エピローグ
「やった……やったぞぉぉぉぉう!!
ぎゃははははははぁぁぁっ!」
薄暗い地下の一室で狂ったように笑う男の声が響き渡った。
まるで幽鬼を思わせるように痩せこけて顔色の悪い男は、こんな薄汚い地下室には似合わない、その身にまとった上質な衣服から、この男が高貴な身分……それもかなり高位である事を窺い知る事が出来る。
そしてこの地下室には男だけでなく、黒いローブを着た者が数人いるが、顔が見えないほどローブを目深に被っているため顔が見えず、この者達が男か女かは判別出来ない。
狂ったように笑う高貴な男と黒いローブの者達。
それだけでも十分異様な光景だが、それ以上のものが彼等の周囲には広がっていた。
部屋の中心には天井と床、上下に向かい合うようにして巨大な魔法陣が描かれていた。
そして彼等の足下と壁を埋め尽くすように書かれた魔法の構築式。
その構築式の文字は赤く、辺りには顔をしかめてしまうほどの異臭が漂っていた。
しかし、その原因は直ぐに分かる。
部屋の隅に、まるで物のように積み重なり血溜まりの上に築かれた死体の山。
どこかしら体が欠損し見るも無惨な姿にされた者達は性別年齢に決まりはないようで、女性に男性、子供から老人、中には赤子の姿まで、数十人はいるだろうか………。
この部屋中の構築式は彼等の血によって描かれていた。
とてもまともな神経をした人間の出来る事ではない恐ろしい光景が広がっている。
しかし一番恐ろしいのは、これほどの凄惨な場でありながら誰一人それを可笑しいと感じていない事だ。
狂ったように笑う男にローブを着た中の一人が歩み寄る。
この者はローブの集団をまとめている者で集団からは長と呼ばれていた。
「おめでとうございます陛下。これで漸く念願が叶いますな」
そのローブの者は、恭しく男に頭を下げる。
籠もったような声だが、僅かに男であると判別出来る低い声。
そして集団をまとめているからにはそれなりの年齢を想像するが、実際の声からは想像より遥かに若いと感じられる。
「おお、それもこれもお前達のお陰だ、よくやってくれた。褒美はたんまりとくれてやるぞ!
金か、宝石か、女か?何がいいのだ?」
「とんでもございません。
我等一同、陛下のお役に立つことが我らの至上の喜び。お褒めのお言葉だけで十分でございます」
「ほう、随分と謙虚なことだな。
まあいい、この調子でこれからも私に仕えるが良い」
ローブの男は無言で再び頭を下げ、それに習うように後ろのローブの者達も頭を下げた。
「これでやっと復讐出来る………私から大切なものを奪った奴ら………。
待っていろぉぉぉぉ、必ず復讐してやるぅぅぅ!!!」
男の憎悪に満ちた声が冷たい地下室に響き渡った。
これにて一章完結です。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
二章は魔王様の番外編を書いてから更新を始めます。




