回復魔法が使えるわ!!
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「な、なにをしてるんだっ!?」
俺は後ずさりながら、自分の身体を隠そうとしないニアに、目を瞑りながら聞く。
眠気なんてあっという間にどこかへ行ってしまっているはずなのに、俺は今どうしてこうなっているのかが全くわからない。
「……いがあるの」
その時かすかに、ニアが何かを言ったのがわかった。
「なんだってっ?」
俺は目を瞑り、顔を俯けながら聞き返す。
「……お願いがあるの」
少しの沈黙のあと、ニアの小さな声が聞こえてきた。
それは子供たちがいた頃のような元気がある声ではなく、どこか遠慮しているような、そんな感じの声で、俺は思わず戸惑う。
「あ、あぁ。分かったからひとまず身体を隠してくれっ!」
一体どんなお願いなのかと思ったが、それよりもまず身体を隠して欲しい。
でないと何時までも目をつむってなければならない。
「……隠したよ」
少ししてニアからそう教えられたので、俺は恐る恐る目を開けつつ顔も同時にあげる。
ニアは俺がさっきまで使っていた布団をマントのように使って、身を隠していた。
「はぁ……」
ようやく少しは緊張が和らいだ俺は、思わず溜息をつく。
どうしてかそれに合わせるようにニアの顔が暗くなり、うつむいてしまう。
「それで、お願いっていうのは?」
しかし、何時までもこうしている訳にもいかないので、俺はニアに聞いてみる。
「…………子供たちを、私たち獣人の国『ビエスト国』に、連れて帰って欲しいの」
ニアはうつむかせていた顔を上げ、俺を見つめながらそうお願いをしてくる。
「……えっと、それで?」
俺はそのニアのお願いに対し、正直拍子抜けしていた。
ここまで自分の身を犠牲にしてやってきたのだから、もっと別のお願いをされるのか俺は考えていたのだ。
「…………」
しかし俺の反応がまずかったのか、ニアは再び俺から視線を外す。
「……?」
俺はどうしたのか分からず首をかしげる。
「……私になら、何してもいいから……だからお願い」
するとニアはそう言いながら俺に頭を下げてくる。
……うん?
本当一体どうしたのだろうか。
会話が繋がってない気がするんだけど……。
俺は今までの会話を思い浮かべてみる。
「…………あ」
そこで俺はようやく気がついた。
そして恐らくニアは勘違いをしているのだろう。
俺が、ニアのお願いに『それで?』と言ったことに対して、ニアはきっと俺が何かを要求しているのだと思っている。
だから俺に『何してもいい』と言う前に、俺から目をそらしたりしたのだろう。
「いやいや、別に何もいらないって。俺が言ったのは、他に何かお願いはないのかって意味で」
ひとまず俺は慌ててニアに説明する。
「……っ……」
俺の言葉の意味をようやく理解したらしいニアは顔を真っ赤に染め、布団を一層強く抱き始めていた。
何というか、まぁ誰にでも勘違いってあるからな。
「じ、じゃあ子供たちは連れて帰ってくれるのね?」
誤解が解けてニアも調子を取り戻してきて、元気が出てきたように思える。
「あぁ……っていうかニアは帰らなくていいのか?」
俺は頷くが、ふとその時ニアはどうするのか気になった。
「べ、別に『ビエスト国』に帰りたいならその時は奴隷解放もできるし……」
俺は少しだけ獣耳や尻尾に未練を感じつつ、ニアにそう伝える。
「……私は、大丈夫」
しかしニアは首を横に振りながら、どこか辛そうな笑みを浮かべそう答える。
「……?なんで?」
俺は純粋な興味から、ニアに聞いてみた。
「……っ……」
だが俺と目があったニアは、どうしてか先ほどと同じように俺から目を背ける。
その時、月明かりがニアの頬から伝ったソレを照らした。
顔を背けているためにここからはしっかりと見えるわけではない。
それでも俺にはソレがとてもハッキリと目に映ったような気がした。
きっとニアはこのことについてあまり触れられたくないのかもしれないが、ここはどうしてか引いてしまってはいけないような、そんな気がする。
「ニア、本当ごめんなんだけど――――――教えて」
だから俺は初めて命令をした。
すると奴隷契約がちゃんと効いているのだろう、ニアは驚いたように目を見開きながら、こちらを向いてくる。
「じゃあ、お願い」
俺の言葉から間もなくして、ニアは口を開き始めた。
「わ、私が犯罪奴隷として捕まってから、私は奴隷商に引き取られた」
そこで俺は頭の中であの時の奴隷商を思い浮かべる。
「私は気が強くて奴隷商にたくさん反抗して、そしてその分ひどい扱いを受けて……」
あぁ、だから契約をするとき何かいやらしい感じでニアを見ていたのか。
俺はその時のことを思い浮かべながら、一人で納得する。
「そしてその時――――――尻尾を切られた」
―――――は?
何だって……?
じ、冗談だよね……?
「こんな尻尾じゃもう……っ……帰れないよ……っ!」
そう言い切ったと同時にニアは布団を抱いたまま、その場に座り込む。
ニアは自分の膝に顔を押し当てて、静かに肩を揺らしていた。
「……ど、どうしよう……」
自分で話すように言っておきながら、事の重大さに今頃気がついた俺はどうすればいいのか分からず慌てている。
ニアの尻尾が切られてしまったということは俺も当然サワレナイ。
今、そんなことを考えているような時じゃないのは分かっているが、頭の隅では考えずにはいられない。
「な、何か……」
何かこの状況を打破できるようなものはないのか、と俺は一生懸命周りを見回してみたりして考える。
しかし都合よくそんなものがある訳でもない。
「大丈夫……っ……だから…っ……心配しないで……っ?」
そう俺に言ってくるニアの目は涙で赤く染まっているのが、月の明りでどうしてもわかってしまう。
そんなのを見てしまって、心配しないということはまず出来るわけがない。
何か、何か切られた尻尾を治せるものはないのだろうか……。
「……って俺の回復魔法が使えるわ!!」
どうして今まで気がつかなかったのか分からないが、俺はそのことに気がつくと大声をあげる。
目の前にいるニアは突然の俺の大声に驚いているが、まぁ仕方がない。
俺は急いでニアに近づき、自分の手をかざす。
泣いた跡がくっきりと残っているニアの目が、不思議そうに俺の手を見上げてきている。
「ヒールッッ!!」
そして俺は、契約したときの軽傷を治したときに使ったような加減した回復魔法ではなく、もっと普段俺の腕を生やしたりする回復魔法を使った。
「……え?えっ!?」
治療したあとすぐ自分の変化に気がついたのか、ニアは布団を被っていたことも忘れて立ち上がる。
「……えっ!?」
そしたら当然俺の前にはニアが裸で立っているわけで。
「……う、嘘っ!?」
しかもニアは自分の尻尾が治っていることを確認するためにその場で回転する。
「……ッッ!!」
そしてその瞬間俺は目にした。
何モノにも隠されていない、ニアの尻尾を。
「アァァああアアぁあぁアァッぁあああぁああああ!!??」
俺はその謎の奇声を耳にしたのを最後に意識を手放したのだった。
次に目が覚めたとき、窓から陽の光が差し込んでくる朝を床で迎えていたのは、言うまでもない。