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濡れ羽色に輝く片翼の戦士  作者: しゃもん
第二章 下界
36/40

36.非常識

 ひとしきり抱き合った二人がじっとこちらを見ている彼らの存在にやっと気がついた。

「状況を教えてくれ。」

ヒューとクリスはこれまでの経過をメリルから聞くことができた。


「ヒュー?」

 メリルの肩を抱き寄せたヒューが彼女の髪に手を絡ませながらキスをした。

「まずメリルとジェシカの結界魔法が効かなかったということからも、たぶん向こうが持っているのは天上界関係の何かだろう。」


「やっぱりそうよね。」

 メリルは抱き寄せられたヒューの腰に手を回した。

「でもそうなると厄介ですね。」

 クリスが持ってきた食料を食べながらジェシカの尻に手を這わせようとして叩かれていた。


 ヒューはしばらく考えた後もう一度メリルに魔物と黒い靄が襲ってきた方角を確認した。

「辺境の砦か。」

 彼は持ってきた酒を喉に流し込むと彼女に問いかけた。


「砦を壊していいかメリル。」

 メリルは目を見開いた後頷いた。


 ヒューはメリルの了承の後ジェシカに抱き付こうとして拒否られているクリスに目を向けた。

「クリス砦を崩壊させるのにかかる時間は?」

 クリスは目をグルリと回した後一時間と答えた。

「30分でやってくれ。」

「無茶いいますね。」


「ジェシカにいいところを見せられるぞ。」

「分かりました。それなら30分で。」

 言い切ったクリスを見てジェシカが慌てて突っ込みを入れた。

「クリス出来ないなら出来ない・・・。」

「出来たらご褒美をくれるよね、ジェシカ。」

 クリスのご褒美発言にジェシカはごくりと生唾を飲み込むと

「本当に出来たら考え・・・。」


「ありがとうジェシカ。俺、頑張るよ。」

 クリスはジェシカの手をしっかりと握ると彼女に最後まで言わせずに頬にキスをした。

「クリス!」

 ヒューはイチャつく二人を無視して、いつの間にかメリルと一緒に馬に乗っていた。

 クリスも慌ててジェシカを抱えると同じように馬に乗った。

 

 二人は目線をかわすとそのまま辺境の砦に馬を走らせた。

 しばらく馬を走らすと前方に黒い靄が立ち上る辺境の砦が見えてきた。


「これは酷い。」

 ヒューが手前で馬を止めると鞍から降りた。

 クリスも同じように馬を降る。


「ヒュー。」

 メリルが心配そうに馬上から彼を見た。

「大丈夫だ。メリルはここにいてくれ。」

「ジェシカもね。」

 ヒューとクリスは魔力を練りながらそのまま徒歩で砦に近づいた。


 彼らが近づいた途端、砦からは黒い靄が浮かび上がり一斉にそれらが飛んできた。

 ヒューが腕を上げてそれを聖魔法で打ち消すとクリスが砦に向けいきなり水魔法を放った。

 砦の城壁がクリスの魔法攻撃を受けて崩れた。

 次々にクリスは同じ魔法を砦に向け連続で放つ。

 それに伴い砦の城壁が徐々に崩壊していき、むき出しの砦から兵士が雪崩れのように外に飛び出してきた。


 それをヒューが聖魔法を放って次々に消し去った。


 二人が交互に魔法を放ちモウモウとした煙と黒い靄が消えた所で、崩れた砦から禍々しいオーラを放つ剣を携えた一人の男が現れた。


「誰だ。我の邪魔をするのは?」

 男の掲げた剣から禍々しい声が響いてきた。


 ヒューは手を上にあげると複雑な文様を描いた魔方陣を浮かび上がらせると剣に向けそれを放った。

 魔方陣から放たれた白い光は剣の周囲を覆うように発光すると黒い靄と混ざり合い渦を巻いた。


 剣からは断続的な苦悶の声があがった。


 ヒューはさらに複雑な文様を描いた魔方陣を二重に浮かび上がらせると今度は同じ白魔法を連続で放った。

 放たれた魔法で黒い靄はまっ白く光り剣が男の手からボロボロと崩れ最後は粉になって消し飛んだ。


 その途端、剣を持っていた男はビクンと体を震わせると糸が切れた人形のようにその場に頽れた。

 周囲の土埃と黒い靄がおさまった後には、崩れた砦の残骸と所々に人の形をした黒い死体が散らばっていた。


「ヒュー!」

 メリルが馬に乗って駆けつけた。

 ヒューに近づくと馬から飛び降りてそのまま抱き付いた。

「けがは?」

「大丈夫だ。」

 ヒューはそう言うとメリルを抱きしめて口づけを交わす。


 二人の傍ではご褒美を強請ったクリスがジェシカに押し退けられていた。

「ひどいなぁジェシカ。さっき約束したろ。」

 ジェシカは抱き付いてくるクリスを彼の顔を手で遠ざけながら、くっつくなと盛大に文句を垂れていた。

「そう言うのは太陽が昇っているときにすることじゃない。」

「じゃ夜ならいいんだな、ジェシカ。」


 ぐっ


 言い返せなくてジェシカは黙った。


 そこに複数の馬の足音が響いて振り向くとサラたちが駆けつけてきた。

 駆けつけた彼らが前方を見た途端、奇妙な叫び声が全員から上がった。


 ギャーし・・・ろ・・・。


 ウギャアー瓦礫ィー。


 悪夢だぁー。


 全員が信じられない思いで前方を凝視した。

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