32.いやな予感
待ち合わせ場所に戻るとそこにはすでに一番隊隊長のワイドがいた。
「どうだった?」
「人どころか生き物の気配もありませんでした。」
「そっちもか。」
メリルはもう一度村を見てからワイドを連れて村の近くにいる部隊に戻った。
「メリル様。」
ジェシカがメリルの姿を見つけて駆け寄って来た。
「いかがでしたか。」
メリルは首を横に振った。
いきなり最悪のパターンに遭遇とは今回は運がないようだ。
「そういえば斥候に出したものは戻ってきたか?」
メリルの質問に今度はジェシカが首を横に振った。
彼女の曇った顔にジェシカは慌ててフォローした。
「でもまだ昼前です。夕暮れまで待って見れば・・・。」
ジェシカの意見を聞きながらもメリルは違うことを考えていた。
このままここで様子を見たほうがいいのか?
それとも明日には砦に攻撃を掛けた方がいいのか?
ここで様子を見ていてもたぶん砦がどういう状態かは斥候に出したものが帰って来ない限りわからないだろう。
「取り敢えず明日の朝までここで野営する。もし斥候が明日になっても戻って来なかった場合はここで待機だ。」
メリルの意外な命令にジェシカとワイドは思わず目を見合わせた。
「明日攻撃しないんですか?」
ワイドの疑問にメリルは彼を見ると自分の考えを話した。
「どうも嫌な感じがしてしょうがないんだ。だから明日まで待って斥候が戻らなかった場合は、隊を二つに分けて一隊を王都に戻しもう一隊をここで待機させる。」
「「メリル(将軍)様。」」
二人はメリルのビックリ発言に固まった。
あのメリル様が攻撃しないで撤退ってどう・・・。
将軍が攻撃せずに撤退指示!
二人の驚愕な顔を見てメリルは笑みを浮かべた。
「私が今まで生き残ってこれたのは直観を信じたからだ。」
メリルの言葉にジェシカはハッとした。
そう言えば天上界で戦になった時もこのメリルの閃きに何度も部隊は助けられた。
「畏まりました。」
ジェシカは頷くとすぐに王都に戻す隊を選別に向かった。
その隣でまだワイドは固まっていた。
「ワイド。お前もジェシカを手伝え。」
ハッと我に返ったワイドはメリルに喰ってかかった。
「将軍まさかと思いますがその撤退部隊の指揮を俺にしようとか思ってませんよね。」
ワイドがメリルに顔を近づけると念を押した。
「いや考えている。」
ワイドは顔を真っ赤にするとメリルに迫った。
「なな・・・なんでですか?」
「戦闘中ではないとはいえ撤退は難しい。兵の士気を保ったまま王都まで連れ戻すのは他の騎士では難しいだろう。」
メリルは淡々とワイドに説明した。
「一番隊の副隊長なら難しくありませんよ。」
「ワイド!」
「俺が残ればこっちに残す人数をもっと減らせますよ。」
「お前は妻帯したばかりだ。」
「俺の嫁は将軍に命を救われました。それなのにその将軍を敵地に置いて生きて帰れば、逆に嫁に殺されます。」
「いやそれは・・・。」
メリルは否定しようとして口を噤んだ。
確かにワイドの妻ならやりそうだ。
メリルは大きな溜息をつくと諦め顔で口を開いた。
「わかった。ならなおさらお前が行って王都に戻す部隊を選別しろ。」
ワイドは嬉しそうな顔で頷くと走って行った。
メリルはそんなワイドの背中を悲痛な目で見送った。
こんな感じがするときは必ず死人が出るんだ。
それもかなり多数の・・・。
メリルは一旦テントに戻ると砦の地図を持って来てテーブルの上に広げた。




