07.王女たちの伴侶
従兄との話が終わった後、ヒューとクリスの部隊は空の辺境地域で起こった紛争平定に駆り出された。
「いいのか、それで。」
リチャードの問いかけにヒューは頷いた。
ヒューは父の宰相に言われアン女王の翼の国における地盤強化に手を貸すことを了承した。
その代りにそれが終わり次第、地上に降りる許可を願い出たのだ。
ヒューは自分の副官を見た。
「いいのかクリス。お前は今願えば、すぐにでもジェシカに会いに行けるんだぞ。」
「今隊長を見捨ててジェシカに会いに行けば、あいつに俺が殺されますよ。なんでメリル様の為に隊長を連れて来なかったんだってね。」
クリスはヒューの顔を見て、大真面目に解説した。
確かにジェシカにとってメリルは恋人より大事な存在だ。
そう言われそうな・・・いや、確実に言われるな。
ヒューはそれ以上何もいわなかった。
黙り込んだヒューを見てクリスがボソッと呟いた。
「言っておきますけど俺にとってジェシカは、隊長より大事ですから。」
「なんだ急に。俺だってお前よりメリルの方が大事だ。」
ヒューはそう言って立ち上がると見張りの交代の為、火の傍を離れた。
高台に行くとひんやりした空気が辺りに漂っていた。
辺境は王宮と違いクリスタルがあまり使われていないので星が輝いて見える。
ふとこの星を今頃メリルも眺めているのだろうかと考えてしまい、少し物悲しくなった。
メリル。
明け方、短い仮眠を取った所で敵の陣に動きがあった。
クリスもテントから出て来てヒューの傍に来た。
相手は第三王女と一緒に反乱を起こした第二王女の伴侶だ。
第二王女と第三王女はアン女王により王宮で反乱の罪で処刑されていた。
それに抗議するために第二王女の伴侶が蜂起したのだ。
同じく反乱を起こした第三王女の伴侶は、アン女王の元にすでに投降していた。
黄色に輝く翼をもった第二王女の伴侶ジェームズが先頭に出て来てヒューに向かって叫んだ。
「お前なら恋人を失った私の気持ちを理解できるだろう。なぜ私の邪魔をする。お前の恋人も片翼になったというくだらない理由で天空より追放されたんじゃないのか?」
「俺の恋人のことはお前とは関係ない、ジェームズ。いいから剣を納めろ。俺が女王に口を聞いてやる。」
「冗談じゃない。私の愛する妻を殺した女のものになるなんて真っ平だ。それくらいなら剣で串刺しになる方がましだ。」
「わかったジェームズ。なら騎士学校のよしみで俺がお前に引導を渡してやる。」
「抜かせ。恋人も守れず。おめおめとその新犯人の元で働いているお前に私が殺されるものか。」
ヒューの顔が青冷めた。
ジェームズの言い分が正しい事はヒューもわかっていた。
だが貴族の義務として戦乱のままの国を捨てて恋人の後を追うことが出来なかったのだ。
「隊長。気にすると剣が鈍りますよ。」
クリスが心配して後ろから声をかけて来た。
「わかっている。大丈夫だ。」
ヒューはそれだけ言うと戦闘開始の号令を掛けた。
結局、戦闘はそれから一年近くも続いた。
一年後。
第二王女が治めていた領地の大半を戦いで焼け野原にしてから、やっと辺境の地を平定することができた。