7歩進んで夕食会
緑を基調としたリビングの中心に設置されているテーブルに座った。
目の前に置いてある料理を眺める。
おー、オイシソー。
疲れすぎて全くテンシヨンが上がらないんですけど、ファイさーん。
私の横に座っている原因を睨み付ける。
イラっとするほどの笑みを返されたわ。
何でそんなにうれしそうなの?
目を閉じてさっきのことを思い出す。
ファイに握り潰されて絶叫するアベルをあの手この手で救出した。
ものすごく大変だったわ。
大事な事なのでもう一度、ものすごく大変だった!
「…ねぇ、アベルをそろそろ離してあげたら?」
「……」
『やめろっ!ファイぃだだだ!!』
無言でアベルを握り潰すファイに説得を試みるが反応なし。隊長、任務失敗であります!
ファイさーん!目にハイライトが消えかかってるのは気のせいですか!?
アベル取り上げたあたりから纏ってるオーラが近寄るなっていってるんですけど!こわいよー…
どうすることも出来ず、アベルの痛みを訴える絶叫だけがする。
うぁぁぁ、ごめんよ。こんなドSに立ち向かう勇気なんてないんだ。
「アベルが何かしたの?」
「別に」
「何で顔背けんの?」
「……知らないよ!」
プイっと顔を背けるファイ。
なんだ?ファイらしくない。
いつもプライド高いファイの態度ににつかわしくないし。
プイっと顔を背けて表情が何とも言えないけどたぶん拗ねてんのかな?
でも、拗ねるって拗ねる様なことあったけ?
顎に手を宛ててじっとアベルを握り潰す前を思い出す。アベルを触りまくったことに拗ねてるのかな。ふかふかの毛並みに触れていいのは僕だけなのに!…的な?
ふむ、全くわからん。
回り込んでまたファイの顔を見る。
目線あわせてくれないのか。
どうしてって聞いても答えてくれないしなぁ。
考えているとアベルは暴れるのを止めてしたり顔になった。
『ふん、わかったぞ!ファイの奴、小娘が自分そっちのけで儂に構ってるのが気に入らなかったのじゃろ。つまり、それはヤキ…いだぁ!!』
「ちょっと!ファイ」
かけられる圧力にまた悲鳴をあげるアベル。
ちょっ、本格的に悲惨なことになってきたんだけど!
お前動物愛護団体に訴えるぞ!
あ、でも、アベルは動物と言うより魔獣だったか。
魔獣愛護団体ってあんのかな?暇だったら今度調べてみようかなぁ。
今アベルがヤキモチって言いかけてたよね、そうなのかな?
しかし、ファイに限ってヤキモチはないでしょ。
イタズラかますばっかでそんな可愛らしいことするか?
そんなことないだろうとファイに目をやると少しだけむくれてた。
「アベルがメノウと居るときに帰ってくんのが悪いんだよ」
「え?まさか本当ヤキモチ妬いてくれたの?」
「!」
ビックっと肩をゆらして、背中を向けられてしまう。分かりやすいんだけど。
おお、マジでか!え、ファイがヤキモチ妬いてくれたの!?
ファイそっちのけでアベルに触ったのが嫌だったのか。
まさかの構ってちゃん疑惑だがなんだろ?すごい感動する。
もしかしたら、今までのイタズラは構っての合図だったのかな?そうだったらいいな。
口がにやけて一気にプラス思考になる。
そうか、そうか。構ってる欲しかったのか思いっきり構ってるあげよう。
なんてったって中身はファイより歳が上だからね!
「ねぇ、ファイ。ごめんね、ほったらかしにして」
「…本当だよ。僕と遊ぶために遊びにきたんでしょ」
「そうだね。今度から気をつけるよ。だから、アベル離してあげようよ」
「やだ。信じられない」
「酷い!私の友達はファイだけなんだよ」
かなり真面目な話で私の友達はファイしかいない。
いやね、私もお外に出てお友達作ろうとしたさ。
だけどね。私が馬車事故に遭って以来一人でお外に出られないんですよ。まぁ、まだ一人で外うろうろ出来る年じゃないんだけど。
また事故に遭うんじゃないかと過保護な両親がたまにの散歩の時ぐらいしか出してくれない。
だから、悲しいことにファイしか友達がいないんだよね。
これじゃ将来学校に入るまでにコミュ症になっちゃうよ!
ファイが機嫌を治してくれるように言葉を投げ掛ける。これでも、弟がいたから扱いには自信があるんだよね。
ほら、ファイがこっちを見た。
「ファイが大好き。ファイに信じてもらえないと悲しいなぁ」
「信じてもらえないと悲しいの?」
「とっても悲しいよ。大好きな人に嫌いって言われるぐらい悲しいんだよ」
「僕が居なくなったら嫌?」
「うん、だって私と遊んでくれる人が居なくなっちゃうもん」
「僕のこと一番好き?」
「好き、一番好きだよ」
好きと言う言葉嬉しそうに目を細めるファイ。
ファイは私に予想以上になついていてくれたみたい。驚きだよ。
今度からのイタズラも大目に見てあげられる気がするなぁ。多分ね!
「そこまで言うなら信じてあげる」
「やった。じゃあさ、また絵本読んで」
「いいよ」
ぽいっとアベルを投げる。
って、いくら猫の魔獣でも投げることはないでしよ!無事着地したからいいものを。
慌ててアベルに駆け寄ろうとするがガシッとサイドに分けられた髪の毛を引っ張られた。
「メノウ?」
「……はーい」
わかったから、そんな物騒な雰囲気を出さないでくれ。
それからママに呼ばれるまでずっと絵本を読み続けた。
ファイの部屋の絵本はほとんど読み飽きてしまって楽しそうに笑うことに全力を注いで疲れてしまったのだ。
そんなこんなでやっと夕食だよ。
私のパパも仕事を終わらせ夕食を食べに来ていた。
あとはファイのパパを待つだけです。
ちなみに私のパパの職業はパン屋さんです!
それを知った時物凄く納得した。
だからいつも出てくるパンはウマイのか!パパの鍛えられた筋肉はパンを練るためにあるんだね!
夕飯はそんな豪華なご飯じゃないけど腕を奮ってくれたのがよくわかる。
湯気が立つシチューにパパが焼いて持ってきてくれたパン。さっと茹でてある魚のサラダと暖かいミルク。
いくら疲れても楽しまなきゃママに申し訳ないな。
お腹が空いてるのも事実だし。
実はお腹が空きすぎてぐぅ~と間抜けな音が今にもしそうで気がきじゃない。
腹を鳴らしてみろ、ファイのしばらくのネタにしてきそうだ。
これだから子供は!歳上を敬えよ!
駄目だ、転生したから外身はファイより年下なんだよ。
「ファイのパパいつ帰ってくんの?」
「倒れてなきゃ、その内帰ってくるよ」
ファイの回答にバカなと言いたいがファイのお父さんは本気で道端で倒れるようなことがある人なんだよ。
職業は研究者らしく一週間に一回ふらっと帰ってくるらしい。何を研究してんのかは知らないよ。
根っからの研究者で寝るのも食べるのも怠るせいで痩せていて肌も白いんだよね。
トントンと私の真後ろのドアが叩かれる。
噂をすればだ。リリスさんがドアを開けた。
「お帰りなさい…あらまぁ!先生!」
「夜分遅くにすみません」
そこには、ぐったりしてるファイのパパを肩に掛けた私のお医者さんがいた。
私の足を診断してくれた、あのほわほわした人だよ。今でも通って見てもらってるんだ。
ファイのパパさん、また行き倒れたところ拾われたんだ。
前も行き倒れて身ぐるみはがされたらしいし危機感持った方がいいよ。
「また、倒れていたので送りに来ました」
「すみません、旦那がご迷惑をおかけしました」
「大丈夫ですよ。えーと部屋に送っても?」
「お願いしますね」
そんなやり取りを見てほらね、と得意げに笑う顔は子供らしい。
シュイナール学園にいく頃にはこの可愛いげのある行動も無くなっちゃうのな?
有無を言わせぬドSに。設定通りのファイは少し味気ないかもしれん。
先生はファイのパパを部屋に連れていって帰ってしまった。
リリスさんが一緒に食べようと誘ったんだが家族団らんを邪魔したくないらしい。
「さぁ、旦那は置いといて。食べましょう」
何から食べようか迷うけど温かいものから食べた方がいいよね。
口にスープを運ぶ。白いシチューはトロッとして少し甘い。
ママ、マジでウマイよ。
「あ、これウマイな」
「それはリリスが作ってくれたの。でね…」
「ママ、これ要らない」
「食べないと明日のおやつなしよ」
夕食会も会話が弾み楽しい時間が流れる。
ファイの奴怒られてやんの!
本当に私の家アスフェルト家と仲がいいなぁ。
魚のサラダもウマイ。
今まで知らなかったけど、この魚魔獣だったりしないのかな?
普通の動物と魔獣見分け出来るのかな…この世界は知らないことばっかりだわ。
「そうだ!今度みんなで旅行にいきません?」
「いい考えだ。店は長く開けられないが夏の月なら少しは休めるだろ」
「だったら涼しいところがいいわ」
大人たちの話は熱を上げる。
今度は旅行にも一緒に行くのか。
ママがやるって言ったら本当にやるんだよね。有言実行かっくいー!
あ、こら嫌いなものを押し付けるなよ!
3日ぶり投稿です(´д`|||)
暇を見つけて書いてるんですけど投稿するのにやっぱ時間かかっちゃいます。