早退します
ブクマ評価感謝です!
ご、ごめんなさい。意外に長くなってしまって、終わりませんでした。。。
しかも書いているうちになんかシリアス(?)っぽくなっちゃってしまって
申し訳ないですm(_ _)m
明日には終わらせます……!!
「お久しぶりですね」
そうつぶやく私の目の前にはネストさんが立っていた。
……これは一体どうしたら良いのでしょうか。
私はこの突然の事態に、内心ではかなり焦っていた。
「……」
足元にある二つの弁当箱のうち、一つはもともとネストさんの為に作ってきたものだ。
しかし作ってきたはいいが、これをどうやって渡せばいいかを考えていなかった。
「おいネストー、早く治療してくれーっ!」
私がどうしようかと考えていたとき、冒険者たちがネストを呼び始める。
「あ、じゃあ俺は治療してくるんで」
「あっ……」
そう言い残し受付から立ち去るネストさんに思わず手を伸ばそうとするも、私は途中でそれをやめる。
「……まぁ、お昼用ですし、まだ時間はありますからね」
私はお昼休みのときにでも渡せば大丈夫でしょう、と小声で呟く。
ちょうどその時、ネストさんは治療を開始していた――。
「……はぁ」
私は今の現状に深く溜息をついていた。
時はとっくに夕方頃になっており、既にギルドにいる冒険者の数も減ってきている。
……因みにまだ弁当は渡せていない。
ネストさんの方も、どんどんと治療をこなし、もうそろそろ終わってしまいそうな勢いだ。
ひさしぶりの治療ということで、たくさんのお客さんも来ていたはずなのに。
「……」
私は再び足元に視線を落とす。
そこには朝と変わらずに二つの弁当箱が置かれてある。
ただ朝と違う点をあげるとするならば、そのうちの一つが既にからっぽであるということくらいだろうか。
お昼休みに一人で昼食をとったりしないで、もっと自然にネストさんに渡せればよかったのだが今となってはもう遅い。
それに今更渡したところでどうかなるとも思えない。
ネストさんも、夕食の前にこんなものをもらっても迷惑だろう。
「……はぁ」
私は、本日何度目になるか分からない溜息を零したのだった――。
『よし、終わったぁーっ!』
書類を整理している私の耳にそんな声が聞こえてくる。
思わず作業の手を止めて、そちらの方向を向く。
そこには案の定、治療を終えたネストさんが帰る準備を始めようとする姿があった。
「……」
私はもう今日は弁当を渡すのはやめようかな、と思っている。
別に今日渡さなくたって、明日、そうまた明日にもう一回作ってこればいいのだ。
「じゃあお疲れ様でしたー」
ネストさんはギルドに残っている人たちに労いの挨拶だけを残していくと、その扉から出て行ってしまった。
「……」
私は今しがたネストさんが出て行ったその扉を見つめる。
―――これで、良いのでしょうか。
自分の胸の中で、そんな自分の声が聞こえてきた。
―――せっかく作った弁当をまた無駄にしてもいいのでしょうか。
確かにもったいないけど、また明日作ればいい。
―――今日渡せなかったのに、どうして明日になれば渡せるんでしょうか。
…………。
自分の中で、二つの意見が葛藤しているのがわかる。
―――今、ネストさんにお弁当を渡したく、ありませんか?
…………。
私はその自分自身に対する問いに、思わず作業の手を止める。
「…………」
……どうしよう、どうしよう、本当に―――――どうしようもない。
「すみません、今日早退します!」
「……えっ!?」
後ろの方で同じギルド職員の人が驚いたような声を上げるが、今は無視させてもらおう。
決めたならすぐに行動だ。
私は一つの弁当箱を手に取り、ギルドの扉を開け放つ。
そしてすぐに、ネストさんが帰ったであろう道を、走り出した。
「はぁ……っ、はぁ……」
走る私の頬を、ひんやりとした風がなでる。
……こんなに本気で走ったのは何時ぶりだろうか。
多分冒険者を引退してからはこんなに走ったことはなかったはずだ。
「……はぁ……っ!!」
その頑張りが功を奏したのか、私の視界にネストさんの後ろ姿が映る。
―――あと、少しっ!!
ここからあそこまでなら簡単に追いつくことができるはず。
「―――ぁ」
その時、慌てすぎたからか、自分の足に自分のもう片方の足が引っかかり、転んでしまった。
「……っ」
そのすぐあとに襲いかかってくる痛み。
弁当を持っていたためにちゃんとした受身をとることができず、結構強く倒れてしまう。
「…………」
―――やっぱり、弁当は渡せないんですね。
普段はこんなことしないくせに、こういう大事なときに限って失敗をしてしまう。
よく見ると、地面には自分のだと思われる血が流れているのがわかる。
「……っ」
―――大丈夫、また明日作れば大丈夫。
……そ、そうですよね……?
―――そう、また明日作れば良い。
まるでさっきまでの葛藤が嘘のように、自分の中ですぐにそう決まる。
自分もその答えに納得、しているのだと思う。
でも、それならどうして―――――――――こんなにも悲しいのでしょうか。
「……ぁ」
自分の頬を流れる何かが、冷たく感じる。
「あれ、アスハ、さん……?」
「―――ぇ?」
ふと耳に入ってきたその声に、ゆっくりと顔をあげる。
「だ、大丈夫ですか……?」
そこには、朝とは違って私のことを心配そうに見つめてくるネストさんがいた――。