33.最悪
メリルは砦周辺の地図を頭に入れているとそこに選抜から戻ってきたジェシアが現れたので食事にした。
なぜか後から現れたワイドもジェシカの隣に座ると一緒に食べ始めた。
三人が無言で食事を終えるとジェシカがどこから持って来たのか酒瓶を出すと、すぐに口を開けてメリルに渡してくれた。
「珍しいな。どうしたんだ、これ?」
メリルは隣にいるワイドを指差した。
「いやぁーだって誰もいないんですよ。もったいないじゃないですか。」
ワイドはそう言うと腰に下げていた魔法の袋からもう一本酒瓶を取り出した。
すかさずそれはジェシカに没収された。
「ちょっ・・・ひでぇー。普通、部下から捕らないでしょ。」
「まだあるんだから文句をいうな。それにメリル様に懇願して残してもらったんだろ。なら酒の一本や二本で文句をいうのはおかしいぞ。」
「それ将軍に言われたんなら納得するんですけど副・・・。」
「なにか?」
ジェシカの一睨みにワイドは黙ってもう一本魔法の袋から酒瓶を出すと蓋を開けて飲み出した。
「うめぇー生き返る。」
上手そうにごくごく飲むワイドにメリルは一応釘を刺した。
「ワイド一本にしとけよ。」
「わかってますよ。それより将軍。」
ワイドの声にメリルは酒瓶をすぐ傍にある石の上に置くと彼の顔を見た。
「言いたかないが間違いなく斥候に出した男は戻ってきませんよ。どうするつもりですか?」
「なんでそう言いきれるんだ?」
「俺が斥候に出した男らは馬の扱いも上手だし土地勘もある。それなのにこんなに時間がかかるわけがないからですよ。」
「ワイドもそう思うか。」
ワイドは無言で肯定した。
「どうするつもりなんですか?」
メリルは先程見ていた砦の地図を二人に見せた。
そして地図を指さしながら今いるところから砦、そして王都までの道をなぞった。
「なにをするつもりなんですかメリル様。」
ジェシカが怖い顔でメリルに迫ってきた。
「今の道をたどって砦に潜入し、中の様子を探ってから王都に戻る。」
「「無謀です。」」
二人は声を揃えてメリルを止めた。
「私とジェシカの魔法があれば問題ない。」
「メリル様。」
ジェシカはメリルに頼られ天にも昇る気持ちになった。
「ちょっ・・・ちょっと待って下さい。それじゃ俺は何をするんですか?」
二人が同時にワイドを見た。
「「囮だ。」」
非常な言葉が上司から下された。
そんなぁー
ワイドはガックリ肩を落とした。
「まあそう悲しむな。アイリーンならお前がメリル様の為に囮をやったなんて知ったら狂喜乱舞してくれるぞ。」
ワイドはジェシカを見た。
確かに将軍命の妻なら小躍りして喜びそうだ。
だがそれでもなんだか男としてスッキリしない。
そこにメリルから厳しい命令が下った。
「ワイドわかっていると思うが、どんな傷を負っても生きて帰ることを忘れるなよ。」
ワイドは将軍の命令に無言で頷いた。
三人はその後すぐに解散して寝床に入った。
明日が正念場だ。
体を休めなくては。
メリルはそう考えて早々とテントに入ると横になった。
三人が寝入ってしばらくするとメリルは今まで下界では一度も感じたことのない魔力に飛び起きた。
「ジェシカ起きろ!」
メリルは傍に置いてあった愛刀を手にするとテントの外に走り出た。
メリルの声にジェシカも慌てて剣を手に後から出てきた。
「これは・・・。」
周囲はいつも間にか敵兵に囲まれていた。
そんな馬鹿な。
ここにはメリル様と二人で張った強固な結界があるのに、なんでそれが反応しなかったの。
下界の人間に天上界の結界を解くことが出来る訳がない・・・。
まさか・・・天上界の・・・。
「ジェシカ考えるのは後だ。来るぞ。」
自分達の部下を起こしたかったがその時間さえない。
二人は生き残るために目の前の敵を見据えた。
敵兵は一斉に自分達に襲いかかってきた。
あちらこちらで兵の悲鳴があがっていた。
しかしこの数の敵がいては助けることも出来ない。
二人は唇を噛みしめながら背中合わせになって剣を振るった。
腕が痺れてきたが敵が怯む様子はなかった。
二人とも体力が限界になって来た時にそれは現れた。
真っ黒で人の姿をしていないそれは、メリル様に向かって黒い靄を放った。
それがメリルに向かって来たのを見たジェシカは水魔法を使って防御壁を二人の周囲に張り巡らせた。
「ジェシカ。」
防護壁に阻まれ黒い靄は、それ以上二人に近づけなかった。
「メリル様、ここなら安全です。」
「待て、ジェシカ。そんな大量な魔力をどうやって・・・。」
メリルの言葉が途中で止まった。
ジェシカの背中から飛び出した翼から防護壁に向け淡い光が注がれていたのだ。
「ジェシカやめろ。お前の翼が・・・。」
「これを解除すれば二人とも殺されますから。少し黙ってて下さい。」
ジェシカは苦しそうな笑顔をメリルに向けた。
メリルはただ黙ってそんなジェシカを見つめていた。
ヒュー頼む助けてくれ!
メリルは心の中で叫んでいた。




