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act.-half-朱い…皮を纏った憧劇

長くなったので分割します、すいません。

 ―「あ……あなたの事が…わ、私…その…ず、ずっとしゅ、しゅきだったの!!」

  頬を紅潮させて、両手なんかも、もじもじさせて僕に精一杯の気持ちを

  したったらずな口調を更にたらずにして、伝えようとして来る君。

  どうしていいか、わからなかった、まさかまさか……君にそんな事を言って貰える時が来るだなんて。

  今日はなんて良い日なんだろうか…!!! 槍か、大粒の雨でも降ってくるんだろうなぁ!!

  でも、今の君と一緒なら、僕は多分、槍なんか竹なんか、片手で充分なんだろうなぁ!!(意味不明)

  「え…ほ、ほんとに⁉ ぼ、僕もだったんだ…僕ら、両思いだね、ハハ!!」

  気のきいたセリフを言おうとしたはずなのに、どう考えても其れはないだろう……。

  そう言いたくなってくるセリフが空気を貫いていってしまった。

  そして、どうにも、僕のその考えは冴えに冴え渡っていた様で……。

  アレ…? 僕が口端を切り斬り終えた瞬間、周りの音が消えた様な気がした。

  どんちゃんどんちゃん鳴っていた、僕らを賞賛するような吹奏楽部の演奏も

  普段は運動部ばかり応援している依怙贔屓女子たちのその場凌ぎのファンファーレも

  唯、騒音を周りに撒き散らしたいだけであろう輩の便乗コールも 

  おおよそ表現出来得る、空気から伝わる音という音、すべてが消え失せてしまっていた。

  ふと、気になって君の表情を見ると。

  先ほどまでは、(なんて幸せなの…⁉ …この時間が永遠に続けばいいのに)

  みたいな、少女漫画にありがちな、夢や空想や妄想でありがちな女子像そのままの

  表情をしていたはずなのに、今の表情は、ロミジュリばりの傷を負った悲劇の権化そのものだ。

  きっと周りは、今の彼女を見て言うだろう〈アレこそ、ロミオに裏切れたジュリエットよ……〉

  そう…物語上、絶対に裏切ってはいけないはずのヒーローである存在に裏切られるヒロイン

  まさに今の彼女の表情は、其れだった……(こんなことがこの世にあっていいはずがない)

  僕はそのままを保っている事が出来ずに、俯いてしまった。

  耐えられなかった、世界がどんどん淀んでゆくことがありありとわかっていたから。 

  きっと彼女が今から言うセリフも、なんとなく読めてしまっていたから。

  あぁ、あぁ、僕を中心に、僕を囲う様に、世界から色が失われていく。

  君が口を開く…君が、口を開く…

  スローモーション ― ― 君が口を開いて閉じ終えるまで……

  「過多重いの間違いでしょ? いい加減にしてくれない? 夢見過ぎなのよ」

  スローモーション ― ― 君の声が僕に届くまで……聞き終える迄に

  どこかから、耳を焦がす音がした

   

  ジンジンジンジンジン

  ジンジンジン リンリンリンリン

 

  ジンジンジンジンジン

  ジンジンジン リンリンリンリン

 

  一拍一拍が、耳を焦がしたかと思うと、一拍子の度に世界が割れて

  僕の目の前には、見慣れた風景と、聞きなれた声が聞こえてきた。―


 見慣れた風景は、男の部屋……と呼ぶのにもちょっと語弊がありそうなくらい殺風景な

 僕の部屋、眼前に見えるは、誰かの写真、勿論、夢の中の彼女だ。

 聞きなれた声は


 「早く起きなさいタダシ―!! 遅刻するわよーお母さん知らないんだからね!!」


 父親が18になった瞬間に早熟結婚した所為で、もはや同い年レベルな母親の若作りせずとも

 若い母の声、ちなみに僕は今17歳なので、母は33だ、グラビアモデル? というのをやっているらしい。

 父親はいない、僕が、5つの頃に、違う女と出て入ってしまったらしい。

 その時、母親が僕に言ったセリフを良く覚えている。

 「タダ君、何事も時間を掛ける事が大切よ!! お母さん、よくわかったわ」

 その時の僕の感想も僕はよーく覚えている、あぁ感想じゃない、言ったんだっけ。

 「お母さんには言われたくないよ」

 どこか悟りきった目をした僕を見て、母は『ごめんね』と一言だけ呟いてから、それでも

 悲しむ素振りを一瞬も見せず、仕事へ行ったっけ……でも覚えてる。

 撮影? から帰ってきた母が、静かにフローリングに女座りをしながら泣いていた事を。

 トイレに起きただけだった、僕は、少し戸惑ったけど、ちょっとだけ開けてしまった襖を

 音をなるべく出さずに閉めて、そのままもう一度眠ったっけ……。

 女性らしいようで女性らしくない、ある意味、徹底的に女性らしい。

 そんな母の声が今日も階下から聞こえる、僕は返事をしないといけない。


 「わかってるよ…!! 朝から大きいよ」


 どうやら僕は少し反抗期という物へ自分の人生上、突入しているみたいで。

 近頃は、聞こえているのか聞こえていないのかわからない音量でしか母に起床の挨拶をすることが出来ない、いやこれが普通らしいから、いいか…。

 『もうタダ君もこうこうせーなんだから、身体の事気にしないとね?』とか何とか云いながら

 わざわざ苦労して部屋まで持ってきてくれた高反発ベッドから身を起こす。

 多少、毎日見る夢の余韻に浸りながら、僕はベッド横に吊ってある制服へと寝間着からシフト。

 どうでもいいけど、寝間着は、一切汚れていない、僕は健全な男子だから、大丈夫だ。

 リンリンリン 携帯端末の目覚まし、スヌーズ機能が僕に突っ込みを入れてくる。

 朝からお盛んだねぇ、したり顔で、ピリオドを打って、姿見で自分の姿を確認してから

 階下へ降りていく、この前、靴下を逆に履いていた事があるから気を付けないといけない。

 

 「ターダーくーん!!! 早くしないとぉ!! 遅れちゃうよ!!!」


 無駄に色っぽい年相応じゃない母の声が階段の道程中、追随。

 いい加減、もう少し、リビドーというのか…そういう迸りを抑えてほしい。

 やれやれ、片手を気だるげに宙に投げ出して、僕は嘆息する。

 こんなポーズを朝からすることになるなんて、おかしい……。

 本当なら、ここで僕は躓いて全治二週間ほどの怪我をして世間から隔離剥離されるべきなんだ。

 そう…僕は、そうゆう存在…所詮…そういう存在…。

 ブツブツ呟いていると、いつの間にか階下へ着いてしまった。

 はっ⁉⁉ こ、このパターンは…まさか…⁉


 「ターダーくーん…? いつも言ってる、わ・よ・ね? ネガティブな発言はしないって…」


 僕は常々、自分の事を卑下する癖がある、癖…というより僕からすれば

 (こんな蠅以下の存在、一秒間に一回は殺虫剤撒き散らされればいい)と思っているくらいだから。

 癖という訳でもなんでもないのだけど、母親にはよく注意される。

 きっと潜在意識として無意識に僕の中に自分を蔑めとプログラムされているのだ!!!

 生まれた頃からそう刷り込まれているから仕方ないんだよぉ!!!

 この前、そう母に言うと、泣かれたので、さすがにもう言えない。

 そして正直な所、僕のこの癖は、その昔父親に言われた事から来ていると思うから。

 ある日、父が僕に言った事、其れは「お前は生まれ持っての出来損ないだからなぁ」

 あの時の父のほくそ笑んだ様な、どこか嘲笑ったような表情を僕は忘れない。

 その日の翌日、父は出て入ったわけだけど、僕の脳裏にはあの人のあの心無いセリフが

 今でも焼き付いて離れない、だって確かにそうだなって思ったから。

 一人の女性さえ幸せにできない男の子供が、″出来ている″訳がないのだから。

 多分、永遠に会う事のないだろう、過去の名残を引き摺ってまた僕は今日も

 母の作ってくれた朝ご飯を頬張る。


 「ごめんごめん…でも、しょうがないんだよ……あ、これ美味しいね、てか、頂きます」


 母は僕が朝ご飯を頬張っている姿を逐次視線で追う、微笑を湛えて。

 朝はいつもこうだけど、こんな朝が僕はなんだかいつも嬉しい。

 何より……誰かが自分の事を想ってくれる、それだけ、そのことが、そんなことが

 とてつもなく幸せな事だって、思うから。

 今日、母は微笑んでいる、いや、今日″も″母は微笑んでいる。

 リビング、閉ざされていない窓から涼風が吹いて、僕ら二人に涼やかな清涼を感じさせてくれる。

 うん、幸せだ、柄にもなく僕はアクティブに母に微笑を返しながら巧みに朝食を片していく。

 

 「そーね、しょーがないもんねー、タダくんコンプレックス塗れだもんねー、でもお母さんは

  そんなことないとおもうんだけどなー…タダくん優しいしぃ…」


 うぅ…母の言葉に、僕は背後からの冷たい物を感じた、僕が優しいだって?

 僕が優しいとすれば、其れは相手が苛烈苛酷な人生を送ってきたということだろう……。

 なにより、母の言葉だということを忘れてはならない。

 常に自分の事を考えてくれている人は、ある一定の時期を過ぎれば

 対象者に対し、フィルター″補正″が入る…其れは時に残酷で時に甘い物だ…。

 椅子に置いていた学生鞄が落ちる音がする、学生鞄、貴様なぜ落ちた……。

 学生鞄にさえも劣等感を覚えながら僕は盲目黙々と朝食を片していく。


 「いい加減…そういう事言うの辞めた方が良いよ? 僕だって17だし…さすがにね」


 イエス・マザーフィルターを軽々といなしていく、今の僕の姿は、職人のアレ!!!

 大袈裟か…心で笑い、牛乳を啜る、どうでもいいけど、僕が牛乳を飲んでも良いのかと思う。

 というより、僕がスクランブルエッグを食べていいのかと思う。

 なぜなら、(こんな僕が本来この世に素晴らしい形で産まれ往くはずだった命達を始末してもいいのか)

 そういう事だ……僕はそれぐらい考えないといけない、なぜなら僕だから。

 はぁ、やれやれ、朝から命について追及している自分って何なんだろう。

 封じ込められた狭まった視界の中、暗闇の中で頭を抱えながら、母親に食器を渡す。


 「いつも、ごめんね…有難う」


 出来るだけ気持ちの悪いニヤケ顔は抑えて、母親に日々のメッセージを伝える。

 母は、はいはいと鮮やかに僕をいなしてから流し台で水を付けてから食器洗い機に食器を入れる。

 そうして、自身もお馴染みの派手派手しいピンク色のショルダーバッグを提げて

 仕事の準備をする、僕らはいつも同時に出勤&通学する。

 母が上着を着るのを待つ間、僕はぼんやりと、彼女の事を考えていた。

 それほど広くない一般的一戸建ての冴えないインテリアが光るリビングのダイニングテーブルにて

 頬杖でも突きながら。

 彼女はいつも、赤いリンゴを齧っていた…そう、そう……。

 彼女のとてもほんのりと紅潮した今にも炎に包まれて情熱の焔へ燃え盛って儚く消えてゆきそうな

 頬よりも朱い…熟した、いや少しだけ熟すと呼ぶには足りない半熟の林檎を…。

 禁断の愛の果実を…彼女はいつもその砂糖菓子よりも甘い味のしそうな唇へと誘っていた。

 あぁ、ちょっとばかしまた気取ってしまったかな…。

 僕が彼女の事をここまで想っていいのだろうか…複雑だ僕如きに思われる彼女…。

 

 「ターダーくん、訝しげな眼してないで、早くいくよ」


 ネガティブラビリンスに迷い込みそうになったところを母の一声で脱出し

 僕は学生鞄を持って、玄関へ足取りを進めた、歩調は緩やかだ。

 又、彼女に会えるのか、あの林檎よりも残酷な甘さを兼ね備えた彼女に。

 そう思うと、胸が愛で焦がれた。

 母の行く先を僕が一歩リードして、ファーストレディの思想を尊重。

 何時だって、女性っていうものは男の一歩先を往く物だと思う。

 なぜかって? 女性の往く道を邪魔させずに果敢なく我関させずに進ませる。

 其れが大事な事だって、夢見ている、所詮、僕は夢見ている。

 夢見ながら、玄関の扉を出来るだけ柔い力で開ける、玄関の扉を開けるとき、

 僕は涙を流しそうになってしまうんだ、何も望んでいないっていうのに無情に何かが

 流れていくような気がするから…流れていって何時の間にか、誰かが淀んでいない

 そう断定したものが、また自然に割り込んでくる、気に入らなくて泣きそうになる。

 母はそのことを知っているから、玄関の扉を開ける時の僕を、憂う目で見つめている。

 

 「ごめんね…しょうがないんだ……」


 いつも何時でも…僕は見えない傷跡をなぞって生きているのかもしれないって…。

 くだらない過去に縋って生きているのかもしれないって……。

 蔑んでいる風が、僕を嗤って通り過ぎていく、そうだね、通り過ぎていくね。

 僕は、涙を堪えて、一歩今日も前へ足を進む。

 

 「そうだね、タダくん……しょうがないよね、タダくんは、優しいから」


 母も背中に、淀んでいると誰かに決めつけられた風を靡かせてそよがせて泳がせて。

 横目で僕に「いってくるね」と視線でメッセージを送って僕を通り過ぎてゆく。

 僕が守っていたはずの道を、母は一人で歩いてゆく。

 もう僕は、いらないんだね、なら、僕も通学路へ行こうかな。

 叙述感に満ち溢れた偽善だらけな朝は、とりあえず幕を閉じた。

 あぁ、そうだ……(僕の存在なんて、僕の前を通り過ぎていく彼らからすれば取るに足らない物)

 だと思っているから、名前を忘れてしまっていた。 

 僕の名前は、母がけたたましく呼んでいた通り


 『篤峯 正』

 あつみね、ただしと詠む。


 僕の名前なんかより、確かに母の名前の方が価値があると思うので、母の名前も大気に忍ばせる。


 『篤峯 写硝』

 あつみね、うつしと詠む。


 僕の名前なんかよりは、余程美しく誰かの憑りつかれた絵空事に導かれている。


 「やだぁ…あの人自分の名前呟いてるわ…」被害妄想から出でた住人達が、僕を非難するのも

 構わずに、僕は通学路へと足を運んだ。


 

まだ二話目です、すいません。

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