04.真犯人
ヒューを先頭にクリスたちが王宮に着いた時には全てが終わっていた。
慌てて医務室に駆けつけるがそこには誰もいなかった。
どういうことだ。
念の為、王宮の隅々まで感知能力で探査したがどこにもメリルの姿はなかった。
「メリル!」
ヒューの姿に気がついたベイツが彼らの傍にやってきて、かなり前に起こった近衛兵と二人のやり取りを話した。
「なんだと治療もそこそこに二人を地上に・・・。」
クリスがヒューの隣で聞いていて思わずベイツの胸ぐらを締め上げていた。
「ク・・・クリス副隊長、俺がやったわけじゃ。」
クリスは慌ててベイツを放した。
「す・・・すまん。」
「いえ、俺こそ何の役にも立ちませんでした。」
ベイツがベッドの上で項垂れた。
そこにヒューの従兄のリチャードが医務室の扉を開けて現れた。
ヒューは物凄い顔で従兄のリチャードに向かって行った。
「どういうことだ。」
ヒューがリチャードを睨む。
「俺が反乱を聞いてここに駆けつけるとすでに黒龍討伐のうわさ話が広がっていて、俺たち近衛にはアン女王の命令書が届けられていたんだ。それも署名付きで。」
ヒューの目がピクリと動いた。
手も剣の鞘に置かれている。
「黒龍はまだそのまま黒の森に置いてある。まずそっちを見て来い。」
リチャードに促され、ヒューはメリルが戦った黒の森に向かった。
森は魔法で大暴れした後がありありとわかるほど、無残に破壊されつくしていた。
ちょうど街の間際に黒龍が倒れていた。
ヒューの後ろにはいつの間について来たのかクリスもいた。
「すごいありさまですね。」
ヒューは黒龍の口に咥えられたメリルの片翼を見つけた。
持っていた剣を抜くと一閃して黒龍の頭を真っ二つにした。
黒龍の頭を蹴り倒してメリルの翼を腕に抱きしめる。
メリル、なんで俺を待っていなかった。
噛み砕かれてボロボロになった翼を抱きしめながらヒューはしばらくその場に蹲っていた。
かなり立ってからクリスが後ろから声をかけて来た。
「どうする気ですか、隊長?」
「お前はどうするつもりだ。」
質問してきたクリスにヒューも質問で返した。
「俺ですか。当然、ジェシカを罠にかけた奴らをどうにかしてから後を追いますよ。」
クリスは地面を強く蹴って怒りでイライラしながらもそう答えた。
「お前だけ、先に二人を追え。」
クリスの言葉にヒューが無情な命令を下した。
「そりゃあないでしょ隊長。相手は黒龍を呼び出せるんですよ。いくら隊長でも一人じゃあ、荷が重すぎますよ。それにそのまま何もせずにジェシカの後を追っかけようものなら、俺が彼女に八つ裂きにされちまう。ここはカッコよく敵を倒してから追わないと。」
「分かっているのか、ここと地上では時間の流れが違うんだぞ。」
「隊長こそ、いいんですか。迎えにいったらメリル隊長がばあさんになってたんじゃあ報われませんよ。」
「お前に言われたくない。」
「本当のことでしょ。」
二人はそれからお互いを罵りながら黒の森を後にすると王宮に向かった。