まるで獣
ブクマ評価感謝です。
今回キリが悪いですごめんなさいm(_ _)m
「……よしっ、じゃあ今日もはじめるぞーっ!」
俺は軽く腕を上げながら、ギルドに響くくらいの声でそう告げる。
昨日は転ばされすぎて疲れたが、一夜あけたらそんなことをされることもなく、リリィたちと順調にギルドまでやってくることができた。
まぁ当然といえば当然なのだが、来るときに足元を見まくっていたのは仕方ないだろう。
因みに、昨日の依頼書が結局誰だったのか。
アウラに聞いてみたら、余所余所しい顔をしながら「し、知らないわよ」と一言。
俺の方も無理して聞かなくてもいいと思っていたので、特にそれ以上は追求することなくその話題は終わることとなった。
今となっては謎に包まれてしまったが、まぁいいか。
そんなことより今は治療だ。
俺はそう頭を切り替えると、俺の前にやって来た患者に目を向けた。
「はぁ、じゃあ昼休憩なー」
俺のその言葉にギルドの中からは軽く文句の声のようなモノが上がるが、気にしない。
何故か。その声を上げているのは皆すでに治療を終えている冒険者のおっちゃんたちだからだ。
それに一応は急ぎの患者のような人たちは皆治療を終えたし、トルエを残しておく必要もないな。
そう思い、俺たちは昼食をとるべく、ギルドの扉へと向かった。
『ガタンッ!!』
「え……」
しかし、俺が扉に手をかけようかというその瞬間、扉が乱暴に開かれ、俺に迫ってきた。
「う、うわぁっ!!」
そしてそこからは何やら誰かが飛び込んでくる。
そうすると当然、扉の前にいた俺とぶつかってしまうわけで……。
外から飛び込んできた誰か共々ギルドの床に転がる。
その時に気がついたのだが、どうやら中に飛び込んできたのは三人だったようで、一人を二人が横から肩で支えている、といった感じだ。
「……っしょっと……」
俺はゆっくりと立ち上がり、一体どうしたのかとその三人を見てみる。
ふとそこで、さらに気がついたことがあった。
俺の手が、血で染まっていたのだ。
「イタタタタ……」
その時、三人の内の二人が立ち上がった。
「……ってこんなことしてる暇ねぇ!」
かと思ったら今度はいきなりそう叫ぶ。
「おいネスト、こいつ治療してやってくれねぇか!?街の近くで倒れててよ!」
「っ、了解!」
手に血がついていることに気がついた時から、怪我をしているのかもと思っていたが、やはりそうだったらしい。
二人の言葉を聞いた俺は、直ぐに治療に取り掛かる。
実際傷がどれくらいなのかは分からないが、この際ちゃんと治療をしたほうが良さそうだ。
「…ッヒール」
俺がそう呟くと、怪我をしている人の身体が微かな光に包まれたかと思うと、すぐにその光が収まった。
「よし、多分だけどこれで大丈夫」
「そ、そうか……」
俺の言葉に、連れてきた二人だけでなく、ギルドにいた冒険者や職員たちもホッと胸をなでおろしている。
「多分元々そこまで傷が深くなかったみたいなんで」
念の為に、と思いそれだけちょっと付け足しておく。
「よし、じゃあちょっと事情も聞かないとイカンから、起こすか」
いま治療したばっかりというのに、一緒に連れてきた人はそうやっていうと、本当に起こそうとしているらしく、その人の頭をかるく叩く。
その倒れている人は頭に布を巻いており、起こそうと叩くたびにその結び目がどんどんと緩んでいくのがふと気になった。
「……ぁ」
俺がふと気になっていたその結び目が、ほどけた。
「…………」
その瞬間だったか、ギルドの中が凍りついた。
その布の下には、人間とは思えない、まるで獣そのものの耳が、あった――。