアウラたちの目にはトルエと遊ぶニアに向けられている。
それでも何とか俺はアウラとアスハさんだけは部屋の外に出すことに成功し、部屋の扉を閉めた。
因みにリリィは獣人が苦手なはずなのだがどうしてか部屋の中に我先にと入っていってしまっている。
そこでようやくアウラたちに向かい合う。
途端―――
「あの女誰(ですか)?」
―――と問い詰められた。
それも物凄い笑顔で。
そして今に至る、というわけだ。
俺は正座をしながら、まずニアに出会うまでの話、そしてブロセルたちをビエスト国に連れて帰るまでの話、そして今までの話を二人に説明した。
もちろん所々言わない方がいいところは端折ったが。
「……ふぅ……」
これで二人も納得してくれただろう、と俺は溜息をつく。
「…………」
しかしどういうわけか二人は黙り込んだままだ。
「……ねぇ」
「ん?」
そしてしばらく経ってからようやくアウラに呼びかけられた。
「そのニアって娘、いくらで買ったのかしら?」
「……」
今度は俺が、そのアウラの質問に黙りこむ。
なぜならそれはちょうど俺が先ほどの説明で言わない方がいいと端折ったところだったからだ。
しかし聞かれたからには答えないわけにはいかない。
「……えっと、せ、千五百エンくらいだった、かな?」
あまり黙っているのも怪しいかもしれないと俺は慌てて答えるが、さすがに本当の値段の千五百万エンはまずいと思った結果、つい桁を外しすぎてしまった。
これではさすがに信じてくれないかもしれない……。
「へぇ……千五百エン……ねぇ?」
しかし運がいい事にアウラは値段を呟きながらこくこくと頷いている。
どうやら信じてくれたようだ。
「そ、そうなんだよ、ハハ……」
アウラが信じてくれたことに、俺は安心から思わず頬が緩むのを堪えきれなかった。
「―――じゃあトルエに聞いてくるわね」
「はい、お願いします」
……え、と思ったときには既に俺はアスハさんによって後ろからしがみつかれ、アウラは部屋の中へと入っていっている。
「ち、ちょっと待って!?」
慌てて引きとめようとするも時すでに遅し。
後ろからはがっちりとアスハさんが俺にしがみついていて、抜け出せない。
「もう観念してください?」
「……はい」
後ろからアスハさんが俺の耳元でそう囁いてくる。
……これは後で怒られるのは免れられないな、とさすがに諦めた俺だったがふと気づいてしまった。
アスハさんの胸が当たっていることに―――。