限界を迎えていた。
ブクマ評価感謝です。
昨日手違いで夜に一話投稿してしまったので、
そちらを見ていない方はそちらからどうぞ!
「終わったーっ!!」
俺はその達成感から大きく伸びをしながらそう呟く。
今日は久しぶりにギルドでたくさんの人を治療した。
アウラたちにも手伝ってもらったりして、なんとかかんとか数を減らしていき、ついに今最後の一人の治療を終えたところ、というわけである。
因みに数が少なくなってきてからは、トルエもきつそうだったのでアウラたちは早目に帰らせた。
というわけで今は一人で帰る準備をしている。
といっても特に何かを持ってきたりしたわけではないのだが、机を綺麗にしたり、軽く掃除をした。
これからはまたしばらくここでお世話になるだろうし、綺麗にしておかなければいけないだろう。
そして、ある程度綺麗になったと思ったので、俺はギルドに一言挨拶すると、そのまま自宅への帰途へついた。
「それにしても今日は本当に多かったなぁ……」
俺は今日一日を振り返り、しみじみと呟いた。
こんなに多かったのも、俺が結構長いあいだ、街にいなかったためだろう。
『グゥゥウウ』
そんなことを考えていると、お腹からそんな音が響いた。
実は今日、あまりにも人が多かったせいで昼食をとる時間がなかったのだ。
だから今、とてもお腹が減っているわけで……。
アウラたちが既に夕食を作ってくれていたら助かるけれど、まだ時間帯的にはそこまで遅い時間でもないので正直あまり期待できないかもしれない。
こんなことなら帰らせる前に、夕食を作っておくように頼んでおくべきだった。
「……はぁ」
しかし今更そんなことを嘆いたところで何も意味はない。
「少しだけ何か食べていこうかなぁ……」
ふとそんなことを思い、俺は辺りを見回す。
しかしこうやって歩いている内に、そういうお店がある一帯を抜けてしまっていたのか食事ができそうなところはなかった。
「…………ん?」
そんな時、俺はふと、特に意味もなく後ろを振り返っていた。
「…………え!?」
俺が何気なく振り返った先には、なんと人がうつぶせに倒れているではないか。
慌てて倒れている人の下へ向かう。
するとその途中で、倒れている人の後ろ姿に、どこか見覚えがある気がした。
その人は、ギルド職員の制服を着ていて、その髪色も見覚えがある。
「あれ、アスハさん……?」
思わずそう呼びかけると、その人は身体を少しだけ震わせたかと思うと、ゆっくり顔をこちらに向けてきた。
「だ、大丈夫ですか……?」
やはりというべきか、倒れていたのはギルド職員であり、俺の知り合いのアスハさんだった。
どうしてアスハさんがこんなところにいて、そしてこんなところで倒れているのかわからず、困惑するが今はそんなことより治療をした方がいいだろう。
アスハさんの腕や、足など、他にも数箇所擦りむいたような傷が出来ており、そこからは今も血が流れ出している。
「ヒ、ヒール」
俺は若干慌てながらも、ちゃんとアスハさんを治療し終える。
「……あ、ありがとうございました」
治療が終わったアスハさんは、ゆっくりとその場に立ち上がると俺にお礼を言ってくる。
「いや、全然大丈夫なんですけど、どうしてこんなところに?」
アスハさんの自宅の場所を知っているわけではないが、今までここら辺であったりしなかったということは恐らく違うはずだ。
「……」
しかし俺の質問に対し、アスハさんは応えにくそうに目を逸らす。
「……?」
俺はその意味が分からず、首をかしげる。
「……あ」
しかしそんな時、俺の目にあるものが目に入った。
「ア、アスハさん……、それってもしかしてお弁当ですか……?」
俺の視線の先にはアスハさんの手に握られたお弁当があった。
「……そ、そうですが」
アスハさんはどこか躊躇うような素振りを見せながらも、俺の言葉に頷く。
「も、もらえたりなんてことは、しませんよね……?」
俺はかすかな希望をもって、アスハさんに聞いてみた。
元々お腹が空いていたということに加えて、アスハさんの手作りだろう弁当が目の前にあるという今の状況に、俺の空腹具合は限界を迎えていた。
「…………どうぞ」
「えっ!?」
アスハさんは、その手に持っている弁当をおずおずと俺に手渡してくる。
自分で言っておいてなんだが、まさか本当にもらえるとは思っていなかった俺は、驚きつつも、落としたりしないように丁寧にそれを受け取った。
「あ、ありがとうございますっ!!」
あまりの嬉しさに思わず大きな声をあげてしまうが、この際気にしなくていいだろう。
「い、今食べていいですか!?」
俺は近くに置いてあった長椅子を指差しながらアスハさんに聞いてみる。
「えっ、い、今ですか……?」
しかし俺の言葉にあまりアスハさんはいい顔をせず、少し顔に影を落とした。
「ダメ、ですか……?」
俺としては、本当にお腹が減ってきているので今すぐにでも食べたいのだが……。
「……うぅ、どうぞ……」
するとアスハさんは若干渋りながらも、了承の意を俺に伝えてきてくれた。
「アスハさんも行きましょうっ!」
俺はアスハさんの手を引くと、休憩するためにおかれたのだろう長椅子に腰を下ろした。
「じゃあ、開けてみますね……?」
長椅子に座った俺は、横に座るアスハさんに確認をとる。
「……」
アスハさんの方も、どこか緊張しているような面持ちで、微かに頷いた。
「では……」
俺がゆっくりとお弁当の蓋を開けると、その中には――――――
―――――――――何も入っていなかった。
つまりは、その弁当は既に平らげられていたのだった。