01.反乱
どこまでも続く青い空を濡れ羽色に輝く翼を広げて、一人の女騎士が飛んでいた。
その隣には淡い茶色に輝く翼をもった女騎士が付き従っていた。
「お待ち下さい、メリル様。」
メリルと呼ばれた女騎士は端正な顔をチラリと従っている女に向けると労わるような声をかける。
「ジェシカ、無理をするな。魔法力がキレて飛べなくなるぞ。お前はここから砦に戻れ。まだ間に合う。」
「いやです。メリル様が行かれるなら私も一緒に行きます。」
メリルは仕方なくジェシカに手を差し出した。
「メリル様?」
「私が魔力で補助するからこの手を取れ。だが言っておくぞ。着いたらもう庇ってはやれない。」
ジェシカは今にも泣きそうな顔をメリルに向けた。
メリルはそんなジェシカに笑いかける。
「向こうに着いたら私の背中を守ってくれ。」
メリルのその言葉にジェシカは嬉しそうな顔で答えた。
「もちろんです。」
二人の女騎士はそのまま猛スピードで黒い森に向かった。
事件は数時間前に起こった。
王宮で警護に当たっていた部下の一人が”第三王女が反乱”の報を持って、守備隊に駈け込んできたのだ。
「大変です。王宮に第三王女が指揮する反乱軍が雪崩れ込んできました。」
メリルは傍らの剣を取ると副隊長のジェシカに頷く。
ジェシカは隊員を引き連れてメリルの後をついてきた。
「敵は王宮の南側より侵入。現在、王宮の南の守備隊と広間にて交戦中です。」
「ジェシカ、お前は北門より出て敵の背後に回れ。後のものは私に続けぇー。」
メリルは隊の三分の一を引き付けて広間に向かった。
第三王女の姿が見える。
メリルは反乱兵を一太刀で斬り伏せながら王女に向かった。
「なんでこんな事を?」
第三王女はメリルを見て剣を握り直すと、逆にメリルを説き伏せにかかる。
「メリル。私の配下になりなさい。そうすれば私はお前を今以上の地位につけてあげる。」
第三王女はそう言いながらメリルに剣を振り下ろした。
「王女、私は今のままで十分です。」
第三王女の剣を受けながらメリルは答えた。
「今のままで行くと、いつかあなたは私のようにアンに全てを奪われるわよ。よく考えなさい!」
今のは、どういう意味なんだろう。
メリルはそう思ったがその考えは次の一言に塗りつぶされた。
「隊長、大変です。黒の森に竜が現れました。街に向かっています。」
それは第三王女の反乱以上に危険な報告だった。
メリルはイッキに魔力を膨らませて、王宮にいる反乱軍に魔力を放つと敵を一掃する。
すぐに北門から回って、背後から反乱軍を制圧したジェシカと合流した。
「ジェシカ、ここの収拾はお前に任す。」
「メリル様はどちらに?」
「私は黒の森に現れた竜を何とかする。」
ジェシカの目が丸くなった。
「なんで急に竜が現れるんですか?」
「私が知るわけないだろ。だが放っておくと街が全滅する。行くしかないだろ。」
メリルはそう言うと王宮を濡れ羽色に輝く翼を広げて、飛び立った。
「待って下さい。メリル様。私も行きます。後は頼む。」
ジェシカは隣の部下に後始末を押し付けると、メリルの後を追った。