獣人と人間は敵
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「――――――――――――――――ってところだな」
「うーん、大体は分かったと思う」
俺は結構長いあいだブロセルの話を聞いていた。
曰く、獣人と人間は敵対関係にある。
曰く、獣人は人間だけではなく人間と比較的仲がよい魔族とも敵対関係にある。
曰く、人間と獣人、そして魔族はそれぞれで、敵対関係にある国に対する反教育のようなものを行っている。
ここまでが大体人間と獣人の関係についての話だ。
そして俺はさらに獣人についても聞いてみた。
曰く、獣人は五感が優れている。
曰く、獣人は身体強化という魔法のおかげで、魔族同等の身体能力を引き出せる。
というのが、俺がブロセルから聞いたことだ。
「……あれ?」
しかし俺はそこでふと疑問に思ったことが二つほどあった。
「ならどうしてブロセルは仲が悪いはずの人間のいる街に来たんだ?」
まず一つ目はこれだ。
今の話を聞く限り、獣人は国全体で人間を嫌うように教育している、ということだったが、ならどうしてブロセルがわざわざここまで来た意味が分からない。
「……妹、妹を探すために」
「妹……?」
俺はブロセルの応えに思わず目を細める。
なんだかこの前にリリィの件があったばっかりだったので、つい、またか……と思ってしまった。
「念の為に聞くけど、その妹の名前って『トルエ』とか『アウラ』じゃ、ないよな?」
俺は一応の確認のためにブロセルに聞いてみる。
「あぁ、システル、という名前だから違うな」
「そ、そうだよな」
よく考えてみてもアウラやトルエにはブロセルのような獣耳は生えていない。
というかよく考えてみなくても分かるようなことだった。
「……それでその妹っていうのはこの街に来てるのか?」
俺は、暗い顔をしているブロセルが気になり、そう聞く。
「……いや、急に居なくなったから、いろいろなところを探して回っているんだ。そしたらこの街にたどり着きそうなところでさすがに疲れが限界まできてしまったらしくてな……」
ブロセルはそういうと、悔しそうに顔を歪め、床を睨みつける。
あ、そういえばもう一つの質問もあったんだ、と思い出した俺は丁度いいタイミングかと思い聞いてみることにする。
「それで、怪我してた時なんだけどこの街の冒険者がブロセルを連れてきてくれたんだ」
「ん、あぁ、多分その時は俺が頭に布がまいてたんじゃないか?」
俺の言葉を特に不思議に思うようすもなく、ブロセルはそう答える。
「あぁ、それはそうなんだけど」
俺もそれは分かっている。
最初はブロセルの言うとおり、頭に布を巻いていたから冒険者も親切にしていてくれたんだと思うけど……、俺が聞きたいのはこれじゃない。
「俺が治療し終わったあと、ブロセルの頭に巻いてた布が解けたんだ」
「……そうか」
ブロセルは落ち込んだような声で、俺にそう返す。
しかし俺は続ける。
「……それなら、どうして皆は何もしてこなかったんだ?」
俺が本当に聞きたいのは、これだ。
ブロセルの頭に巻いていた布がほどけたとき、ギルドにいる人たちは、こちらを少し嫌そうに見るだけで、他には特に何もしてこなかった。
普通敵ならあそこで襲わないでいつ襲うんだって話だ。
「……あぁ、それならこの『耳』のせいじゃないか?」
俺の言葉にブロセルは自らの耳をピクピクさせながらそう教えてくれる。
「『耳』ってその『獣耳』のことか?」
俺はブロセルが言うことがにわかには信じられず思わず聞き返す。
だって、『耳』が嫌いだからあの時襲わなかったなんて……。
「……俺の国で聞いた話によると、人間は普通は耳が動かないらしいな」
「ん、そりゃあ普通は動かせないと思うけど……」
俺は耳を動かしてみようと思ってみるも、まず耳にどうやって力を入れたらいいのか分からず断念する。
多分みんなも同じだと思う。
「だから人間はこの耳が動くのが苦手らしい。まぁ本当にそれが理由なのかは分からないが……」
「ま、まじか……」
俺はピクピクと動いているブロセルの耳をみながらそう呟く。
どう見てもこの耳が原因でギルドで皆が襲ってこなかったとは思えないんだが……。
かく言うブロセルも、自分でそのことが分かっているのか、少し首をかしげている。
けど、よく考えてみたら俺が以前にエスイックのいる城に忍び込もうとしたとき、獣っぽい衣装をしていた気がするんだが、それはどうだったんだろうか……。
「うーん、良く分からないな」
やはり少し考えてみても他に何か原因らしきものも見つからなかった。
「けど、もし本当にその耳が怖くて襲ってこなかったっていうなら――」
俺はいつも治療にくる冒険者のおっちゃん達を思い浮かべる。
「――――すごいビビリなんだな」