08.反乱と真相
「さすが第二王女の伴侶でしたね。俺、途中で何度も死にそうになりましたよ。」
「ああ、俺もだ。」
ヒューは第二王女の伴侶であるジェームズの墓を前に考え深げに立っていた。
ジェームズの片翼は王宮に反乱を起こした見せしめとして切り落とされ城壁に晒されている。
もう一つの翼は死ぬ前にジェームズが残した遺言通り、ヒューが剣で切り落として第二王女が眠る場所に部下に命じて一緒に埋葬させた。
「大丈夫ですか、隊長。」
「ああ大丈夫だ。」
ヒューは死ぬ前にジェームズから二人の王女が反乱を起こした真相と今回の黒龍召喚が二人の王女にはできなかった理由を知らされた。
二人の王女は両方とも王子を身籠っていたらしい。
召喚は大量の魔力を使うので妊娠していては絶対に出来ない。
それにもし二人の王女がそのまま王子を生んでいれば、アン女王は数年で退位を余儀なくされただろう。
翼を持つものは数年で成人してしまうのだから。
だからそれを知ったアン女王は何度も彼女たちに刺客を送り込んだようだ。
そのせいで第三王女は刺客により流産してしまった。
そんこともあったためか、危険を察知した彼女は第二王女を逃がそうとアン女王に反乱を仕掛けたようだ。
しかし反乱は失敗に終わった。
結局、第二王女もお腹の子供ごと処刑され、気力の亡くなった伴侶はアン女王に囚われた。
これが真相のようだ。
この事実をメリルが知ったならきっと貴族ではない一般市民なら誰が王になろうと関係ないぞ。
平和に暮らせればいいだけだからなと、悲しい顔で言うだけだろう。
そうメリルなら彼女たち王女の境遇に同情はしても、反乱を起こしたことは非難する。
ヒューはジェームズの墓の前でそこまで考えると一年前の約束を守って貰うため、部隊を引き連れて王宮に向かった。
王宮に着くと宰相の父とアン女王に出迎えられた。
来る途中には市民が王宮に向かう通りにたくさん集まっていて、手を振ってヒューたちを出迎えてくれた。
よく見ると女王の隣には虚ろな目をした第二王女の伴侶と我が従兄がいた。
アン女王は優しい笑みを浮かべると褒賞としてヒューを将軍に任じた。
ヒューは黙ってアン女王の命に従った。
王宮に戻った夜、自分の実父である宰相の執務室を訪ねた。
「宰相、いい加減に下界に降りる許可をくれ。」
父は俺を振り向くと書類を放り投げた。
受け取って見るとそこには下界と翼の国を繋ぐ門の通行許可書が記されていた。
「わかっているのか、ヒュー。メリルはもう片翼だ。お前が行っても、こちらに連れて戻ることは出来んぞ。」
むっつりした表情した父がヒューを見ていた。
「俺が下界に住む。」
「それは翼を折るということだ。」
父の目が俺の金色に輝く翼を見た。
「俺の母が片翼で下界に落とされたらどう行動した?」
「自分の翼を折っても、後を追ったさ。」
父はこともなげに断言した。
「俺も同じだ。」
「そうだな。馬鹿なことを聞いた。」
父はそれ以上口を開かず、ヒューに袋を投げてよこした。
「これは?」
「下界で必要なものだ。」
父はそう言うと書類を片付ける為、机に目線を戻した。
ヒューは許可書と袋を持って扉に向かうと宰相室を後にした。