05.女王と騎士
王宮に戻るとそこにはアン女王がいた。
なぜかアン女王はヒューを驚いた顔で凝視した。
「ヒュー、東方の討伐はどうしたの?」
「すでに終わりました。こちらで反乱が起こったと聞きましたので急遽戻ってきたところです。」
「そう。」
ヒューはアン女王を睨んだ。
彼女はヒューの視線をサラリと受け流す。
今にも何かが起きようとしていた時にヒューの父でありこの国の宰相が二人の間を遮るように現れた。
そして二人の間でのやり取りをものの見事に粉砕するとアン女王に話かけた。
「女王街で黒龍を見たものが大勢いたおかげでパニックになっています。急ぎそれを修めるためにも、街へお出ましください。」
「わかったわ。」
女王は宰相にそう言うと王の間を近衛兵を引きつれて去って行った。
ヒューは父を睨んだ。
そこに彼の従兄が現れた。
「話があるヒュー。ちょっと来てくれ。」
ヒューは頷きながら目の前にいる父に視線を投げると憎々しげに睨んでからその場を後にした。
「なんの話だ、リチャード。」
「俺が女王に言われてメリルたちを地上に連れていった。」
ヒューの拳がリチャードの鳩尾に入る。
「おい、少しは手加減してくれ。メリルは自分の異母兄が治める国に向かったはずだ。それと宰相に言われ地上に連れて行った時マッケンジー家に伝わる剣と当座のお金を渡した。」
ヒューはジッと従兄の話に耳を傾けた。
聞き終わると翼を広げ飛び立とうとして、リチャードに押さえ付けられた。
「なんで止める、リチャード。」
「よく聞け、ヒュー。メリルたちは黒龍の血を浴びたんだ。」
ヒューは目を見開いて従兄が言いたかったことに思い当たった。
「長寿か!」
竜の死ぬ間際の血を浴びると浴びたものの寿命はそれこそ倍以上に伸びる。
もともと翼を持つものの寿命は長い。
でも今までメリルは半分人間の血が流れていた為、寿命がヒューよりだいぶ短かかったのだ。
だがこれでメリルの寿命は・・・。
そこにいきなり隣に控えていたクリスが叫び声を上げた。
「うそだろ。じゃあ俺がよぼよぼになった最後の瞬間でも若いジェシカのムニムニの巨乳に・・・グフフ。」
二人は隣でニヤケ下がっているヒューの副官が今、何を想像しているかを察してげんなりした。
「クリス、竜の血を浴びても純血の翼を持つものの寿命は変わらんぞ。」
両翼の種族で竜の血を浴びた時の特徴と言えば、肉体がかなり強固になることくらいだろうか。
賢明にも二人はその事をクリスには告げなかった。
「あいつが今の言葉を言ったら、ジェシカに潰されるな。」
ヒューはニヤケ下がっているクリスを見た。
「ああ、やられるな。」
ヒューとリチャードは将来起こるクリスの不幸を思って面白半分で黙っていることにした。