今日、家を買います。
pv、ブクマありがとうございます。
ギルドでの仕事を始めてから数ヶ月経った。
最近では、ギルドのおっちゃんたちだけではなく、街の娘さんとかも来てくれるようになった。
どうやらクチコミで広がっているらしい。
そのお陰かこの街ではある程度知られるようになり、いろいろなところでサービスもしてもらえるようになった。
アウラ達とも大分打ち解けて、最近では自分でいうのもなんだが尻に敷かれている気がする。
そして今俺は重大な問題にぶち当たっていた。
「なぁ、前々から言おうとは思ってたんだけど……、」
「ん、なによ?」
テーブルの向かいの席からアウラが聞いてくる。
「部屋が狭い。」
そう、俺たちの生活で決定的に不足しているのが衣食住のうちの住だ。人数が増えた分の宿代は嵩むわ、ベッドでは寝られないわで、大変なことになっている。
「だから…………
…………今日、家を買います。」
「え、今日買うの!?」
「実は、不動産屋にはもう話をつけてるんだ。それで、最後にアウラたちに見てもらってから決めようと思って。」
「で、でもお金は……?」
心配そうに見つめてくるトルエの頭を撫でる。
「そんなの余裕だったぜ!!」
本当に余裕だった。どうやら俺たちの治療が思った以上の稼ぎだったらしく、家を買ってもまだまだ手元に残るくらいだった。
「わぁーい!!新しいおうちぃ!!」
リリィはどうやら満足しているみたいだった。
そういう訳で、今俺たちは件の家の前にいる。
「え、これデカくない!?」
アウラが言いたいことはよく分かる。だってこれ元貴族様の御家らしいもん。
「うーん。お金もかなり余裕があったし、この家でいいとかなと思ったんだけど、どうかな。」
「そんなの、あなたは私たちのご主人様なんだから、ネストがここで良いっていうんだったら私たちは何も言わないわ。」
アウラの言葉に二人もウンウン、と頷いている。
「それなら、いつもそうしてくれたら良いんだけど……。」
「それは別よ。自分のご主人様が恥ずかしくないようにしっかり見張っとかないと。」
「みはっとかないと!」
アウラにリリィまでもが同調する。よく見たらトルエまでもが静かに頷いている。
どうやらこの場に俺の味方はいないらしい……。
購入するという旨を不動産屋に告げ、俺たちは宿屋に戻る。入居できるのは来週からでその間に汚れているところを片付けてくれるらしい。
今までお世話になったこの宿と離れるのは心に思うところがないわけではない。
田舎者の俺をたくさん世話してくれた優しい宿屋のおばちゃん。
おいしい料理を振舞ってくれるおっちゃん。
そして看板娘のかわいこちゃん。
「おばちゃんたち。俺、家買ったから宿屋を出ていくことになったよ……。」
「おう、もう出て行っちゃうのかい。なら今日は送別会だね!」
宿屋を出て行く俺のために早くお店で送別会をしてもらうことになった。
「飲め飲め!今日は俺のおごりだ!」
がっはっは、と笑いながら俺の背中を叩いてくるおっちゃん。痛いのは我慢だ……!
「それで、いつ新しい家に行くんだい?」
「えっと、来週、かな?」
「そうかい、もっと居てもらいたかったんだけどね。寂しくなるよ。」
その日は朝までみんなで騒ぎまくった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私は宿屋の看板娘。
ある日うちの宿屋に私と同じくらいの男の人がやって来た。どうやら田舎の村からこちらに仕事を探しに来たらしい。
彼はアネストさんというらしい。
アネストさんとは、たまに食堂で会うくらいしかなかったのだが、いつだったか私がミスをして手を少し切ってしまった。
するとそのアネストさんがやって来てなんと私の怪我を治してくれた。どうやら回復魔法を使えるようだった。
それからというもの、私が怪我をしているのを見るとすぐに治してくれるようになった。
けど、とうとうアネストさんが宿屋を出ていくことになった。
やはり寂しくなると思う。
送別会でみんなと談笑している彼を見ると顔が熱くなるのが分かる。
けど、私は宿屋の娘。一期一会なのは当たり前。
そしてアネストさんは宿屋を出て行った。
その日は一日中泣いた。お母さんは何も言わなかった。
それから少し経って私は宿屋のおつかいで市場に来ていた。
そこにはなんとアネストさんがいた。
「アネストさんお久しぶりです!こんなところでどうしたんですか、もしかしてまた宿に泊まりに?」
もしそうだとしたら、今度こそはこの想いを伝えよう。それが叶わないものだとしても……。
「え?いや、俺この近くに住んでるから……?親父さん達には言っておいたんだけど、もしかして知らなかった?」
な、なんということだ。お母さんたちはこのことを知っていたのか!
今、私はどんな顔をしているんだろうか。どんどん顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。
「ご、ごめんなさいぃぃぃぃ……!!!」
その日は一日布団をかぶり続けた。