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【書籍化&コミカライズ】リーフェの祝福  作者: クレハ
2章

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無属性魔法

 翌日、試合に勝ち残った二グループへのご褒美である、元帥と総帥の特別授業が朝から行われていた。



 授業を受けられない生徒達も、せめて見学だけでもしたいという声が多く上がったが、集中力が切れるからと元帥と総帥が拒否し、この場に居るのはフィリエルとユイのグループの者達と、ベルナルトとアレクシスとガイウスと枢機卿と教師代表のバーグのみとなっている。



「遅い!もっと集中して、最後まで魔力をしっかり安定させろ!」


「はい!」


 イヴォ達一年生組が順番に総帥から指導を受けている。

 口の悪い総帥はしきりに怒鳴りつけているが、怒られている本人達は至って嬉しそうにしていて、怒っている総帥の方がやりにくそうだ。



 そこから少し離れた場所では、セシルが元帥から指導を受けていた。


 学園では飛び抜けて優秀なセシルだが、流石に経験値の遙かに違う元帥から見れば、まだまだ未熟のひよっこ同然。

 しかし、元帥にしても、教えられた事を直ぐに覚える学習能力の高い優秀なセシルは教えがいがあるようで、軍での指導さながらに厳しい熱の入った指導をしている。



 普段学園で褒められる事はあれど、叱られるという事がないセシルの叱咤されている珍しい光景を、普段やんちゃが過ぎて何かと叱られているカルロが興味深そうに見ていた。


 そんなカルロと同じ様にカルロの側で見学していたフィリエルが声を掛ける。



「セシルがあそこまでめった斬りに言われてるのも貴重だな。

 学園では優等生で、教師達から何かを言われる事もないからな」


「本当だよな。まあ、本人は楽しそうだから良いだろ。

 それより、フィリエル達は指導してもらわなくて良いのか?」


「ああ、俺達は普段から近衛隊長や大元帥直々に訓練を受けているからな」


「なんて羨ましい!………って言いたい所だけど、その顔見たら、なぁ………」



 フィリエルと、フィリエルの話を聞いていたルカとジークが揃って、羨ましさとはほど遠い浮かない顔をしていた。



「お前も軍に入れば分かる。大元帥は時々軍の指導に来られるが、終わった後は地獄絵図だからな。

 お祖父様と、そうたいして変わらない筈なのにまだまだ現役……いや、若者より元気だからな………。

 覚悟していた方が良いぞ」


「あんまり、聞きたくなかった………」


「ところでユイはどこだ?」


「ほら、あそこだ。

 朝、総帥が直々に迎えに来たから逃げそびれて、ずっと機嫌が悪いんだよ」



 カルロが指差す隅の方には、ふて腐れているように見えるユイがいて、その様子にフィリエルは苦笑を浮かべる。



「確かに悪いな」


「………そうですか?」



 表面上は無表情で分かりづらい為、ルカとジークには普通に見えたが、フィリエルには容易に分かった。



「総帥は何がなんでもユイをギルドに入れたいようだな」


「ユイはパン屋を継いで平凡に暮らしたいと言い張ってるけどな」


「させるかっ」


「やる気があるのは良いが、気を付けた方が良いぞ。

 何せ、ユイの理想通りの、気が優しくて平凡な男がユイの近くにいるからな。

 向こうはユイが好きらしいから、ユイ次第じゃどうなるか分からないかもな」


「何!?」



 さらっと告げられた恋敵の存在に、フィリエルは激しく動揺する。



「まあ、ユイは友達以上の感情はなさそうだから大丈夫だろ。あはははっ」



 少し脅かしてやろうという、軽い冗談でマルクの話をしたのだったが、それは予想以上の効果を発揮したようで、最後のカルロの話は耳に入らず、しばらくの間フィリエルは呆然と立ち尽くしていた。



 一方、ずっと遠目に授業風景を眺めていたユイだが、突然総帥がユイの方を見て、ニヤリと獲物を見定めた猛獣のごとく笑った。


 どうやらイヴォ達四人の指導を一通り終えたようで、次はお前だと言っているのだろう。

 ただ指導を受けるだけならばなんら問題ではないのだが、ユイは嫌な予感がしてならない。



 警戒しながら近付いて行くと、総帥はイヴォ達に離れるよう指示を出す。

 そして、イヴォ達が離れると、青色の球体を取り出し空に投げる。

 球体が放物線を描き地面に落ちると、硝子が割れた時のようなパリンという音を立てて砕けた瞬間、総帥を中心にドーム状の結界が張られた。



 突然現れた結界に、自然と周囲の視線が集まる。

 元帥とセシルも、手を止めユイ達に視線を移す。


 嫌な予感が当たり、ユイは直ぐにこの場から逃げようと結界の外に出ようとしたが、結界が壁のように立ちはだかり、それ以上前には進めなかった。

 試しに魔力をぶつけてみるが、弾かれる事なく結界に吸収されていく。

 どうやら、外からだけでなく、中からの干渉も防ぐ魔具のようだ。


 これは、競技場でも使われていた、魔法や魔獣を外に出さないようにする為の結界を魔具にしたもので、使用者である総帥が解除しない限り、ユイは外に出ることが出来ない。



「何のつもりですか?

 指導するだけなら結界なんて必要ないでしょう」


「指導なんてするつもりは最初からねえからな。

 前からお前と手合わせしたいと思っていたんだ。

 素直に言っても逃げるだろう?」


「当然でしょうが。戦闘狂の貴方と戦うなんて大金積まれても嫌ですよ」


「そう、つれない事言うな。楽しもうぜ」



 心底戦う事を喜び、獲物に食らいつくその瞬間を今か今かと待ち望んでいるようなぎらついた眼差しは、とても常人には出せない危険人物の香りがぷんぷん漂っている。

 これがギルドを取りまとめる総帥だと言うのだから、パン屋を継ぎたい云々ではなく、ギルドに入りたくない理由の一つだと言う事に、いい加減気付いて欲しいとユイは思う。



 総帥は戦う気満々だが、はっきり言って気が進まない。

 そもそも、実力主義のギルドにおいて頂点に立つ総帥と、学生にしては強いとは言え、まだまだ経験の浅いユイが戦ったとしてユイに勝ち目があるはずがない。



「安心しろ、最低限の手加減はしてやる」



 戦闘狂相手にどう安心すれば良いのか、甚だ疑問だが、一度手合わせしなければ解放してくれそうにない。



「(適当に合わせてさっさと負けよう)」



 そう考えていたユイだったが、総帥の周りに集まる濃密な魔力の気配に、背筋が凍るような悪寒を感じ、咄嗟に防御魔法を全力で張った。


 防御魔法が張られるとほぼ同時に、凄まじい衝撃がユイを襲う。

 防御魔法を張っていても尚防ぎきれないその威力に、ユイの体は後方にはじき飛ばされた。

 次いで全身に襲ってくる衝撃と痛みに、呻くような声が漏れ出る。



「つっっ……うっ……!」



 ユイの体は滑るように地面を転がり、至る所に擦り傷を負い、制服は土で汚れてしまっている。


 痛む体で立ち上がると服に付いた土埃を払い、魔法で傷を治しながら、静かな怒りを、原因である総帥に向ける。



「っっ、正気ですか?

 こんな魔法を学生に使うなんて、殺す気ですか?」


「しっかり防御しておいてよく言うぜ」


「しなければ、私は今頃血まみれでその辺に転がっていますよ」



 総帥は詠唱破棄で突然攻撃してきたのに加え、その威力はとても未熟な学生に使うような強さのものではなかった。


 もし、ユイが詠唱破棄が出来ず防御魔法を張るのが遅れていたら……。

 もし、危険を察し、防御魔法を張っていなければ………。


 下手をしたら命が危なかっただろう。

 それほど危険で強い攻撃魔法だった。

 それをなんの躊躇もなく使ったのだ、見ていた者達全員が驚愕した表情を浮かべている。



 一番先にフィリエルが、一瞬遅れてカルロとセシルが止めようと近付くが、張られた結界により阻まれる。



「くそっ、駄目だ……」


「どけっ、カルロ!」



 カルロが結界を壊そうと魔法を放つが、吸収され傷一つ付かない。

 それを見て、フィリエルが自分ならばと結界へ向け魔法を使おうとしたが、元帥が慌てて止めに入る。



「いけません、殿下!!

 あなたの力では、結界は壊せても中の二人にまで影響が出てしまう可能性があります!」


「くっ!」



 かと言って、弱い力では結界は壊せない。

 フィリエルは助ける事が出来ず、悔しさにぎりっと歯噛みする。



 そんな騒ぎの中でも、アリシアに似て物事に動じないアレクシスは、のんびりとした声で隣にいるベルナルトに声を掛ける。。



「父上、流石にあれはまずいのでは?

 彼女と総帥の戦いはとても興味が引かれますが、私達が近くにいながら総帥の暴挙を止めなかったと宰相閣下の耳に入ったら仕事を放棄するだけでなく、これで彼女が大怪我を負ってしまった場合、総帥だけでなくギルドまで報復されて潰されるやも………」



 アレクシスに言われるまで、その可能性に思い至らなかったベルナルトは顔面蒼白になる。

 このままでは、国の中枢だけでなくギルドも機能を停止して、国内は大混乱だ。



「それはまずい、非常にまずいぞ!」



 非常事態を避けるべく、ベルナルトは息を全て吐き出さんばかりの勢いで叫ぶ。



「総帥!!直ぐに結界を解くのだあ!

 私では奴は止められん、このままではギルドも大変な事になるぞ、良いのか!?」



 ベルナルトの叫びが総帥に届くと、総帥はほんの一瞬硬直したのち、頭を抱えて唸りだした。

 そこには、先ほどまでの獰猛さはなりを潜め、何やら激しい葛藤が見え隠れする。


 ユイと戦いたい気持ちと、ギルドへの報復の心配とで天秤が左右に大きく揺れているのだろう。

 しばらく悩んだ末、やはりギルドの最高責任者として影響が出るのはまずいと考え、あっさりと結界を解いた。


 総帥が戦う意思を無くした事で、はらはらと成り行きを見守っていた者達は漸く表情を緩める。



「総帥なら、それがどうしたと言って強行するかと思いましたけど?」


「あの魔王だけは敵に回さないと決めている」


「………そう……ですか」



 歴戦の戦士である総帥にここまで言わせるとは、一体レイスは過去に何をやらかしたのかと、聞きたいような聞きたくないような、ユイは複雑な気持ちになった。



「仕方ねえ、戦いは止めてちゃんと指導してやる」


「リーフェの私では色々と扱いが違うと思いますが?」


「リーフェだろうが魔力を使っているのは同じだろう。

 それに、俺だって無属性魔法は使える。

 試しに俺に向かって、何でも良いから攻撃魔法を使ってみろ、勿論全力でだ」


「使ってみろと言われても………」



 いくら総帥が強いと分かっていても、人に対して手加減無しに攻撃魔法を使うのは気が引けた。



「俺を誰だと思ってやがる。ギルドの総帥様だぞ。

 それに万が一大怪我しても、枢機卿がいるから大丈夫だ」



 戦闘に優れた者が多いギルドと違い、教会は治癒魔法に優れた者が多い。

 中でも枢機卿は教皇に継ぐ実力者だと言われていて、普段人前に出ない教皇に代わり多くの実務をこなしている、誰もが認める治癒魔法の能力の高さを持っている。



「まあ、確かに枢機卿がいらっしゃれば安心ですけど………。本当に良いのですよね」


「おお、気にするな」



 そしてユイは総帥に向かって魔法を放とうとしたが、そこで少し考え込む。


 このまま無難な魔法を使って早く終わらせるのも良いが、先ほど総帥から受けた攻撃の怒りが残っていたユイは、何だがもやもやと気分が晴れない。

 少々驚かせるぐらいしても文句はないだろうと、総帥への意趣返しを決めたユイは、ポケットからフィリエルから贈られたエルフィーの花が刻まれたライターを取り出すと火を点し、最初に考えていたものとは違う魔法の詠唱を始めた。



「……はっ?お、おい、ちょっと待て、それは…………」



 ユイの詠唱を聞くと、総帥は隠す事もなく動揺を顕わにする。


 他にもユイが口にする詠唱の内容を知っている一部の者は総帥同様驚きを顕わにしているが、ユイではその魔法が発動しないと思っており、ユイの意図が分からず困惑しながら、何もせず立ち尽くしていた。


 しかし、フィリエルとセシルは他の者達とは別の意味で驚愕し、大慌てで自分達の前に防御魔法を張った。



 総帥の様子に、意趣返しは成功したとユイは内心ほくそ笑みながら、火が点いたままのライターを持っている手を横に振り切る。


 すると、ライターからの火が意思を持ったように動き出し、そこにどこからか吹く突風が合わさり、大きな渦を巻きながら総帥へと襲い掛かる。



 見学していた者達は、じりじりと焼けるような熱を感じたが、フィリエルとセシルが張った防御魔法により事なきを得た。

 そして、直撃を受けた総帥も寸前で張った防御魔法と特別製の防具の性能により無事だったが、その顔は険しく眉をひそめている。



「おい、殺す気か!」


「その前に人を殺しかけた人に言われたくありませんよ。全力で良いと言ったのは総帥でしょうが。

 それに、一応手加減はしましたよ」


「あれで手加減………。いや、そうじゃない!

 今のは火と風の複合魔法だな、間違いないな!?」


「そうですよ」



 複合魔法は火と風のように二種以上の属性を合わせた魔法の事で、広域魔法以上に難易度の高い魔法だが、今総帥が驚いているのはそれではない。



「お前はリーフェだろ!何故無属性以外の属性魔法を使っている!?」


「そんな恐い顔で凄んでも駄目ですよ。簡単に手の内をばらすと思いますか?」



 一般人ならば、聞かれていなくても全て自白しそうな迫力満点の顔だが、生憎何度も目にしているユイは免疫が出来ている上、総帥が力でどうこうするような人間ではないと知っているので、今更怯えたりはしない。



「お~ま~え~は!今自分が何したか分かってるのか!?

 お前は脈々と受け継がれてきた魔法史の概念を覆したんだぞ。

 それがどれだけ大変な事か分かってるのか!?」


「勿論分かっていますよ」



 リーフェが無属性以外の魔法を使えない。


 それはこのガーラント国内に限らず、この世界で子供でも知っている常識。

 遥か昔から言われ続けた事であり、実際にどのリーフェも無属性以外の魔法を使う事が出来なかった。

 決して覆る事のない世界の不文律。


 ………そう、言われてきた。


 過去形となっているのは、今まさにユイがその常識を覆してしまったからだ。


 もしこれが外部に漏れれば、総帥達が揃って勧誘に来た処の騒ぎでは済まない。

 各研究機関からの勧誘は間違いなく。

 下手をしたら倫理観の欠如した研究者達の実験台にされかねない。


 総帥ですらあまりの事態に、今後のユイの立場を考え恐れを感じているというのに、当の本人はまるで分かっていないかのように危機感を感じない。



「分かってねえだろ!

 もし、俺が誰かに話したらどれだけ大ごとになるか。

 お前は面倒事が嫌いで、のんびりパン屋をしたいんじゃなかったのか。

 だいたい俺は嬢ちゃんをギルドに勧誘してるんだぞ、そんな人間の前でこれ以上自分の価値を高めてどうする!?」


「話すんですか?」


「い、いや……そんな事はしないが………」


「でしょうね。

 総帥ならば、大事になると分かっていて口外するような人ではないと思います」



 この場にいる者達は、ユイの兄に友人。

 そして、その気になれば力ずくが可能な権力と地位がありながらユイの意思を考慮し、わざわざ情報を隠してくれるような配慮ある行動をしてくれる大人達で、口止めをしても外に漏らさないと言えるだけの信用があった。

 バーグとて、王達が話さない事を口外するような命知らずな真似はしないだろう。



「勧誘されるのはうっとうしいですが、信用していますから」



 媚びている訳ではない、純粋にそう思っていると分かる眼差しに、総帥は少し気恥ずかしさを感じたが……。



「まあ、練習する機会が少なかった時に、ちょうど良い打たれ強そうな実験台がいたから、試したかっただけですけど」


「おいっ」



 本当の理由は、人に見られないようにする為、効果範囲が広いものは練習する機会がほとんど無かったので、万が一力加減を失敗した時の為、殺しても死にそうにない頑丈な実験台で試してみたかっただけだった。



「………それでどうやった?」


「だから、手の内を簡単に明かす訳がないでしょうとさっきも言いましたよ」


「だが口止め料は必要だろ。………なあ、枢機卿?」



 総帥が口角を上げ、枢機卿を巻き込む。



「そうですね。

 ただ、黙ってくれでは、何かの拍子にポロッと話してしまうかもしれませんね」



 聖職者に相応しい毒の無い綺麗な笑顔だが、内容は立派な脅しだ。



「分かりました、話しますよ。

 その代わり絶対に口外しないで下さい。

 研究は好きですけど、騒がれるのは好きじゃないので。

 ………そういう事ですので、陛下と王太子殿下もこの場での事を口外しないと誓って頂けますか?」



 レイスが恐いので口外する気など無かったベルナルトとアレクシスは素直に頷き、続いて元帥とバーグにも了承させると、説明をするためユイは再びライターを取り出す。

 元々、ユイは魔法の説明を条件に口止めするつもりでいたので話す事に問題は無かった。




 ***



 ユイが、リーフェでも無属性以外の属性を使えるのではと思ったのは、もう何年も前の事だ。



 無属性しか使えないとどの書物にも常識として書かれていても、他属性を使っている兄達を目にして過ごしていた幼少期のユイには納得が出来ず、ひたすら無属性以外の属性を勉強していた。


 しかし、どの書物を読もうともリーフェは使えないという記述しか無く、いくら構築式を勉強してそこに魔力を込めようとも魔法は発動しない。


 屋敷にあった魔法書を全て読み切っても一つの魔法も使えなかったユイは、落ち込みながらこれまであえて避けていた無属性の本を読みその場で魔法を使ってみた。


 すると、これまで魔法を使えなかったのが嘘では無いかと思うほど呆気なく魔法が発動し、さらにユイを落ち込ませる事になった。



 自分が使いたいのはこれではないと、嫌々思いながらも無属性の魔法書を読み進め、ユイでも使える魔法を増やしていく中で、ふと思った事があった。



 それは増幅の魔法。


 魔法に干渉し、威力や効力を上げる魔法だが、これは無属性の魔法でありながら他属性の魔法にも効果を及ぼす。


 この魔法の存在はユイに一筋の光を見出した。



 リーフェが他属性を扱えないのならば、魔法に干渉増幅させるこの魔法も意味を成さないはずである。

 しかし、どの属性に対しても増幅の魔法は効果を与えた。


 そこで思ったのは、リーフェは他属性を使えないのではなく、自然界に存在する元素を集め魔法として形に出来ないだけではないのか。

 一度増幅の魔法で干渉し、自分の魔力の支配下に置けばリーフェでも他属性の魔法を行使出来るのではないか。



 ユイは試しに兄達に頼み、魔法を使ってもらい、それに増幅の魔法を使ってみる。


 増幅させるのではなく、あくまで干渉し、自身の魔力の支配下におく為に魔力を上書きするように魔力を強めに込めていくと、確かに使用者である兄の意思を離れユイに主導権が変わった。



 しかし問題は、他者に魔法を使って貰わなければならない事と、魔力の上書きは出来ても構築式の上書きは難しく、すでに完成した魔法を別の魔法には変える事は出来ない。

 研究しだいでどうにかなるかもしれないが、今の段階では不可能だった。



 単独で自身の使いたい魔法が使えないのであれば、攻撃を受けた際の防御として意味はあるが、決して他属性の魔法を使ったとは言えない。


 それから考え続けたが良い案は思いつかず、この辺りが限界なのかと諦めの気持ちになりつつあったが、何気なく見ていた空から降る雨にユイはある考えが閃いた。



「雨は水。水は水の元素が形となっているものです。

 なら、水を形作る元素に増幅の魔法を使えばどうなるのかと、そう思ったんです………。

 私の予想通り、誰の助けを借りる事無く、リーフェでも水の魔法が使えました。

 そして自然から生まれたそれらは、誰かの魔力も魔法の干渉も受けていない為、私の思う通りの魔法で使えます」



 ユイはライターを持つ手を前に出し火を点けると、今言っていた事が正しいと示すように、増幅の魔法を火に使う。

 ライターの火が突然火力を増し燃え上がるのを見せると、魔力を解きライターの火を消しポケットへと戻した。



「形がある事が前提なので、水だったり火だったりは準備する必要があるので大変ですね。

 地は砂や土がある所でなくてはいけないので建物内では使えないので、そこら中に空気が存在する風が一番準備も場所も必要なくて使い勝手は良いですが、視認出来る分、火や水や地の方がイメージがしやすくて扱いやすいですね」



 ユイの話を一語一句漏らすまいと真剣に聞いていた総帥は、話を聞いている内にある事に気が付いた。



「じゃあなにか、お前は複合魔法だけでなく、重複魔法まで使っていたって事か?」



 複合魔法は二属性以上の魔法を組み合わせる魔法に対し、重複魔法は二種類以上の別の魔法を同時に使う事。

 こちらも複合魔法並みの難易度がある。



 先ほどユイが総帥に対して使った魔法は、風と火の複合魔法と、その魔法を使う為の増幅魔法を使った重複魔法という事だ。



「そうですね」



 ユイは簡単に肯定するが、その内容はとんでもない。


 総帥自身も、己が他から見れば化け物じみた規格外という認識は持っていたが、ユイはその上を行く。



 確かに戦闘の強さや経験は総帥が遙かに勝ってはいるが、魔法の知識と応用力はユイの方が優れているのではないかと総帥は思った。


 他属性を使う方法を見つけた事に関しても、子供ならではの柔軟さから常識に捕らわれない発想が生まれたのだとして、それを実際に形にするのは並大抵の事ではないはずだ。


 年に見合わない豊富な知識。

 複合魔法と重複魔法を行える魔法操作力と魔力の保有量。

 それがまだ十六歳の子供だと言うのだから空恐ろしさを感じた。




「説明は以上ですけど、分からない事はありますか?」


「………いや、よおく分かった。

 お前が普通じゃないって事がな………」



 総帥の言葉に同意するように、全員が深く頷いた。



「ちなみに、その方法は他のリーフェでも使えるか?」


「えーっと………どうでしょうか。

 総帥も知っているように、無属性魔法は扱いが難しいですし、重複魔法が使える事が絶対条件なので……」


「無属性魔法と重複魔法を同時に使えるだけの魔力操作能力と、魔力量が必要って事か。

 だが、その条件を満たせれば誰でも使えるのか?」


「私も自分以外のリーフェで試した事は無いので確実とは言えませんが、恐らく出来るはずです」


「成る程、理屈は分かった。

 だが、それでどこまでの魔法が使えるのか知りたいから、他の魔法も使って見せてみろ」


「え゛っっ!?」



 ユイの顔がひくりと引きつる。



 ユイは激しく抵抗と抗議を繰り返したが、総帥の強引な押しに虚しく掻き消され、どの程度までユイが魔法を使えるか興味深々の総帥に元帥と枢機卿が加わり、初心者が教わる初級の魔法から難易度の高い魔法まで次々と使わされるはめになった。



 興奮状態の総帥達を誰も止める事が出来ず、最終的には魔法の使いすぎでユイはぶっ倒れた。


 増幅の魔法で自身の魔力を増幅して、使う魔力量を減らしていたが、大人でも難しい重複魔法を何度も使わされたのだから当然と言ったら当然の結果だろう。


 カルロは顔面蒼白で叫びながらユイを医務室へ運んだりとその場は大騒ぎとなり、権力者三人は揃ってバーグに説教をされ、「学生時代に戻ったかのようだ」と誰かが呟いていた。



 その傍らで、セシルが通信用魔具で誰かに連絡を取っていたのを誰一人気付いていなかった。



 ***



 ユイは医務室で睡眠を取ると直ぐに回復したが、その後総帥に悲劇が起こる。


 ユイに対して、総帥が一つ間違えれば命に関わる魔法を行使した事が、セシルからレイスの耳に入り、当然の事ながらユイを溺愛するレイスは烈火の如く怒り狂った。


 数十分後、総帥の元に恐慌状態のギルド職員から次々と連絡が入る。



 ギルドは戦闘の多い仕事柄、所属している者は武器や防具などに特に金と気を使う。


 ギルドは、オルティリア国でしか手に入らない良質で希少な鉱石を買い、加工してから所属している者に定価より安く販売していたのたが、オルティリア国と取引をし、唯一その鉱石をガーラント国内へ輸入していた貿易会社が、取引を止めると言いだしたのだ。


 別にその鉱石でなくとも武器や防具は作れるが、やはり質が大きく違う。

 その鉱石を使えなくなるのは戦いの多いギルドに取って大きな痛手だ。


 それだけではなくギルドは、裏を牛耳り、独自の広い情報網を持つメルフィス家から情報を買っていたのだが、メルフィス家の御曹司から情報の規制が掛かったというのだ。



 図ったような二つの問題に嫌な感じを覚えつつ、総帥がメルフィス家の御曹司に連絡を取ると…………。



「だって、あんな恐い声ですごまれたら拒否出来ないしー。

 あっ、因みに貿易会社はあいつと俺様が経営者だから、魔王様何とかしないと無理だから。

 あいつは俺様が言っても聞かないから、ユイちゃんに土下座でもして説得して貰ってねー」


「……………。」



 その後も続々と続く「何とかしろ!」という抗議の連絡。


 まさか裏でも表でも影響力のあるメルフィス家と繋がっているなど知らなかった総帥は、その足でユイの元へ行くと、人目もはばからず半泣きで土下座。


 現在進行形で起こっている事態を知らないユイは、あり得ない総帥の姿に顔を盛大に引き攣らせた。



 事情を知ったユイはその場でレイスに連絡して事なきを得たが、決して魔王には逆らうまい、と誰もが胸に刻み込んだ。







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