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聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。  作者: きなこ軍曹/半透めい
第三章 俺の回復魔法がどう見ても聖女の劣化版な件について。
120/181

カワイイネキミ。

ブクマ評価感謝です。


 「…………あぁ、そういえば自己紹介とかしたほうが、いいよな?」


 宿屋に向かっている途中、俺は無言の空気に耐え切れずそう提案する。


 奴隷競りの会場を出たあと俺たちはここまでほとんど無言だった。


 理由は明らかで、俺のとなりに獣人の女の子がいるせいだ。


 しかもその女の子が、俺が競り落とした奴隷であるという事実も十分に理由の一端になっている。


 「そ、それもそうだな」


 俺の提案に、自身も恐らくこの空気に気まずさを感じていたのだろうブロセルも乗っかってきた。


 「じゃあまず俺から。俺は一応だけど回復魔法を使えるんだ。そして他にも―――」


 そこからある程度自分の自己紹介も終わり、他にもブロセル、トルエの順にそれぞれの自己紹介を済ませていく。


 そして最後に獣人の女の子の順番が回ってきた。


 「……私は、ニア」


 「…………」


 ニアという名前らしい女の子は、それだけを言うとまた黙りこんでしまう。


 ……これはどうしたものか。


 かろうじて名前だけは教えてくれたものの、それ以外は全く話そうとする気配がない。


 「……そ、そういえばどうして人の物を盗んだりしたんだ?」


 これ以上黙っていても何かあるわけでもないので、俺は気になっていたことを聞いてみることにした。


 「……」


 しかしやはりあまりそのことは話したくない話題なのか、ニアは脚を止めて顔をうつむかせてしまう。


 「…………一つだけ寄り道したら、ダメかな……?」


 これは聞かなければ良かったかもしれないと思っていたその時、ニアが小さい声で呟いた。


 「ん、別にいいけど」


 特に急いで宿屋に帰る必要も無いので俺はすぐに頷く。


 「……っ……ついてきて」


 ニアは何か驚いたような素振りを見せつつも、俺たちを先導するように歩き出した。





 「……こ、これは」


 ニアに連れて行かれた場所でその光景を見た俺は、思わずそう口にする。


 「……」


 ブロセルも同様で目の前の光景に驚かされているのだろう。


 今、俺たちの視線の先には数人の獣人の子供たちが仲良さげに遊んでいる姿がある。


 「……え、どういうことだ……?」


 獣人がどうしてこんなところに居るのかが分からない俺は頭の整理が追いつかずにいた。


 「……私がお金を盗んだりしてたのは、この子達に食べ物を配るため」


 そんな中でニアは俺たちにそう教えてくれると、自身は子供たちに近づいていく。


 「あ、ニアおねーちゃんだー!」


 「遅れちゃってごめんねー」


 子供たちはそんなニアに対し警戒心などを抱く様子もなくすぐに駆け寄り、ニア自身も先ほどの俺たちに見せていたような態度ではなく、明るい表情を子供たちに見せていた。


 「な、なぁブロセル、これってどういうことなんだ?」


 俺は同じ獣人であるブロセルに今回の子供たちのことを聞いてみる。


 「…………」


 しかしいくら答えを待っても一向に返事はなく、俺は子供たちから視線を外してブロセルに目を向ける。


 するとどうやらブロセルは子供達を見ているというより、ある一人の子供だけを見ているような気がした。


 「…………エ、エステル……」


 その時、ブロセルが何かを呟いたのが聞こえてきた。


 そしてそのままゆっくりと子供達へと近づいていく。


 するとニアに駆け寄っている内の子供たちの中の一人がブロセルに気がついたかと思うと、驚いたような顔をしてブロセルに駆け寄る。


 「お、お兄ちゃん……?」


 俺の耳に辛うじて聞こえてきたその子供の呟きは当然ブロセルも聞こえているはずで、ブロセルはその子供を包み込むように抱きかかえた。


 「…………っ」


 少し離れているためにあまり話している内容などは分からないが、恐らくあのブロセルの様子からブロセルが探していた妹なのだろう。


 なんというか意図しないところであっさりと見つかってしまったので俺はとなりに立っていたトルエと顔を見合わせる。


 「ご主人様はもしかしてこれを想定して……?」


 トルエの俺に対する斜め上すぎる評価があるような気がするけど、わざわざ訂正しなくてもいいよね?


 俺はブロセルとその妹の獣人の子供、そして仲良さそうにはしゃいでいるニアたちを見ながら、トルエの頭を撫でてあげるのだった。





 「……えっと、あの子達の面倒を少しの間だけでいいから見てくれたりしない……?」


 ニアたちが仲良さそうにはしゃぎ始めてからしばらくたった今、俺はニアに頭を下げられていた。


 「俺からも頼む」


 頭を下げるニアの隣にはブロセルもこちらに頭を下げてきている。


 子供たちはというとそんな俺たちを離れたところから窺っており、さらに隣にいるトルエは期待するような目で俺を見てきていた。


 「ま、まぁ別にいいけど……」


 さすがにこの状態では断れないだろうというか、元々断る気もなかったが俺はそう答える。


 「ほ、ホントっ!?」


 頭を下げてくる前の強ばった表情と打って変わって、今度は華が咲いたような笑顔を浮かべており、その獣耳も嬉しそうにピンと伸ばされていた。


 ウンカワイイネキミ。


 それから子供たちにニアが説明し、獣人だとバレてしまうと宿屋に泊まれなくなるかもしれないのでバンダナを皆に配る。


 そして獣人だとバレないよう、完璧に準備してから俺たちは宿屋へと向かったのだったが…………


 そもそも俺たちの人数が多すぎたせいで、宿屋には泊まることができなかった。


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