死にたい少女と生きたい少女の夜話
死にたい少女がいた。彼女は生きていくのが怖かった。
――ああ、辛い
そう悲しみ、一人、満点の星空を見上げる。
彼女の頬には一粒の涙が伝わっていた。
生きたい少女がいた。彼女は死んでしまうのが怖かった。
――ああ、怖い
そう苦しみ、一人、夜の森を彷徨い歩く。
目の前には、一人で泣く少女が見えた。
いつからそうしていたのだろう。彼女は一人の少女が近づいていることに気づかなかった。
それから彼女は困惑した。
――なんで、私に話しかける……?
少女は笑みを浮かべて答える。
――だって、あなたが泣いていたんですもの
少女は自分の頬に手を当て、泣いていたことに今気づいたような顔をした。
それを見た彼女はハンカチを取り出し、
――ほら、あなたのその青い瞳が、台無しですわ
もう一度、温かな笑みを浮かべた。
――ありが、とう……
驚いた顔で彼女はハンカチを受け取り、その柔らかな生地に涙を染み込ませた。
――ああ、こんな私にも、手を差し伸べてくれる人はいたんだ……
そんな呟きさえ漏らしてしまう。
彼女にとっての少女は、まるで救いの神様のようであった。
それから彼女は自分の人生を淡々と語り始める。
――これは、私が6歳の時です
彼女は重い病気にかかり、入退院を繰り返していた。
でもだんだんと病院での時間は長くなり、ついには病院なしでは生きられなくなった。
――だけど、まだ死にたくない
こんなにあっけない最期なんてつまらない。だから病院を抜け出してきた。
――私はここにいる、と誰かに知ってもらいたくて
少女の話を聞いて、彼女は何も言えなくなってしまった。
私はこんなにも死にたいと願っていたのに、少女はこんなにも生きようとしている。
そう思うと、自分が情けなく見えてきた。
こんな私より、あなたが生きていればいいのに。
思わず、彼女は口走った。
――私の命をあげる
いきなりそう言われた彼女は驚き、すぐに首を振る。
――そんなの、無理でしょう
――いいえ、できる 私は永久の命を与えられた それをあなたにあげることは――できる
それを聞いて彼女は、たくさんの思いを巡らせた。一瞬本当に貰おうかとも思った。
それでも――やはり、彼女の答えはこうだった。
――それはできないわ だってそれはあなたの、あなただけの道だもの 私は受け取れない
もう、私は十分過ぎる愛を、幸せを貰ったわ だからもういいの
今度はあなたが愛を受ける番よ いいわね、絶対に負けちゃだめだから…… これは約束、ね……
言い終えて力尽きた少女。少女を支えるようにして抱きしめた彼女は、ゆっくりと体温が奪われていく体を、そっと横たえた。
少女の顔はとても安らかで、とても死人のそれには見えなかった。
――うん、約束……ね…………
月の美しい晩、彼女は夜が明けるまで、静かに泣いていた。
これからも登場人物が二人だけの短編書いていこうと思います。
気が向いたら読んでやってください。




