19.賭け試合
ヒューとクリスは王宮で舞踏会が開かれた翌日にやっと首都に着いた。
「いやーお疲れ様でした。また何かあれば声をかけて下さい。あっしらもまだ数日間はこっちで商売しているんで。」
商人のリーダーが上機嫌で二人に挨拶してきた。
「ああ。何かあったらこっちこそまた頼む。」
ヒューは商人のリーダーと握手を交わすとそこで別れた。
「じゃあまたな。」
クリスも若い商人の連中にあいさつしてヒューの後を追いかけた。
「どうやら守備隊がいる場所はこっちだそうですよ。」
クリスはいつの間にか若い商人たちから王都守備隊が常駐している場所を聞き出していたようで、さきに立って歩き出した。
しばらく歩いて行くとがっしりした建物が目の前に現れた。
「結構立派な造りだな。」
意外に思ってそう呟けば隣にいたヒューも同意した。
「たしかに思っていたよりはがっしりしているな。」
二人がそのまま歩いて行くと門が解放されていて商人や住民が自由に行き来していた。
二人は彼らに交じって門の中に入った。
中では大勢の見物人が広場で行われている剣の試合に魅入っていた。
「おい、にーちゃん、そこだ。負けるな!」
ツルッパゲの親父が腕を振り上げながら大声で応援していた。
「何言いやがる。そんな若造になんかやられるなよ。」
それに呼応するようにその右隣の太った親父が大声を上げた。
「そうだぞ。こっちは大金がかかってるんだ負けるなじゃないぞ。」
あちらこちらから好き勝手な声援だか野次なんだかよくわからない声が上がる。
「どうやらここでは賭け試合が行われているようだな。」
ヒューが大声で応援している男たちの後ろからつまらなそうに呟いた。
「そうですね。でも問題にならないんですかね?ここ仮にも国の正式な守備隊が常駐している場所なんじゃ・・・。」
珍しくクリスが正論をかますと隣にいたさっきから若い男に声援を送っているおっさんが振り向いて教えてくれた。
「そりゃ大丈夫さ。これは副将軍様公認の試合なんだ。それにここでトーナメントを勝ち抜いた平民は王都守備隊に無条件で入団できる権利を勝ち取れるんだ。それでもって参加しないヤツでもあそこで登録されているトーナメント出場者のチケットを買ってその選手が最後まで勝ち残れば配当がもらえるんだよ。」
「ほうなるほどな。それであの若いのが大穴の選手なんだな。」
クリスが話しかけて来たおっさんに質問するとおっさんは嬉しそうに教えてくれた。
「おうよ。奴が勝ち残れば俺はちょっとした大金持ちさ。」
おっさんは余計なことまで説明するとまた前を向いて自分がチケットを買った若い男を声援し始めた。
「副将軍公認ね。ジェシカは何を考えているんだ?」
クリスはヒューの隣でブツブツつぶやいていた。
「そりゃジェシカもお前に毒されたんじゃないか?」
「どういう意味ですかそれ。」
クリスは憮然としていた。
ヒューは憮然としているクリスを無視すると先程教えてもらったチケットを売っているお店に入った。
建物の中は結構広く食事できる場所の隣には防具や武器まで売っていた。
ヒューは一通り見るとまっすぐチケット売り場に向かった。
「へえ毎度。どの選手にしますか?」
チケット売り場の親父は直ぐに気がついて声をかけてきた。
「そうだな。どれがお勧めだ?」
ヒューはトーナメント表をサッと見ると視線を目の前の親父に戻した。
「そりゃ穴場ならあの若い選手ですよ。」
元気に話す店主を見ながらヒューはさらに話題を振った。
「ところでこの試合を公認した副将軍やその上の将軍は今どこにいるんだ?」
「はっそれならきっとまたどこかの戦場でしょう。昨日王宮でなんかあったらしく朝方、兵を率いてどこかに行ったらしいですぜ。まっそんな本格的な戦いがあったとは聞いていないんで数週間で帰って来られるんじゃないですかね。」
「ほう数週間はいないのか。」
ヒューはいつの間にか隣に来たクリスを見た。
どうやらすぐには再会できないようだ。
といって二人の後を追って戦場に行ったところで戦いの最中では感動的な再会にはならないし最悪こっちが敵の刺客と勘違いされ彼女たちの部下と大立ち回りを演じることになったら面倒だ。
少しこの砦で待つか。
ヒューはクリスを見た。
クリスは頷くとニヤリとして親父に質問した。
「おやじ。ここではチケットだけじゃなく選手登録も出来るのか?」
「ええ、そりゃもちろんできますが?」
チケットを売っている親父は訝しげに答えた。
「なら俺達二人もトーナメントに出場する。」
「はぁーですが結構腕が立つのがいますよ。大丈夫ですか?」
親父は心配そうに二人を見た。
「いいからいいから。登録料はこれで足りるか?」
クリスが銀貨を売り場の親父に渡した。
親父はすぐに受け取ると二人の前に登録用紙を差し出した。
二人はすぐにサインをするとさらに小銭が入った袋を親父に渡した。
「これは?」
親父は受け取った袋を開いて金貨の山を出すとしげしげと眺めながら二人を見た。
「自分のチケットをこれでありったけほしい。買えるんだろ。」
ヒューは店の親父ににたりとしながら聞いた。
「そりゃもちろん。ですが本当にいいんですかい。負けたら紙切れになるんですよ?」
親父はずっしりと重い袋の中の金貨を一枚一枚噛みながらも当惑して目が泳いでいた。
「勝てば問題ないんだろ。」
「ええそりゃ。」
二人は呆然としている売り場の親父からチケットを受け取ると、その後すぐにさっき通り過ぎた試合会場に向かった。
「すげぇなぁ。」
親父は本物の金貨の山が入った袋を抱えながら当惑していた。
今まで自分のチケットを買う強者を何十人と見てきたが、ここまで高額の金を一度に本人が自分に賭けるのは初めて見た。
「あいつら何者なんだ?」
親父はチケット売り場で首を捻った。




