空を飛ばさせてくれ
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「リリィ、俺に―――空を飛ばさせてくれ」
俺は、リリィの小さな手を握り締めながら、そう呟いた。
……どうしてこうなったのかは、少しだけ時を遡る。
「――じゃあ、ありがとうございました」
今日俺たちは、長い間留守にしていた街に帰ろうとしている。
俺はその見送りに来てくれた国王様であるエスイック、聖女様であるルナ、そしてさらには国王様のお母さんに対し、お礼を言っている途中だ。
「いえいえ、こちらも楽しませていただきましたし」
ルナが俺にそう返してくる。
確かに俺たちが王城にお世話になっている間にも色々とあったのも事実だ。
リリィのありえない力が問題を起こしたり、まぁ本当に色々と大変だった。
ルナもそのことを思い出してか、どこか苦笑いを浮かべている。
「……まぁ、お世話になりました」
そんなことをしていると、そろそろ俺たちを街に連れ帰ってくれる馬車が動き出したので、俺は最後にもう一度感謝の意を伝えた。
「…………」
だんだんと都から離れていく俺たちに、ルナが依然と手を振りながら見送ってくれている。
俺はルナに手を振り返しながら、しばらくは都には来ないかな、と思った。
というかしばらく街からは出なくていいと思う。
ここ最近ずっと忙しかったし、少しは久しぶりの自宅で休みたい。
しかし、ずっと休んでいたギルドでの治療もやらないといけない……。
俺は今からの予定を思いながら、小さくため息を吐いた。
街へ向かう時に、何時ものように少しだけ休憩を挟むことになった。
そこは以前にも休憩をした、そう、俺がドラゴンに襲われた時に休憩をした場所だ。
「……はぁ」
俺は一人、馬車から離れてドラゴンに追いかけられたところを歩いている。
特に何かあるわけではないが、どこか感慨深いような気がした。
「ネストーっ」
「うわっ!?」
そんなことを考えていると、突然後ろから声をかけられたので驚いてしまった。
声の主を見てみると、そこにはいたずらが成功したような顔を浮かべるリリィが立っている。
「なんだ、リリィか……」
結構本気で驚いたので、リリィだと気付いた俺は思わず胸をなで下ろす。
実際ここでは一回ドラゴンにも襲われたことがあるし、自分でも分からないところで、少し警戒していたのかもしれない。
「あそぼーっ」
そんな俺を知ってか知らずか、リリィが楽しそうに笑いかけてくる。
そしてすぐに俺の前まで走り込んでくると、俺の手を引きながらどんどんと進んでいく
俺は特に断る理由も無かったのでリリィにされるがまま、リリィについていった。
「ここがいいーっ」
そういって俺の目の前にいるリリィが指差すのは、大きな広場のようなところだ。
「こ、ここ……?」
ドラゴンに追いかけられた時、色々と走り回ったと思うが、こんなとこがあるとは思わなかった。
しかし確かにここならゆっくりもできるし、案外良いかもしれない。
「ネストーっ、これみてーっ!!」
「ん?」
すると、リリィが何やら俺に声をかけてきた。
リリィは何やら手に握っているらしいが、それが何かまでは良く分からない。
「いくよーっ?」
リリィはそんな掛け声をかけると、思い切り自分の腕を振りかぶった。
その瞬間、リリィから何かが真っ直ぐ空に飛んでいった。
思わず目で追いかけると、それは既に遥か空高くにまで飛んでいて、だんだんと良く見えなくなってしまっている。
「……」
俺はその様子を唖然としたまま見上げている。
しばらくそのまま見上げていると、今しがたリリィが投げたソレが、だんだんと落下してきた。
「……っと」
それからまた少し経つと、物凄い勢いで落下してきたソレを、リリィが軽々と受け止める。
「すごいでしょーっ!?」
驚いている俺に対して、リリィがたった今受け止めたらしいソレを見せてきた。
リリィの手の中にあるソレは、どうやら唯の少し大きめな石だったようだ。
「……」
そんな俺にリリイが感想を求めてくるが、正直俺は全く別のことを考えていた。
…………これなら、これなら―――空を飛べるんじゃないか?
俺は今、その考えだけに頭を支配されていた。
今まで思いつかなかったが、リリィの力を以てすれば、きっと空を飛べる。
ドラゴンに遭遇した時に、少しだけ空を飛んだような気がするが、実際はあれは吹き飛ばされただけだ。
その考えに行き着いた俺は、リリィに詰め寄る。
「なぁ、リリィ、俺に―――空を飛ばさせてくれ」
俺は、リリィの小さな手を握り締めながら、そう呟いた。
「ん、べつにいいよー?」
そんな俺に首をかしげながらリリィは了解の意を示してくれた。
そのことに俺は心の中で喜びを噛み締めている。
「じゃあ、いくよーっ!?」
俺は今、リリィによって身体を持ち上げられていた。
やはりリリィの力は凄まじく、俺の身体を軽々と持ち上げている。
「―――ぇいっ!!」
次の瞬間、リリィが俺を投げ飛ばした。
「―――ぇ」
真上ではなく―――斜めに。
てっきり俺はさっきと同じように真上に投げてくれると思っていたので、まさか斜めに投げられるとは思わなかった。
リリィに投げられた俺は、物凄い速さで空中を進んでいる。
そんな俺は、投げられたあとしばらく経ってからようやく自分の今の状態を理解することができた。
……これ、死ぬっっ!!
俺は顔にあたる風を我慢しながら、ゆっくりと目を開けて下を向く。
地面は遥か遠くのところにあり、しかも俺はどんどんとその地面に向かって落下を始めてしまっている。
「ひ、ひ、ヒーッル!」
これは、回復魔法を使わないと本当にマズイ。
その間にも俺と地面の距離はかなり縮まってきている。
「ヒールゥヒぃールひーるひぃーるっヒィルゥゥゥ!!!」
そして、俺は地面に落ちてしまう瞬間まで、回復魔法を使い続けたと思うが、あまりの怖さに俺は意識を手放した。
あとになってから、何故か無傷のまま泡を吹いている俺をリリィが馬車まで抱えてきたということを、聞いちゃった……。