30.敵国の砦
三日後。
第二王子とボネヴィルは守備隊を率いて国境沿いにある敵国の砦を襲撃した。
当然警戒していた敵国の砦からは飛龍が飛び出して、彼らが率いている軍に襲いかかってきた。
「ベネディクト王子。来ました。」
前もってボネヴィルから聞いていた飛龍が第二王子であるベネディクトのすぐ近くに現れた。
「心配するな、ボネヴィル。」
ベネディクト王子は腰に下げていた剣を鞘から抜くと天に向けてそれを掲げた。
途端。
黒い靄が目の前に現れた飛龍に絡みついた。
すると今まで力強く空を飛んでいた飛龍が次々に地面に落下して行った。
「すごい。」
思わずボネヴィルは口を大きく開けて飛龍が次々に落下していくの呆然と眺めた。
「ボネヴィル、呆けるな。すぐ砦に攻撃を仕掛けるぞ。」
ベネディクト王子の声に反応して人形のように無表情な兵士が無言で砦に突進して行った。
「おい。敵が攻めてくるぞ。障壁の上から矢を放て!」
隊長の命令で砦にいた兵士たちが一斉に弓に矢をつがえるとそれを敵兵に射かけた。
しかし、雨あられのように降り注いだ矢でハリネズミのようになって倒れた敵兵は、人形のような動きで再び起き上がると次々に砦に向けて動き始めた。
そして、無言で障壁に手を掛けると手の指を真っ赤に染めながら壁をよじ登ってきた。
ヒッ。
来るなバケモノ!
その異様な姿に砦にいた兵は腰が引け顔を真っ青にして後ずさった。
完全に不利な状況にもかかわらずそれを見た砦の大将は直属の部下を連れて城壁から出てくるとベネディクト王子に斬りかかった。
ベネディクト王子は余裕で躱すと禍々しいオーラでドズ黒く輝いた剣を敵の大将に向け振りかざしそのまま斬って捨てた。
一瞬で斬殺された大将を見た他の兵は唖然とした。
すぐに背を向けるとバラバラに逃げ出した。
ウッワァー
ベネディクト王子はそれを見てニタリと笑うと周囲にいた人形のように無表情な兵士に逃げていく兵を殺すように命令した。
命令された無表情な兵士は剣を掲げると逃げていく敵の兵士を追いかけて、次々に斬り殺していった。
アッと言う間に周囲が真っ赤に染まった。
ボネヴィルが気がついた時には砦の周囲には生きた人間が自分とベネディクト王子しかいないような静まり返った状態になっていた。
「ベネディクト王子!」
ボネヴィルは焦って隣で馬に跨っている第二王子に声をかけた。
「なんだボネヴィル。」
ボネヴィルは自分で声をかけたくせに逆に第二王子に声をかけられ非常にドキドキしながら現状を説明した。
「ベネディクト王子!それ以上殺すと交換する人質がいなくなります。」
ボネヴィルの真剣な顔に第二王子は驚いた。
彼なら”敵は全員皆殺しだ”と喚くと思っていたのに意外な言葉に呆気にとられた。
とはいえ全員を殺せば逆に敵の将軍が出て来なくなる可能がある。
第二王子は自分の隣で青ざめた顔を向けてくるボネヴィルにゾッとするような微笑みを見せると馬を敵の砦に向けた。
「わかったボネヴィル。とりあえず敵の砦に入ろう。」
二人はそろって砦に馬を向けた。
頑丈な砦の門を潜って砦の中に入ると広場には累々たる屍がそこかしこに散乱していた。
第二王子は後ろからついてきた兵士に死体を砦の外に運ぶように命令すると、広場から中央にある建物に入った。
一・二階部分は乱戦のため滅茶苦茶だった。
第二王子は階段で五階まで上がると一番りっぱな扉を開けた。
さすがにそこは整然とした状態だった。
第二王子は満足した顔で部屋を見回して頷くとここまで二人についてきた兵士に建物の中に潜んでいる敵がいないかどうかを確認し、生きているものがいれば地下牢に入れるように命令した。
命令を受けた兵士は頷くでもなく何の反応も見せずに消えた。
「ボネヴィルここを作戦室にするぞ。もうすぐ後続隊がつくだろうから食事の準備が出来たら、ここに運んでくれ。」
「畏まりました。」
ボネヴィルが礼をして部屋から下がろうとすると第二王子に呼び止められた。
「それと敵国の使者かもしくは敵の軍が現れたらすぐに知らせてくれ。」
ボネヴィルは再び礼をすると部屋から下がった。
第二王子といい自国軍の兵士の様子といい、彼は薄ら寒い思いで身震いするともうすぐ到着するであろう後続隊を砦に入れる為、下に向かった。
その頃、砦の外ではかなり深い傷を負いながらも命の助かった若い兵士が自分の飛龍を励ましながら王都に向かって飛んでいた。
もう少し頑張ってくれ。
王都はもうすぐだ。
早くこのことを王都にいる将軍に知らせるんだ。
若い兵士は飛龍の背で血まみれになりながら王都を目指した。
面白い。
禍々しいオーラを纏った剣は人間ならニヤリとした声で呟いた。
どうした?
第二王子は自分の腰に下げている剣から聞こえた声に訝しげに尋ねた。
わが主はなかなかどうして賢いと思っただけだ。
第二王子は”なにを言っているんだこの剣は?”と思いながら部屋で見つけた酒を飲みながら暗い空を何とはなしに見つめていた。




