王宮からの呼び出し
退出したジークとルカは直ぐさま馬車で街に出て、テオドールに言われたパン屋の前に着いた。
この辺りは金持ちでも貧しくもない、ごくごく一般的な者達が住む地区。
なので馬車に乗り、明らかに身なりの整った二人は目立つ。
チラチラ見ている者、関わりにならないように視線を逸らし足早に去って行く者など、かなり浮いていた。
「おい、本当にここなのかよ」
「間違いないここだ」
「なら早く行こうぜ、俺達かなり目立ってるし」
珍獣を見るような目でジロジロ見られ、いたたまれなくなった二人は早く終わらせて帰ろうと、馬車を外に待たせ店の中に入っていく。
「あの、いらっしゃいませ。何かご入り用でしょうか?」
突然入って来た身なりの良い二人に、ユイの祖母が恐る恐る、言葉使いに気を付けながら声を掛ける。
「この店の者だな」
「はい、何かお求めでしょうか?」
「いや、買い物に来たわけではない」
「はっ?」
「ここにユイという少女はいるか?」
「はい、おりますが。あの子に何かご用でしょうか?」
「取りあえずその子を呼んでくれ」
有無を言わせぬルカに祖母は不安な気持ちを隠せずにいたが、店の騒ぎに気付いた祖父が工房から出て来た。
「取りあえずユイを呼んできなさい」
「でも、あなた……」
娘のシェリナを突然やって来た貴族に奪われた記憶の残る祖母は心配でならなかったのだ。
また、シェリナのようにユイまで連れて行かれたら………。
「大丈夫だ、今度は私が絶対にさせない。
だから安心して呼んできなさい」
その強い意志の籠もった言葉に、渋々ユイを呼びに家の中に入る。
昼食をまったりと食べていたいたユイは、人が来てユイを呼んでいるから店に来てくれと言われた。
一体至福の時間を邪魔するのはどこのどいつだ一言文句を言ってやろうと、不機嫌になりながら店に戻った。
しかし、そこに居た学園で遠目に見たことのある二人の人物に、何故いるのかと訝しげな顔になる。
「お前がユイか?」
「はい、そうです」
「今すぐ一緒に来てもらいたい」
「……どこにですか、理由は?」
ルカはユイの問いにどこまで答えるかと言葉に詰まる。
全て答えるには人目がありすぎて聞いてしまった者達からどんな噂が立つか分からない、少し迷った後に場所だけ答えた。
「……王宮だ、理由はこの場では言えない」
「分かりました」
王宮に行く事以外何も教えてはもらえなかったが、王族の護衛をしているこの二人の身元は確かなものだ。
付いて行ったとしても問題は無いだろうとユイは判断した。
問題は心配そうに少し離れた所から見ている祖父母。
そして、貴族に半ば強引に連れて行かれたシェリナの過去を知る故に、ユイに何かしようとしたら助けに入る気満々で家から持ってきた斧や鎌に棒、果てにはどう使うのか煮えたぎった湯の入った鍋や鶏を持って店の外から見守っている近所や常連の人達だ。
ユイは祖父母に向き直り、外から見ている人達にも聞こえる大きめの声で話した。
「お祖母ちゃん、この人達パパの部下の人なの」
「あら、レイスさんの?」
「うん。それでパパに言われて私の事迎えに来たみたいだから、今からちょっと行ってくるね」
「そう、そうなの、それなら仕方ないわね。
気を付けていってらっしゃい」
レイスの部下だと聞いて緊張していた祖父母は安心して顔を緩ませた。
近所や常連の人達には、シェリナに毎日毎日会いに来て見事射止めたユイの父であるレイスの事は有名だった。
宰相である事も知っている者が多く、身なりが良い二人が迎えに来た事にも納得し、安心してそれぞれ帰って行った。
そして、乗り込んだ馬車の中でルカは疑問を口にする。
「ずいぶん素直に付いてきたんだな」
いくら身なりが良くとも、見ず知らずの他人に、何の説明もされないまま付いて行くほどユイは危機感が無いわけではない。
抵抗も無く付いて来たのは二人の事を知っていたからだ。
「私はラストールの生徒なので」
「なるほど」
ラストールの生徒だから二人がフィリエルの護衛だという事を知っている。
王族に関わりのある者からの申し出なので従ったのだと、ルカも納得したようだ。
「さっき父親って言ったら全員納得してたけど、お前の父親は王宮で働いてるのか?」
突然やって来て王宮に連れて行くと言ったにも関わらず、周囲が簡単に引いた事にジークは疑問があった。
「ええ、宰相をしてます」
「えっ!?………それって魔王様の事か?」
「はい」
「………」
父親が宰相だと知ったルカとジークは顔面蒼白で固まった。
静かになった走る馬車から外を眺めながらユイは何故自分が呼ばれたのか考えていた。
二人の言動からいって宰相の娘だから呼ばれた訳ではないようだ。
ならフィリエルの護衛の二人が来たという事はフィリエルに関する事で呼ばれたのが有力だろう。
しかし、フィリエルならわざわざ呼び出さず自分から会いに来るだろうし、フィリエルとユイに関わりがあると知っている者は少ない。
もし王族と関わりがあると本当の父であるオブライン伯爵に知られれば、確実に王族と繋がりを持つために利用されるだろうと、母のシェリナにすら話してはいなかったのだ。
知っているのは兄だけで、フィリエルも誰一人話をしていないと話していた。
フィリエルに近しい者で会っていることを知っているのは一人だけ……。
「私を呼んだのは先王陛下ですか?」
「あ、ああその通りだ」
「よく分かったな」
王宮に向かう馬車に揺られる中、何一つ情報を与えていないにも関わらず言い当てたユイに驚く。
ユイは自分を呼んだのが知った人物だと分かりひとまず安堵する。
テオドールならば危険な事になりはしないだろう。しかし、わざわざ王宮に呼ばれた理由が分からなかった。
「着いたぞ」
その言葉で考えに沈んでいた意識が戻る。
馬車の扉を開けられユイが外に出ると大きな門が目に入ってきた。
しかし、辺りに人は見当たらず、どうやら正門ではなく裏門から入ったようだ。
「こっちだ」
呼ばれてユイは二人の後に着いて行く。
王宮の中に入って行くと、煌びやかで豪華な装飾や置物の数々に初めて来る王宮に感動する。
あまりキョロキョロしているのを見られ、これだから庶民はと思われるのは嫌なのでユイは前を歩くルカとジークに分からないように初めて見る壮麗な王宮の中を見回す。
そうしている内に、段々と今までとは辺りの様子が違ってきた。
静かで厳かな雰囲気、歩いている場所も人通りが少なくなり、たまに通る人は侍女や兵士のみ。
その兵士達の服は皆、王族の身辺を守る近衛騎士の者だけが着る服なので、ここが王宮の中でも奥の王族の私的な居住区だと分かった。
前を歩く二人は一つの扉の前に立ち止まった。
「ここだ」
「準備はいいか」
場所が場所だけにこの中にはテオドールだけでなく、他の王族がいる可能性もありそうだと今更ながら気付き緊張してきたが、逃げるわけにもいかずユイは覚悟を決めた。




