フィニーVS
昼食を終え、ユイ達はセシルとカルロと共に試験場に向かい、試験の後半戦が始まった。
次々と試合が行われ、フィニーの番がやって来た。
「フィニー負けるんじゃないわよ!」
「むしろほどほどにしとけ!」
ユイは試合の方に集中しているルエル達を確認し、少し距離を取りこっそりセシルとカルロと話す。
「ねえ兄様、エルは?」
「来てないみたいなんだ」
「そうなんだよ、あいつの事だからユイの試合は絶対見に来ると思ったんだけどな」
フィリエルが来ていないと知り、ユイはがっかりと落ち込む。
「理由は分からないけど、ここ三日程学校を休んでる」
「何かあったの?病気?」
「分からない。魔具で何度も連絡を取ったけど繋がらなくてな」
セシルは不安そうにするユイの頭を撫で、安心させるように優しく微笑む。
「きっと公務で忙しいんだよ、一応王子だしね。心配しなくても大丈夫だ」
「うん……」
ユイは大丈夫だと自分に言い聞かせるように思ったが、モヤモヤと言いようのない不安な気持ちが抜けない。
ユイは連絡用の魔具を持っておらず、フィリエルと連絡する手段のない今は、取りあえずこれから始まるフィニーの試合に意識を向ける。
そして試合開始直後から繰り広げられた戦いに、見ていた者達は絶句した。
「えげつねぇ」
ゲインがぽつりと呟いた言葉は観客達の心の声を如実に表していた。
試合が始まると、フィニーの対戦相手のルフトが炎の玉をいくつも出し放った。
流石Aクラスでも上位の実力者だけにその威力と数は目を見張る物があった。
しかし、フィニーはそれと全く同じ魔法をぶつけ、ルフトの魔法を押し切ってしまった。
これにはHクラスと侮っていたルフトだけでなく午後から審判をしていたトラヴィスや周囲の観客も驚いた。
「なんだと!俺の魔法が負けた………」
「残念だね」
「くそっ!さっきは手加減してやっただけだ!」
ルフトは一瞬呆然とするも、直ぐに悔しそうに口を噛み締め次の魔法を放つがそれも相殺される。
フィニーの魔法は威力、速さ、詠唱から発動までの速度、どれもがルフトの上を行っていた。
ルフトはその後フィニーに何度も同じ魔法で返された攻撃で次第に傷が増え、目に見えて疲労していく。
しかし、一番ルフトにダメージを与えているのはそれではない。
自分が使った魔法はことごとくフィニーに返され、
全く同じ魔法を使い実力差を見せ付けられる屈辱に、Aクラスである自信と矜持を大きく傷付けられたことによる精神的なダメージが大きい。
ルフトはとうとう、ガックリと膝を地面に付けた。
しかし、プライドが許さないのか再び立ち上がろうとする。
「もう降参しろ、それ以上は無理だ」
肉体的にも精神的にも疲労しているルフトに、トラヴィスがたまらず止めに入る。
「そうそう、下手なプライドは捨てて自分が弱いって事認めるべきだよ」
「バルカス挑発するなよな」
「くっ!」
ニッコリ笑うフィニーに、Aクラスの意地からかルフトは最後の力を振り絞り立ち上がった。
しかし、今まさに立ち上がったルフトにフィニーが容赦なしに風の魔法弾を放つ。
試合が終わると、気絶したルフトは直ぐに保健室に連れて行かれた。
それを見ていた観客達の心は一致した。
アイツが対戦相手じゃなくて良かった……。
戻ってきたフィニーにすぐさま掴みかかりゲインは叫んだ。
「お前やり過ぎだろ!」
そう思ってるのはゲインだけではないようで、周囲の者も危険物でも見るような目でフィニーを遠巻きに見ていた。
「やだなぁ、これは実技試験じゃないか。
僕はただ試験を精一杯頑張っただけだよ」
「どこが精一杯頑張っただよ、遊んでただろ!」
ゲインは掴みかかったまま、フィニーをガクガクと前後に揺する。
「はぁ」
二人が言い合っていると突然ユイが深いため息を吐いた。
「どうしたのよユイ?」
「お前もフィニーに呆れてるんだろ」
「ひどいなぁ」
「そうじゃなくて、あれ」
ユイの示した方を見ると、少し離れた所でガーゼスがまるで親の敵を見るような目つきでユイの方を睨んでいた。
ユイは先程からうっとおしいぐらいに向けられる視線に辟易していたのだ。
「あいつまだ懲りてなかったのね」
「知り合いか?」
カルロの問いにルエルが答える。
「さっき食堂で、ユイに自分勝手な因縁付けてきた奴です!」
「へぇ」
「ユイにね……良い度胸だな」
それを聞き、誰の目から見てもシスコンな兄二人の目の奥が剣呑に光る。
この瞬間、試合に勝っても負けても、その後の彼の運命は平坦ではなくなっただろう。
「もうすぐユイの番でしょ、どうするの?」
「試合直前に棄権するよ」
「納得しないんじゃない?」
「一度負けちゃえば気が済むだろうし、相手はAクラスだからこんな試験でもなきゃ会うこともないよ」
ユイは段々面倒臭くなってきて、出来れば早々に終わらせたかった。
「分かってるけどムカつくわね。
試合前に降参したらきっと後で卑怯者とか文句つけてくるわよあいつ!」
ルエルは後のことを想像して怒りに震えた。
「そんな事になっても俺達がいるから大丈夫だよ」
「そうそう、逆に地面に頭すり付けて謝らしてやるさ」
セシルとカルロは笑顔でそう言うが、明らかにユイを侮辱された怒りが伺える。
「なんか寒気が」
「シスコンは怒らせると怖いわね」
「でも気持ちは分かるよ、僕も妹がいるから」
「マルクは妹がいるのか、俺は姉ちゃんが二人だ。
ルエルの所なんか凄いぞ」
「そうなの?」
「八人兄弟で私は三番目よ、一番下はまだ生まれたばかりで毎日騒がしいったらないわよ」
ルエルの家は大家族でまだまだ弟妹達は幼く毎日の家の惨状は凄まじい。
それを思い浮かべたのルエルは疲れたような顔になる。
「僕は一人っ子だからルエルの所は羨ましいけどね」
「私もルエルちゃんのとこ賑やかで好き」
セシルとカルロがいるとは言え、何年も別々に暮らして一人っ子状態のユイには大勢で賑やかなルエルの家は新鮮だった。
それからも、ユイの順番が来るまでの間お互いの兄弟の話で盛り上がった。




