仕返しをしよう
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「……お腹が、重い……」
昨日から一夜が開けて、俺はベッドの上でそう呟いている。
回復魔法のおかげか、それとも単純に時間が経ったからか、俺のお腹事情は少しは改善されたようだ。
「……」
俺は、軽くお腹をさすりながら、見慣れている天井を黙って見上げている。
そんな中、俺の頭、否、お腹の中ではある考えがよぎった。
――――アウラに仕返しをしよう、と。
そう決意した俺はゆっくりとベッドから起き上がると、これまたゆっくりと、自分の部屋から出る。
「……フフフ……」
今からやろうとしていることを思うと、自然と笑みがこぼれてしまった。
すぐに誰かに見つかったときのことを考えて、表情を引き締めるが、しかし思わず笑ってしまうのも仕方ない。
だって今からアウラにしようとしていることを考えれば、なぁ?
「ふふ…っ……」
俺はいけないとは思いながらも、再び笑いがこみ上げてくることを我慢することは出来なかった。
「……よし、じゃあやるか」
まだ、薄暗さが残る朝。
その時俺はただ一人、自分の家の庭にやって来ていた。
それは、あるものを探すためだ。
完全に周りが明るくなってきてしまったら、皆が起きてきてしまうと思い、わざわざこんな時間にやって来たが、あかりが少ないために、目的のものを見つけられない。
「……はぁ」
そのことに俺は思わず溜息を零す。
既に探し始めて結構な時間が経っている。
しかしやはり見つからない。
周りも次第に明るくなってきており、皆が起きてくるまでの時間も刻々と迫ってきているはずだ。
もしかしたら既に起きているかもしれない。
「…………あ」
そんな時、周りが明るくなってきたおかげで、ついにソレを見つけることができた。
「……ふっふふ……」
喜びのあまり、ついさっきみたいに笑うのを我慢できなくなってしまうが、まぁやっと見つけられたのだから、それくらいは良いか。
そうほくそ笑む俺の手には――――――気持ち悪い虫の死骸が握られていた。
「……誰もいない、よな……?」
ゆっくりと、音を立てないように玄関の扉を開ける。
誰もいないことを隙間から確認した俺は、念の為にと、地面を這いながら音を立てないように進む。
「なにやってるのぉ?」
「っ!?」
突如、かけられた声に俺は思わず肩を震わせる。
顔を上げてみると、そこには眠たそうにしているリリィが居た。
「……お、おはよう」
何を言えばいいのか分からず、ただそれだけを呟く。
「ん、おはよぅ」
リリィも目を擦りながら俺にそう返す。
「…………」
しかし、これは一体どうしたらいいだろうか。
今からやろうとしていることは、本当だったら誰にもバレたらいけないことなのだが……。
「…………」
俺はゆっくりと人差し指を自分の口元に押し当てる。
所謂、静かにして、というやつだ。
「……ぅん」
俺の真面目な顔をしていたせいか、リリィは眠たそうにしながらも、コクリと頷いてくれた。
俺はそのことを確認すると、再び床を這いながら進む。
「……」
ふと、後ろを確認すると、どういうわけかリリィがついて来ている。
しかしここで一悶着をして、アウラたちに気がつかれるよりは、こうやって静かについてきてくれるほうがいいかもしれないと思い、俺は特に何かいうこともなく、目的の場所を目指した。
「……よし、着いた……」
今俺は―――お風呂場の前にいる。
因みに後ろにはリリィがきちんとついて来ている。
「……ふふふっ」
おっと、イカンイカン。
どうにかここまで来ることができたのだから、最後までやり遂げなければいけない。
「……ちょっとここで待っててくれな……?」
俺が後ろで待っているリリィにそう言うと、リリィはやはり眠たそうにゆっくりと頷いた。
「……よし、これで大丈夫」
俺の目の前には、虫の死骸。
それもかなり気持ち悪いやつだ。
それをお風呂場の真ん中らへんに置いておく。
「あとは、アウラがお風呂に入るのを待つだけ……」
その時の俺はきっと、物凄い悪い笑みを浮かべていただろう―――。
「あ、アウラおはよう」
都合がいいことに、今日の朝食を作る担当は俺だったので、ついでに料理をしていたら、アウラが起きてきた。
「まだ結構かかるから、先にお風呂入ってきたら?」
俺は、作りかけの料理を目で示しながらアウラに提案する。
「そうね。なら先に入ってこようかしら」
……ふふふ―――計画通り。
俺の提案に何の疑問も抱くことなく、アウラはお風呂場へと向かっていった。
因みにリリィは椅子に座りながら、朝食を今か今かと待っている。
そして俺は、アウラの叫び声が聞こえてくるのを、今か今かと待っている。
『キャァァァァアアッッ!!』
―――ほらほら、聞こえてきた。
俺は、仕返しが成功したことに笑みを浮かべる。
「ね、ネストっ!む、虫がっっ!!」
「なっ!?」
次の瞬間、ドタドタという音が聞こえてきたかと思うと、なんとアウラが全裸で俺の目の前にやってきた。
これには、俺もびっくりだ。
「おkふぁおkふぁ@fkpッッッ!?」
あまりにもびっくりしすぎて、自分でもわかるくらい変な声を出してしまった。
「こ、これっ!」
俺は近くにあった身体を隠せる程度の大きさの布をアウラに投げつけると、アウラに背を向ける。
「どうしたのぉー?」
そんな時、リリィがアウラの声に心配してきたのか、こちらへとやって来た。
「む、虫がいたのよっ!お風呂場にっ!!」
アウラがおそらく涙目になりながら、リリィにそう訴える。
「……」
俺はしてやったり、と思いながらアウラの声を聞いている。
「んー?」
リリィはというと、アウラの言葉に首をかしげていた。
「あっ」
そんな時、リリィが何かを思い出したかのような声をあげる。
「だから、ネストあんなところにいたのかぁー!!」
そして、そんな爆弾を落とした。
「…………え?」
―――時が、止まった。
「……どういうこと?」
さっきまでの勢いが嘘のように、一変して今度は俺を睨みつけてくるアウラ。
「い、いや……?」
俺は、アウラから視線を外しながら、そう反応することしかできなかった。
その後、俺がどうなったかは、言うまでもない―――。
ただ、街では男の叫び声が聞こえた、ということだけは言っておこう―――。