03.黒魔法対決
メリルたちが現場である黒い森に到着すると、そこには黒い鱗に覆われた龍が暴れまわっていた。
「よりにもよって、黒龍か!」
思わずメリルの口から罵り声が上がった。
「メリル様、ヒュー様が戻って来るまで待った方が・・・。」
「是非とも待ちたいが黒龍がいる目の前が街だ。どうにかするしかない。」
メリルは溜息をつきながらも、息を吐いて魔力を体に行き渡らせると無駄とは思いながら、黒龍に黒魔法を放った。
案の定、メリルが放った魔法は呆気なく破られた。
「まっ、仕方ないか。」
メリルが持っている魔法は黒の魔法だ。
黒魔法最強の黒龍にメリルが持っている魔法は全く効かない。
「メリル様。私が魔法攻撃をします。」
ジェシカは土魔法を持っている。
まだメリルの魔法より効果は期待できはずだ。
「頼む。」
メリルはそう言うと剣を抜いた。
こうなれば、ジェシカに魔法を放ってもらい黒龍の隙を突いて剣で止めを刺すしかない。
ジェシカが土魔法で黒龍の身動きを封じたのを機に、メリルは剣を黒龍の目に刺した。
黒龍が咆哮した。
メリルの体に黒龍の血が大量に降りかかった。
途端、ヌルついた血がメリルの顔を直撃し、黒龍の動きを追えなくなる。
まずい。
逆に黒龍は咆哮を上げるとメリルの翼を怒り狂った牙で捉えた。
メリルの手から剣が離れ、体は黒龍の牙で捕らわれた翼ごと宙に舞った。
そして黒龍はさらに声高く咆哮を上げながら、メリルの翼を噛み砕いた。
ガキーン、グチャ。
全身に激痛が走り、手から剣が離れた。
黒龍はさらにそのままメリルの片翼を食いちぎった。
ウワッー
メリルが苦悶の呻き声を上げた瞬間、飛翔する力が失われ落下する。
黒龍はそのまま今度はブレスを吐くがジェシカが放った砂塵で黒龍のもう片方の目も、一瞬視力を失い、辛くもブレスの一撃は免れた。
「ジェシカ、私を黒龍の上に飛ばせ!」
ジェシカはメリルの命令に、躊躇なく風を起こして彼女を頭上に飛ばす。
それと同時に視力が戻った黒龍の気を引くために、もう一度、土魔法で動きを止めた。
途端、黒龍からブレスを食らう。
慌てて土魔法で防壁を築くが轟音と共に、背中から地面に叩き付けられた。
意識を失いそうになりながらも頭上を振り仰ぐと、メリルは先程手から離れた剣を拾うと、今度は首筋についた傷口目がけて、その剣を振り下ろした。
そして、剣を黒龍の体に突き刺すとそれを通して龍の体内に魔力を放つ。
黒龍といえども、固い鱗の中は普通の肉体だ。
身もだえながらメリルを引き剥がそうと大暴れした。
メリルは渾身の力を込めて、何度も黒魔法を黒龍に送り続けるとそのまま気を失った。
ジェシカが気がつくと黒龍が地面に倒れ伏していた。
慌てて隊長であるメリルを捜す。
メリルは黒龍の血だまりの中に横たわっていた。
彼女は慌ててその血だまりの中に入るとメリルを助け起こした。
「メリル様?」
ジェシカは自分も黒龍の血で真っ赤になりながらもメリルに治癒の魔法をかけ続けた。
少しするとメリルの目がうっすらと開く。
「ジェシカ?」
「メリル様、大丈夫ですか?」
「ああ、どうやら生きているみたいだ。ジェシカ、お前は大丈夫か?」
「はい、私も生きています。」
二人は城から駆けつけた守備隊によってその場で応急処置を受けると反乱を鎮圧した王宮に運ばれた。
二時間後、駆けつけた医師により二人は治療を受けるもメリルの片翼は黒龍に食いちぎられて元には戻らなかった。
「メリル様、あなた様の翼は、もう・・・。」
「そうか。」
メリルは一瞬、目を瞑る。
黒龍に噛み砕かれた時に覚悟はしていた。
今さらだ。
そう思った時、救護室に近衛兵の一団が現れた。
救護室がざわついた。
途端、メリルは彼らに取り囲まれた。
「メリル様、翼を失ったあなたをここに置いてはおけません。」
守備隊の団員であるベイツが近衛兵に喰ってかかった。
「お前たち、誰のお蔭で、今、ここにいられると思っているんだ。まだケガも治っていないメリル隊長を追放するだと。」
ベイツの抗議に近衛兵の一人が命令書を見せた。
「アン女王の署名だ。」
メリルは目を見開いてその命令書を見た。
そして、先程あった反乱を起こした第三王女の言葉を思い出した。
今にあなたも私のようにすべてを奪われるわよ、メリル。
そうか、そう言うことだったのか。
だから黒の森に黒龍が・・・。
メリルはこの時になって やっとアン女王に嵌められたことに気がついた。
だがそれも今更だな。
もう遅い。
「わかった。行こう。」
メリルの返事にベイツが目を剥いた。
「ですが隊長。」
「命令書には女王の署名があるんだ。これは覆らん。すまんが手を貸してくれ、ベイツ。」
「隊長。」
ベイツは隊長を助け起こした。
近衛兵の一人が腕を差し出す。
メリルはその腕を借りて起き上がった。
「メリル様、私も行きます。」
「ジェシカ、お前は治療すれば、まだ飛べる。」
「私は隊長が行くところに行きます。」
「ダメだ。」
「なら、ここで羽を引きちぎります。」
ジェシカは翼に手をかけた。
「やめろ、ジェシカ。」
ジェシカはメリルの目を見た。
メリルは大きな溜息をつくと、
「好きにしろ。」
そう言うと歩き出した。
二人は近衛兵に囲まれて地上に降ろされた。
ジェシカに支えられながら行こうとすると、近衛兵の一人に呼び止められた。
そのものは一振りの剣と小さな袋を二人に渡した。
「これは?」
「マッケンジー家に伝わる剣と当座のお金です。」
「なんでお前がこれを・・・。」
「叔父に渡すように言付かりました。私はヒューの従兄弟です。」
「そうか、なら・・・。」
「あいつなら追いかけて来ますから、直接やつに言って下さい。」
「・・・。」
メリルは何もいえずに黙り込んだ。
「おい、マッケンジー。置いていくぞ。」
ヒューの従兄弟は振り返らずに戻っていった。
メリルは剣を腰にさすとジェシカの手を借りてヨロヨロと近くの村に向かって歩き出した。