食事会
扉がノックされジョルジュが部屋に入ってきた。
「奥様、旦那様がお帰りになられました」
「ありがとうジョルジュ。
お出迎えに行きましょうか」
「うん」
出迎えに玄関に行くと、濃い青色の瞳、紺色の長い髪を後ろで一つに結んだ細身の男性、新しくユイの父親となったレイス・カーティスが帰ってきていた。
レイスの側には話に聞いた友人だろう男性と女性も一緒にいた。
「ユ~イ~、会いたかったよ!」
レイスがユイの姿に気付くと、勢いよく走ってきて喜びの感情そのままに全力でユイを締め上げ……いや、抱き締めた。
そのあまりの勢いに後ろに居る男性と女性が若干引いている。
「っ……苦…しい」
「レイス、力を緩めないとユイが圧死しちゃうわよ」
苦しむユイをよそにシェリナはニコニコ微笑みながらのんびり話す。
レイスはそこで漸く腕の中で意識が飛びそうなユイに気が付いた。
「すみませんね、あまりの嬉しさに力加減を間違えました。
大丈夫ですか?」
「……なんとか」
息も絶え絶えになりながら答える。
会う度に抱き締めるレイスは、今や恒例となり挨拶のようになっている。
一度、苦しさから避けたことがあったが、今にも涙を流さんばかりにレイスがショックを受けて以降はへたに避けないようにしている。
その溺愛っぷりはとても血が繋がっていないとは思えず、「本当に血が繋がってないの?」とユイは冗談ではなく母に聞いた事があるほどだ。
「嬉しいのは分かるけどやり過ぎよ。
しかも私が居るのに目もくれないなんて酷いと思わない?」
「もちろんシェリナの事は気付いていたに決まっているじゃないですか。
いつだって一番はシェリナですよ」
なにやらイチャイチャとし始めた二人にユイは溜め息を吐き、レイスと一緒に来ていた友人と思われる二人に視線を向けると二人は呆気に取られていた。
ユイの視線に気づくと近付いてそれぞれ自己紹介をしてきた。
「初めまして、あなたがユイちゃんね。
私はリューイ、私達はレイスとは学生の時からの友人で職場も同じよ」
「俺はロイクだ」
ロイクはオレンジっぽい短めの茶髪の筋肉質な男性。
リューイは茶髪のショートヘアーで少し背の高い細身の女性。
「ユイです」
笑顔で対応しようかと逡巡するが、普段から無表情のユイにとって無理矢理笑顔を作るのは難しい。
以前、このままではダメだと練習した事があるが、どうしても引きつった笑顔になり、逆に怖い表情になった経験を思い出し、断念して普段通りにする。
しかし、あらかじめレイスから聞いていたのか、ユイが笑顔もなく無表情で対応しても嫌な顔は微塵もしなく、ほっと胸をなで下ろした。
「なぁ、あれっていつもか?」
ロイクは長年の友人の知らない一面を見て呆気にとられながら、未だにイチャついている二人を指差した。
「………はい」
溜息を吐き、このまま放置するとずっと続きそうな二人を止めに入る。
「パパ、ママお客様ほったらかしたらダメでしょう」
「………あら本当だわ、ごめんなさいね」
「すっかり忘れていましたよ。
お腹も減ったし食事にしましょうか」
「お前なぁ、一応客が来てるってのに無視とはどういう事だ」
「あなたがどうしてもと言うから連れてきたんでしょう。
妻と娘との至福の時間を邪魔するんじゃない」
「はいはい、良いから食事にしましょ。お腹空いたわ」
「では皆様ご案内いたします」
ジョルジュに案内され食事が用意されている部屋に向かった。