新しい父の家
急いで学校から帰ったユイは制服を脱ぎ、クローゼットから取り出したワンピースに着替えると、荷物を持って再び出掛ける。
着いた先は王宮からも近い貴族や力のある裕福な者が暮らす地区で、普段の一般市民が暮らす街並みとは違い静かで道の石畳も整備された洗練された雰囲気がある。
ユイはその中の一つの家にたどり着いた。
そこは祖父母の家とは比べものにならないくらい大きく立派な家で、一目で家の主がかなり裕福だと分かる。
富裕層が住むこの辺りの家では門番がいる家がほとんどで、この家の前にも一睨みで逃げ出したくなる屈強な男性が立っていた。
しかしそんなことは気にせず門に近づくと、ユイに気付いた門番は頭を下げ、門の扉を開けユイを中に通した。
門を通り、沢山の花が咲き綺麗に整えられた広い庭を横切り扉に近づくと、見計らったように扉が開かれ執事の格好をした初老の男性が姿を見せた。
「お帰りなさいませ、ユイお嬢様」
「ただいま、ジョルジュさん」
「奥様は中でお待ちですよ」
「はい」
ユイはジョルジュに促され家の中に入っていく。
部屋の一室に入っていくと、朝に一緒にいた母親のシェリナが笑顔で迎え入れた。
「おかえりなさい、ユイ」
「ただいまママ」
「ユイの為に焼き菓子を作ったのよ、早速お茶にしましょう」
「お菓子?食べる!」
お菓子と聞き、見た目には分かりづらいがユイの声の調子が一気に上がり、機嫌が良いと分かる。
喜んでいるユイを見て、シェリナも嬉しそうにお茶の準備を始めた。
屋敷にはジョルジュを始め数人の使用人が働いており、シェリナがする必要はないのだが、元々普通の一般家庭で育った為、全てされる生活は慣れておらず多少の身の回りぐらいの事は自分でしていた。
特にユイの事に関しては離れて暮らして出来ない分、出来る事は自分の手でしようと心掛けていた。
普通なら貴族の妻となった者が使用人がする事に手を出すのに難色を示す者が多い。
実際シェリナの前の夫はけしてシェリナにさせることはなく、窮屈さを感じながら暮らしていた。
しかし、夫となったレイスは理解のある人で、けして押し付けずシェリナの意志を尊重して好きなようにさせている。
シェリナが作ったお菓子をテーブルに並べ、お茶を飲みながら会話を楽しむ。
「今日はね、レイスの学生時代からの友人も二人来ることになってるのよ」
「友達………?だったら私がいないときの方が良いんじゃないの?」
「あら、居てもらわなきゃダメよ、二人はユイを見に来るんだから」
「どうして私を見にくるの?」
ユイはキョトンとした顔した。
レイスの友人とは面識も何もない、名前すら知らないのに何故会いに来るのか疑問に思った。
「レイスが溺愛する娘を一目見たいんですって」
「で、溺愛……」
シェリナの言葉にユイは口元を引き攣らせる。
「そうよ溺愛、だってレイスってばユイに似合いそうって服や可愛い物買っては、ジョルジュにもうクローゼットに入らないって怒られてたし、
仕事場でもユイの写真飾ってどれだけ可愛いか自慢してるらしいのよ、ママ少し妬けちゃうわね」
「そ、そうなの!?」
初耳だ、知らないところでそんな恥ずかしい事になっていると聞いて、頭が痛くなった。
レイスが帰ってきたら絶対抗議しようとユイは固く決意した。
せめて写真だけでも撤去してもらわねば。