act.-half requiem-朱い…皮を纏った憧劇
…はい、続き、書きます。
朝の匂いは、何か腐りきった様な匂いをしている、そう思ったことがあるけど。
其れは唯たんにその匂いを受け取っている僕自身が腐っているだけなのかもしれない。
今一度考えよう、自分を。
そんな事を忍ばせながら、歩いていく進んでゆく流れていく通学路。
どこへ目を向けていいかわからず、一点を見つめるのも性に合わないから、
右へ左へ、時に前を向くといった少しばかり挙動不審に首を右往左往縦横させていると。
視線の先から、麗しい硝子を鏤めた様な声がした。
僕の通っている学校は所謂キリスト教を祀っているミッションスクール
名称を【淋海高等学園】ミッションスクールなだけあって女子の制服がシスターじみている。
全体が黒で覆われているが、一部に白が取り入れられている、うちの学校は特色を出す為に
全体を埋めている黒の間に緑と青のラインを入れている、デザインは…まぁ、批判する程でもない。
そのシスターじみた制服を着ている女子が二人、僕の視線の先にいた。
なぜ詳細を付け加え2回言ったかというと、それだけ目の保養になったからです。はい。
二人の会話に僕は朝の風を背中に流しながら、意識しないうちに聞き入っていた。
「伶夏、また朝から林檎? ちゃんと食べてきたんでしょーね!」
「食べてきたよ…でもつい、朝に食べる林檎って口の中でこう…蕩ける?」
「なにそれ……何時食べたって変わらないでしょ、栄養が大事なのよ栄養が」
「はいはい、輝夜さんはマジメだよね、この前男子が言ってたよ『輝夜って料理とか上手そうでしかも、あの顔だぜ? もうなんていうか、完璧だよな』て、私思ったなぁ…確かにって」
「え、えぇ…そ、そんなことないよ、それを言うなら、伶夏だってそうじゃない? あ、伶夏後でその男子の話聞かせてね」
「悪女だなぁ、ストック作り過ぎだよ…この前も男子平手打ちしたばっかりじゃない『気に入らない』って…アレはさすがにキツイと思うなぁ……頑張ってたよ、安藤君」
「わかってないなぁ伶夏は…男が″頑張った″っていうのはね…女の子を存分に満足させてから、初めて言えることなんだよ見かけだけじゃ、ノンノン…そんなの輝夜の辞書には載ってません」
「でたー輝夜ダイアリー!!! 朝から飛ばしてるぅ~」
二人の会話は、とても清々しい内容で聞いていいのかダメなのか、悩みそうになってしまったので
途中で聴覚を働かせることをやめた、盗み聞きってそもそもよくないから。
ていうか、僕が女子の会話を盗み聞きするなんて、間違っている。
(僕は、そこらへんのくたびれたサラリーマン二人の上司への愚痴でも聞くくらいが)丁度良いんだ。
女子二人を目線で追いながら歩いていると、目に映るステージはいつの間にか変り。
よく物語や小説で男子高校生が通学路で通りそうな、大地が石で埋め立てられ前方には大きな
水溜りがある河川敷、今後ろで音楽を聞きながら二輪車を走らせた男子高生が通った、平凡。
ゆらりと風を受けゆらめいている目に優しい草原。
呼応するように、静かにそよぐ清流。
唯おもむろに指標を目指し道標もなく、通り飽きた道を通り過ぎていく人々。
いつもこの河川敷を通ると、世界が休日を求めたみたいな、そんな錯覚を覚える
時間が止まってる様に感じる、全ての挙動が鈍く、ブラウン管を点けた直後の靄の様な。
時の逡巡に身を任せる、朝の一時。
そんな朝の一時に、騒がしい猛禽類の一声がきこえてきた。
「ただしくぅん!!! ただしくぅん!!! 今日の調子はどんな感じ? ナウい? ナウい?」
唯一の発声する人、榊原 当麻(さかきばら とうま、とよむ)君だ、やたらと絡んでくる。
当麻君は(君づけをする理由は彼の強すぎるアイデンティティを″僕は受け止めません″という永遠の予防線を張って置く為だ、そう、彼は個性が強い、良い事すら悪い事の様に言われ全否定されたままこの世を去ったヒトラーくらいには個性が強い、短く言えば、生きるギルティである)今日もその遺憾なく発揮される、アイデンティティを迸らている所為か、タンデム自転車の後部座席部分(二人目が乗る所)に乗りながら、河川敷を通っていこうとしている。
正直、無視をしたかった、だって、灰色より目立たないナッシンググレーの僕だから。
彼と釣り合うはずがない、(本当ならこの言葉、目の前の麗しきホトトギス達に向かって使いたかった)
鴉よりも邪な物を内に秘めている僕が彼と釣り合うはずがないのだ。
……其れは其れで確かに圧倒的″個性″と言えるかもしれないが。
「ナウいかどうかは審議によるが…とりあえずウザい」
圧倒的個性は、集団思想を重んじる世間からは淘汰されるべき
存在なので、僕は素直に冷たくあしらう。
「釣れないなぁ、ちゃんとご飯食べてきた? 栄養大事だよ? もーにんぐれーすきゅー」
やたらと雄叫びをあげる当麻君、どうやら朝のテレビ番組影響されたらしい、CMか? どうでもいい。
というか、なんで目の前にいるホトトギスの様に皆から羨望の眼差しで見られる容姿を持った美女達と
どこか似通っている会話をしなきゃならんのだ……。
そして、当麻、どうしてお前は、タンデム自転車の速度を僕の歩く速度と合わせるんだ⁉
僕の様な(地域指定ゴミ袋よりも、むしろ地域指定ゴミ袋と比較するのもままならないほど使い勝手のない男と…)なぜ合わせる……。
コイツはいつもそうだ、爽やかな風が吹いたと思えば、此奴が現れて。
…時に、サポートをしてくれたりする、根は良い奴なのだ、お母さんかっ!!
「食べてきたぞ、うちのマザーテレサが作ってくれたよ」
そう冷たくあしらうのも、僕のなけなしの良心が悲鳴をあげそうになってくるので
大して面白くないジョークを交えて、友達の振りをしてみる、此奴と友達にはならない。
だから、″発声する人″此奴と友達になるなんて、百年は早い。
そもそもだな、初めての出会いが、学校の帰り道、今と同じ場所(河川敷で)
僕が目を何時になく腐らせながら歩いていると、タンデム自転車で悠々と則天去私していた
当麻君がふと勢い静止させ、泳遊していた僕に「そこのお嬢さん、乗ってかない?」
と言った事が始りだぞ? その時、僕がなんて返したと思う? 「股跨る程何もないわけじゃないんで」
その時の僕の顔、若干ドヤ顔、絶対面白いと思ってたんだろう我ながらウザい奴だ。
だが当麻君は、僕の考案時間23秒のジョークに「……それメモっとくわ」と懐からメモ帳と
制服の内ポケットからマジックペンを取り出してメモをし始めた……。
衝撃的なファーストインプレッション、おそらくフォーエヴァーメモリー……。
頭の中で思い出を振り返っているうちに、足を踏みしめる所はいつの間にか
学校が目と鼻の先に見える坂の途中だった。
振り返りすぎて、当麻君の返事とかあれやこれやを大体無視してしまった。
まぁ、いいんだろう、どうせ、あぁ、今頃だ。
「釣れないなぁ、ただしくぅん!! は……」
何時もこうやって当麻君は、勝手に僕の横で好き放題言いたい事を言い募り募っては
「じゃあ俺、さき学校、行っておくよ……ただしくぅん!! 王子という者は、何時でも姫を余裕の微笑を湛えながら待っておく者だからね…フフ…今日も愛を告げてしまったよ」
僕の背後に悪寒という超速度で突っ走っていく物を突っ走らせて去っていくのだ。
傍迷惑な野郎だ……いや…動物園のナマケモノよりおそらく博覧されれば見物者は少ないだろう
僕よりマシだろうけれど。
と、とっとっと、さりげなく癖を発動している場合ではない。
外ポケットに入れていた携帯端末を見ると、辰の刻である。
何時しか目に映る景色には麗しき美女達も、仲の良すぎて補正すると危ないスメルが香る男子達も
だれもだーれも、いなくなっている。
そんな時、一つの声が突然突飛、耳に聞こえた、いや学校行けよと突っ込みたかった。
…(けれど僕はそんな事を人様に言える身分ではないし、何より僕が人様にそんな事を言えるはずがない)
「貴方は、貴方も、林檎は好き? 私は好きかな、だって赤いから」
聞きなれた、声。
何時でも聞いていたい、声。
憧れていた、憧憬の声。
いつも夢に出てくる、夢では多少甘美な声、夢で僕は乞えている、あの声は そう…ミューズ…。
つまりは、その声の主は…ミューズ……いやそうではなくて。
憧れのあの人、【栞 伶夏】さんだった。
先ほど、クラスメイトと返っていたはずなのに、どうしたんだろうか。
本当なら、ここで「僕の為に……待っててくれたんだ……」と心の中で少女漫画でありがちな
インパクトのあるワンカットが描写されるのだろうけど……。
僕はそんな淡い期待は抱かない、ほら炭酸水だって開けてしまえば唯の水、そういうことです。
あの″魅惑の理科室事件″以来、確かに僕は彼女を意識している。
意識しすぎるあまり、明朝の夢の様な物を見てしまう、局部は……。
さて、下世話な話はここでやめて、映画のワンシーンの様に。
桜の木と半ば同化していると見せかけている憧憬少女に話し掛けよう。
「林檎? 噛むとムズムズするから、それほどかな」
一瞬、僕の【憧劇フィルター】内の″憧憬少女は口をポカーンと開けていた。
まるで「え、何この男、マロンっていうものがわからないのかしら、理解、理解が出来ない」
と言っているようだ、ていうか言っている、口に出している。
心の声を数秒口に出した後、又、憧憬少女は、しゃきりと姿勢を正して。
桜と同化する、″ロマンチックモード″
そして語らうのだ、チェリーロマンチシズムを!!!
「林檎、貴方は好き? 良いよね、赤くて…言い知れぬ…言葉や聲じゃ表現できない赤い迸り…っていうのかな……」
彼女の″ロマンチックワールド″から発せられる、″チェリーロマンチシズム″を聞き終えた後。
―今度は僕が、数秒、口を開口していた。
開いた口が塞がらない、とはこのことだ。
「あ、あか…あかいほとばし・・・ま、まぁ確かに君が食べてるその林檎、やけに赤いよね、どこかのブランド? 国産かな? とちおとめ、とか?」
「それは苺よ、一期一会と言いたいの? 私を笑っているのね?」
かぽーんと僕が塞がらない口を塞がないままに彼女に返事を返すと、
ナイフの様に、ザシュンと即座に、彼女のどこか鋭い声音が呼応した。
鋭い声音を言い放っている彼女の頬を見ていると、染めるは林檎の様に赤い色。
何かを羞恥しているらしい、何を羞恥しているのかイマイチよくわからなかったけど。
彼女の言葉は綺麗流麗淡麗だった、朝の腐った空気を浄化してくれる。
だから、どう反応すればいいのかわからなかった、
ちなみに、とちおとめが苺だということは知っていた、ほほほホントだよ⁉⁉ ホントだからねっ!?
「笑っては無いよ、そしてそれほど面白くもないよ」
どう反応していいかもわからないので、冷静にひとまずツッコミらしいものを入れた。
「何よ冷静ね…やけに冷静ね…真夏のガリガリ君みたいね……」
少女漫画で、男の子に嫉妬する女の子がよくハンカチを噛んで自らの収まりきらない心情を
表現する、まさにあのシーンで見せる表情を彼女はしていた、……まさに″憧憬少女″
「え、心がやせ細っている!!! って言いたいの? ちょっと回りくどすぎやしないかな……」
どう反応すれば本当にわからなかったので、とりあえず彼女の意図を汲んでみた。
我ながらなかなかの洞察力だと思う……いや待てよ。
(こんなそこらへんをのさばっているアリ共より矮小な僕が彼女の意図を汲む!?? 有り得ない…僕如きは、二丁目で酔っ払っている究極のグレーゾーンを渡り歩いている女共の糸にでも絡まれていればいいんだ、そうだ、そうに違いない)
「とことん、私を愚弄するのねっ!!! 貴方ごと…ふ、ふん…別にいいの…これあげる」
彼女の意図を汲んでから自らの意図を汲みすぎて心中雁字搦めになっていた僕に対して
彼女は勝手にまた怒り出して、僕の手元に、一枚の紙を置いた、あ、手と手が触れたね。
若干、センチメンタルだ、やったー。
心中喝采歓喜をあげていたら、彼女がまた睨んできた、手を紅潮させて、連動するように
表情も心なしか染めて、「どうしたの?」と聞くと「何でもないっ!」と怒声をあげる。
近頃の女の子は怖い…畏怖……。
「じゃ、じゃあ私学校行くから、貴方はそこで″誰もが二宮金次郎を連想する様な完璧な立ち姿″でもしていて、絶対よっ!」
心なしか、(今は学校の校門の前)校門に吹く風が荒んできた気がして、僕は身構えてから彼女の言葉を受け止めた。
無理難題すぎるだろう…いくらなんでも…今の僕はランドセルを持っていない…
それに何より、て、二宮金次郎君はそもそもランドセルじゃない…文庫本だったかな…。
ならば教科書なら、どうだろう、それらしく見えはしないか?
いや…僕の様な、街頭アンケートで【この夏にしたい事は?】と聞かれて【早く秋が来ませんかね】と答え、ちょっとイケメンにチヤホヤされている女子アナウンサーから【その答えはもう飽き飽きです】と言われてしまうような屑が二宮金次郎を演じる?
それ自体が納得いかないので、僕はそそくさに、誰もが″二宮金次郎を連想する立ち姿″を表現する
事に引退表明を下し、(そもそも決意表明を上げていない)学校へと走った。
―時刻は、携帯端末を見ると、辰の刻を悠にすぎる悠々に過ぎる、言っている場合ではないくらいに今この足を、世界陸上で例えるのならば、金メダルを獲得した後に【少し力を抜いていましたね】と言われ若干心の中で(いや、そう視えただけなんだけどなぁ……)と思いながらも【えぇ…力抜くの癖なんです、ゴール前に成ると風を感じてしまう…やっぱり陸上って素晴らしいですよね】とニヒル&ドヤ顔で言ってしまうジャマイカ代表選手くらいにしてしまいたいくらいに僕は急いでいる。
―教室プレートが僕の視線を次々と通り過ぎていく、汗を切らしながらようやく見つける
『2-1 A』のプレート、ちょっぴり重い扉を開き、僕は教室に入り、席に着く。
息もからがらに、絶え絶えながら外ポケットに入れていた彼女からの紙を見てみると
≪カーニバルスタジオジャポン招待券≫
と書かれていた、それは、巷で流行っている『遊園地』への招待券であり。
これをくれたということは、……どういうことだろうか……。
とりあえず、母親でも誘ってみるかと思いながら、僕は今日も教科書を取り出した。
はい…続き、頑張ります。