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因縁

「おぉ!!」



 ユイ達はやって来た北棟の食堂に感嘆の声を上げた。 



「凄いとは聞いてたけどここまでとは………」


「まあ、北棟は王族や貴族が多いから仕方ないかもね。

 彼等は子供の頃から英才教育されてるからほとんど北棟のクラスにいるから」


「それにしても差別し過ぎだろこれ!」



 ゲインが差別と言ってしまうのも仕方がない。


 北棟の食堂は見るからに豪華な内装で、天井にはシャンデリア、高級感漂うテーブルに座り心地の良さそうな椅子、どこの高級ホテルのカフェだと思ってしまう作りだった。 


 それに引き替え西と東の棟は合同の食堂が一つで人数も多いので広めに作られてはいるが、内装は普通の折り畳み式の椅子と机が置いているだけ、この北棟とは雲泥の差である。

 あちらの食堂を作る経費をこっちに使ってるからじゃないのかとすら思えてくる。


 いつも自分達が使っている物との差に悲しくなりながらセシルとカルロを待つ。


 その時、ユイが食堂を見回していると、見たことのある姿を見つけた。



「あっ」


「あああ!」



 向こうもユイに気付き声を上げた。


 それは少し前にユイを屋上に呼び出し、大切なペンダントを屋上から放り投げた三人の女生徒達だった。



 また何か言ってくるんじゃないかとユイは身構えたが、予想に反し彼女達は顔色を悪くして怯えている。


 彼女達の目線の先は何故かユイではなくルエルとフィニー。

 疑問に思うユイをよそに、ルエルが前に出る。



「あら、こんにちは」


「コン…ニチハ……」



 それだけを言うと彼女達は大急ぎで去っていった。



「どうやら、かなり懲りたみたいだね」


「当然でしょ、ユイを呼び出そうなんて二度と思わないようにしたんだから」



 その言葉でルエル達はユイが彼女達に呼び出されたことを知り、何かしらの報復を受けたたのだと分かった。

 それにしても………。



「ナニシタノ」



 あんなに脅えるなんてただ事ではない。

 しかし、ルエルとフィニーはニッコリ笑うだけで答えない、ゲインを見ると視線を逸らされた。


 ユイは聞くのを諦め、心の中で彼女達に謝った。




 一つ問題が解決したと思えば、新たな問題が勃発した。



「なぁ、あそこにいる奴なんかこっち睨んでないか?誰か知り合いか?」



 ゲインの視線の先をユイ達が見ると、確かに同じ一年のネクタイをした男子生徒が憎々しげに此方を睨みつけていた。



「誰よあれ知ってる?」



 ルエルが聞くとユイとマルクは首を横に振った。



「フィニーじゃないのか、お前色々恨み買ってそうだし」


「……多分?」


「おい!ちゃんと否定しろよ、冗談で言ったのに」



 フィニーには覚えが有りすぎるのか曖昧に答える。


 そうこうしている内に男子生徒が目の前にやって来た、ユイの前に……。



「ユイ・カーティスだな」


「なんだユイの知り合いか?」


「ううん、知らない」


「ちょっとあんた何か用?」



 ユイを睨み付ける相手に危機感を感じたのか、ルエルがユイを庇うように前に出る。



「俺はお前の対戦相手のガーゼスだ。

 身の程知らずのお前に忠告をしてやろうと思ってな」


「はあ!?何ですって!」



 突然現れ最初から喧嘩腰の物言いにルエルが食ってかかる、ゲインも応戦するように相手を睨む。


 ガーゼスはルエルとゲインなど視界に入っていないかのように怒りにまかせユイを罵声する。



「運良く去年の大会で八強になれたみたいだが、今回はそうは行かない。

 大体一度も戦わずに勝った無能が、夏の合同合宿に参加するなんて他の奴らをバカにしてるのか」


「ちょっと変な言い掛かりしないでよ」



「言い掛かりなものか!

 準々決勝までは一度も戦わず勝ち上がったが、準決勝でこいつは不戦敗だった。勝てないと分かってたから逃げたんだろう。

 合同合宿は将来を有望された者が参加するもので、お前みたいな卑怯者が参加して良いものじゃない」


「随分偉そうな事言ってるけど逆恨みじゃないの?」



 激昂するガーゼスを沈黙したまま視線だけを向けるユイ。そこへフィニーが口を挟んだ。



「何だと!」


「確か君は合同合宿に選ばれなかったよね。

 自分が選ばれないのにユイが参加するから悔しいだけじゃないのかな?」



 図星だったのか怒りと羞恥で顔を真っ赤にし、何も言えずにいる。



「何だよ逆恨みかよ」


「あんたの都合に付き合わせないでよね!」



 ゲインとルエルが途端に冷ややかな視線を送る。



「例えそうだとしても、コイツが準決勝で逃げ出した臆病者なのは事実だ!裏で何かしたんだろ!?

 それに合同合宿の参加に異論があるのは俺だけじゃない!」



 尚もガーゼスはユイを非難する言葉を続け、どんどん険悪になっていく雰囲気にマルクがおどおどしながら止めに入る。



「ねえ止めようよ」


「こんな事言われたままで黙ってられるわけ無いでしょ!

 大体合宿に選ばれなかった奴らが周りで騒いだって負け犬の遠吠えなのよ!試合もちゃんと裏は無かったと証明されてるんだから!」


「それも定かじゃないだろ」


「何ですって!?」


「そこのフィニー・バルカスが色々な人物の弱みを握って、お前達が脅したんじゃないのか?これだから弱い奴は。

 卑怯な真似までして勝ったところでお前達が下から二番目に弱いクラスなのは変わらないんだ、身の程を知ったらどうだ」



 八強に残れたのはフィニーが脅したからだと侮辱するガーゼスの物言いには、傍観していたユイも反応した。


 確かにフィニーは色々握っているようだが、それを使うのは身に降りかかった悪い事を回避する時であって八百長のような真似はしないし、その証拠もなく卑怯だと言われる筋合いはない。

 リーフェという事で非難や罵声を浴びせられるのは日常茶飯事なので今更気にはしないが、友達を侮辱されるのは許せなかった。

 自分の前にいるルエルの前に出てガーゼスに怒りを含んだ視線を向ける。



「何だ」



 ずっとルエルの後ろに隠されるように守られていたユイが急に前に出て睨むように見られ、ガーゼスは一瞬たじろぐが直ぐに睨み返す。








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