26.天空にある翼の国
アンはヒューが下界に降りてからすぐに、彼の実父である宰相に捕まり、毎日夜遅くまで執務室に監禁された。
やっと執務を終えて部屋の外に出ると日もどっぷり暮れて夜になっていた。
アンはぐったりした体を引きづりながら部屋を出ると、すぐに城にある宝物殿に向かった。
宝物殿にいくと重い扉の前を王宮にいる近衛兵が監視していた。
「アン女王。」
宝物殿の前にいた若い近衛兵が彼女に敬礼した。
「ここに用があるの。開けなさい!」
二人は顔を見合わすと重い扉に手を掛けて開いた。
「私が声をかけるまでここには誰も近づけないで頂戴。」
二人は顔を見合わすと敬礼して回れ右をすると扉の警備に戻った。
アンは中に入ると広い宝物殿の中から小さいな水晶球を持ち出した。
それをドレスに隠すと通路にいる近衛兵にまた扉を閉めるように命令し、すぐに王宮の奥にある自分の寝室に向かった。
寝室に入ると手伝おうとした侍女を下がらせるともってきた水晶球をテーブルに上に置いた。
そしてすぐに水晶球に向かって両手を翳すと、愛しい人を思いながら魔力を送った。
水晶球は魔力を送られるとその透明な球体に彼女の想い人であるがっしりとした体と金色に輝く髪を持つ一人の男を映し出した。
ヒュー!!!
彼女の声に応えるように水晶球はその想い人の声も伝えてきた。
ヒュー!!
あなたが今すぐに天界に帰りたいと望むなら、必ず私がここに戻してあげるわ。
彼女のその熱い想いに反して、彼の口からはあの憎たらしい雑種 の名が紡がれた。
またあいつなの!
いつも、いつも。
私とヒューの仲を邪魔して・・・。
あんな危険を冒してまでも、あの森に黒龍を召喚したのに・・・。
そうよ。
あの時にあいつは黒龍に殺されるはずだった。
それなのに片翼を失うだけで生き延びるなんて・・・。
なんて忌々しい。
サラは水晶球を見ながら今度こそは確実にあの雑種 を殺せる人間を思い描いて魔力を送った。
水晶球の表面は送られた魔力で黒い靄がかかり、しばらく何も映し出さなかった。
壊れたのかと思うほどの時間がたって、やっと水晶球は思い出したかのように一人の男を映し出した。
そこにはヒューたちが降り立った国に敵対している隣国の第一王子の姿が映っていた。
なるほど、この男か?
サラはニヤリとするともう一度宝物殿に戻った。
先程と同じように宝物殿に入ると今度は、なんとも禍々しい魔力を纏った一振りの剣を宝物殿から持ち出した。
すぐにそれを持って部屋に戻る。
はぁっあははは!
見ていろ雑種 。
これでお前の命運も終わりだ。
サラは寝室にある王族専用の避難扉を使って城の外に出ると、禍々しい魔力を纏った一振りの剣を持ってそのまま下界に飛び立った。
その頃、水晶球に写っていた隣国の第一王子は乱れたベッドを出ると椅子の背もたれに掛けられていたガウンを羽織り、バルコニーに出た。
彼は真っ赤な色をした酒が注がれたカットグラスを手に、月に誘われるように空を見上げた。
空は月がきれいに輝き、心地良い風が彼の茶色い髪を揺らす。
そんな夜空を眺めているとふいに何か動くものが空を横切った。
なんだ?
彼がそう思ってじっと見ていると目の前に赤い羽根と真っ赤な髪の妖艶な女が現れた。
「お前がこの国の第一王子か?」
その女は禍々しいオーラをまき散らしながら大柄な態度で聞いてきた。
彼が何も言わずにそこに立っていると女の手が動いた。
するといきなり彼の愛妾がバルコニーに現れて、彼の代わりに妖艶な女の質問に答えた。
「はい。そこに居られる方が私の愛しい第一王子様です。」
ちっよけいなことを・・・。
俺の許しもなく発言するなど。
この女はもういらんな。
第一王子がそう考えていると目の前に浮かんでいる女から何か禍々しく感じるものが彼の足元に放り投げられた。
「それを使って敵を討つがよい。」
女はそれだけ言い放つと元来た方角に飛んで行ってしまった。
彼は女から放り投げれた足元の剣を見た。
途端、物凄い寒気が全身に走る。
なんだこの禍々しいものは!
第一王子がそう思って、もう一度 足元に放り投げられたものを見ていると彼の愛妾が床に放られた剣を手に取った。
途端。
愛妾の青い目が真っ赤な色に変り、雰囲気も全く異なるものになっていた。
なんだこれは?
第一王子はその変化を唖然と見ていた。
愛妾はそれを胸に抱えながら彼を見た。
気配がいつもと違い全く別人になっていた。
「私の愛しい人。」
女はそう言うと跪いた状態から第一王子を見上げた。
二人の目が合った瞬間、第一王子は身動き一つできなくなった。
「おい 何をする。やめろ。」
第一王子は動こうとするがまったく体に力が入らない。
「ああ・・・愛しい方。」
女は真っ赤な目をさらに赤くして身動きできない第一王子の顔に手を伸ばした。
第一王子は差し出された手を避けようと顔をそむけるが女の力とも思えないほどの強い力で顔を掴まれた。
「はなせ!」
「あああ・・・愛しい人。」
第一王子の顔に愛妾の顔が重なろうとした時思わず叫んだ。
「ドーナン。何とかしろ。」
途端、女の体がその場に頽れた。
第一王子はその場で大きく息を吐いた。
そしていつの間にか現れた自分の側近を睨み付けた。
「なんですぐに助けん。」
第一王子は持っていた赤い酒を自分の側近にぶちまけた。
「濡れ場かと思いまして。」
ドーナンと呼ばれた男はぶちまけられた酒を魔法を使って振り払うと第一王子の前に素知らぬ顔で立っていた。
「それは嫌味か。」
第一王子は振り払われた酒を見ながら今度はカットグラスを投げつけた。
「そんなことはない・・・です。」
ドーナンはカットグラスを空中で停止させると黒い髪をかき上げながら女が胸に抱えていた剣を蹴った。
すぐに愛妾から放たれていた気配がもとに戻った。
「なんだ。その剣は?」
第一王子は側近に蹴られた剣を見ながら胡散臭い顔でそれを見た。
「さて?調べて見ない事にはなんとも・・・。」
ドーナンはそう言うと剣を拾い上げた。
「おい。触って大丈夫なのか?」
ドーナンは第一王子を振り向くと剣を見せた。
剣は透明な何かの膜に覆われていた。
「さすがに私でも直接触れる気はありませんよ。」
「驚かすな。」
第一王子はそう言うと床に伸びている愛妾を抱き上げると寝室に戻った。
ドーナンもそれに続いて部屋の中に入ってきた。
「なんでお前もついてくる。」
「呼ばれたので。」
第一王子はカチンとしながらもドーナンに命令した。
「とりあえず それがなんなのか調べろドーナン。」
「畏まりました。」
ドーナンはそう言うとそれを持ったまま第一王子の寝室から消えた。
第一王子はそれを見届けた後はさすがに疲れを感じて愛妾を自分のベッドに横たえると自分もそのままそこに横になった。




