二人の兄
ユイ達が向かったのは四年生の試験場所。
四年生はよほど人気があるのか一年生から五年生まで多くの生徒達が見に来ていて、試験とは思えない熱気で溢れかえっていた。
「随分人が多いな」
「仕方ないと思うよ、四年生はフィリエル殿下がおられるし、オブライン家の双子もいるからね。
双子のファンクラブが良い場所取ろうと必死になってるらしいし」
「他にも四年生は優秀な人が揃ってるみたいよ」
今の四年生は他の年よりも優秀な生徒が固まる豊作の年で、必然的に試合は白熱したものとなり観客も多くなっていた。
「「「キャーッ」」」
周囲に女子の悲鳴が響き渡った。
「なっなんだ!?」
「ほら、今話してた双子の片割れだよ」
試合場に現れた男子生徒に女子生徒達が至る所で声援を送っている。
そして開始の合図がされたが、開始十秒にも満たない内に相手は地面に倒れていた。
再び周囲に悲鳴と歓声が響き渡る。
「うわっ!瞬殺、すっげえ強いなあの人」
「四年生の中でも突出した能力を持ってて、すでに色々な所から勧誘が来てるみたいだしね。
噂じゃあ、フィリエル殿下がいずれ軍のトップに立つ時の側近候補って言われてるんだよ」
その試合を見ていたユイは目を輝かせて呟いた。
「セシル兄様かっこいい……」
ユイが呟いた言葉に全員が固まった。
「………………はあ!?えっ!」
「ユイ、あんた兄弟いたの!?」
「しかも今セシル兄様って」
「彼がお兄さんなの!?」
驚くルエル達にユイはきょとんとする。
「あれ、言ってなかったっけ?」
ルエル達は勢い良く顔を横に振る。
「えっと、ママと今のパパとは再婚でしょう。
前の結婚の時にママは私と兄様達を産んで、離婚して私はママに引き取られたの」
「マジか」
「ねえ、ユイのお兄さんってどんな人?」
「うーん、普通の優しい兄様だと思うけど……。
私に対してはパパに負けないぐらい過保護かも」
ユイの話にレイスの親バカっぷりを知るルエル、ゲイン、フィニーの顔が盛大に引き攣った。
「……なあ、俺凄く嫌な予感がする」
「奇遇ね私もよ」
「会うことになったら悪夢の再来かもね」
三人……特にゲインとフィニーはレイスと初めて会ったときの事を思い出し顔色を悪くする。
あの時はシェリナが止めてくれたが、今回は止めてくれる人がいるか分からない。
とてつもなく身の危険を感じた。
「何だったら会いに行く?
セシル兄様も試合が終わって手が空いてるだろうし」
「本当?僕会ってみた……モガッ」
ゲインが言葉の途中でマルクの口を塞いだ。
「まっ待て待て、早まるな……じゃなくて、俺達はまた今度で良いよ!なっ、フィニー!」
「うん!そうだね。
ルエルももう直ぐ出番だし急いで戻ろう!今すぐに!!」
「私はどっちでもいいわよ」
「お前は黙ってろ!」
身の危険を感じたゲインとフィニーが慌てたようにまくし立て、ユイ達を連れ急いで離れようとした。
しかしその時……。
「あっ、カルロ兄様……」
ユイの視線の先には、セシルと似た容姿だが、優しげな雰囲気のセシルとは違い精悍な印象の青年がいた。
セシルが静ならこの青年は動といった感じを受ける。
あちらも視線を向けるユイに気付いたようだ。
「ユイ~!」
カルロはユイ近づいて来ると大きく手を広げ、ユイもカルロに近づいて行きカルロに抱き付いた。
「ユイ、久しぶりだな~、寂しかっただろ」
「カルロ兄様」
カルロはユイをぎゅっと抱き締め、ユイも甘えるように抱き付いた。
「………ねえ、兄妹だよね」
「そのはずだけど、ラブラブだね」
「これだけで、ユイを溺愛してるのがよく分かったわ。
レイス様がユイに会った時と同じ行動だもの」
「確かに」
まるで遠距離恋愛の恋人同士が再会を果たしたようなユイとカルロのスキンシップに、本当に兄妹か?と疑った。
「ねぇあれカルロ様じゃないの?」
「嘘、女の子と抱き合ってるわよ!」
「何で?あの女誰よ!!」
周りに生徒達がいる中で抱き合っている二人に、カルロのファンクラブらしき人達が騒ぎ始めた。
流石にユイも気付き離れようとしたが、逆にカルロは自分の片腕に座らせるようにユイを抱き上げた。
「キャー!」
「止めてカルロ様ー!」
「に、兄様」
悲鳴を上げる周囲にユイは慌てる。
「うるせぇ!黙れ!!」
カルロの迫力ある怒鳴り声に騒いでいた周囲は一気に静かになった。
「大事なユイとの時間を邪魔するんじゃねぇ!」
間違ってはない……。
間違ってはいないのだが、誤解を受けまくるその言葉に、案の定誤解した周囲が再び騒がしくなる。
「キャー!!」
「いやー!カルロ様ー!!」
「何騒いでるんだカルロ」
するとこの騒ぎを聞きつけセシルがやってきた。
カルロに抱かれているユイと鬼の形相の女生徒達を見て、直ぐに状況を把握したセシルは周囲に向かって話す。
「あの子は俺達の大事な妹なんだよ。
妹がびっくりするから騒がないでくれるかな?」
妹だと聞いた女達は恋人ではなかった事に安堵し、次第に騒ぎは収まった。
しかし、未だカルロに抱っこされているユイが羨ましいのかチラチラと羨望の眼差しで見ていた。
「カルロ、ユイが可愛いのは分かったから下ろしてあげな」
「嫌だ、お前はこの間会ったから良いけど、俺は会ってなかったんだぞ」
「カルロ……怒るぞ」
セシルの言葉にビクッと体を震わせ、直ぐにユイを下ろした。
顔も声も穏やかなのに、何故か背筋が寒くなる。
最近出来た自分達を産んだ母の再婚相手と同じで、一度怒らせると容赦がないという事は母のお腹にいた時から一緒にいるカルロが誰より知っているのだ。
「ユイ、大丈夫だった?
ああいう時は大嫌いになる!とでも言っとけば大人しくなるからね」
「うん」
素直にユイは頷いた。
「大嫌い……!?」
カルロはまだ言われたわけでもないのに、言われた事を想像してショックを受けた。
「そうだ、友達も一緒にいるの」
「ユイの友達か、紹介してくれるの?」
「うん」
ユイはセシル達に紹介しようとルエル達の方を呼んだ。
友達を兄二人に紹介出来るのが嬉しいユイだが、レイスの事があり紹介される方は戦々恐々だ。
「は、はじ…はじめまし…て,俺はゲイン・くーれー…と言い…まして……」
ゲインはガチガチに緊張して上手く話せない。
フィニーも顔が強ばっている。
見かねたルエルが間に入る。
「初めましてルエル・イーデンです.
すみません、この二人前回の事があってちょっと緊張してて……」
「前回?」
「初めてレイス様にお会いした時に……」
レイスの名前だけで何があったか大体理解したセシルは、被害者二名に申し訳なさそうな顔をした。
「なるほど、それは災難だったね
悪い人では無いんだよ、ちょっと母とユイに愛情表現が激しすぎるだけで」
「ちょっとじゃないでしょ」
すぐさまルエルがつっこむ。
「ま、まあ安心して、確かにユイに過保護なのは自覚しているけど常識はあるし、あそこまで酷くないからそんなに緊張しなくていいよ」
さらりとレイスに対し常識がないと酷い事を言う。
「本当に?絶対か?
悪魔のような形相で彼氏か聞いたり、ユイのどこが可愛いか延々と話して、相槌打ったらやっぱりユイが好きなんだろうって魔法撃ってきたり………」
どこで息継ぎしてるのか分からないほど一気に語られた内容にセシルは物凄くいたたまれなくなった。
「………すまない、代わりに謝るよ。
かなり大変だったみたいだね」
「父さんは親バカだからなあ」
まだ言われたわけではないと漸く気付いたカルロが話に加わる。
「取りあえず兄様達、私の友達のゲインとフィニーとマルクよ」
話が進まないのでユイが一気に紹介していく。
「これからもユイをよろしく」
「はい!」
「それでユイ達はこれからどうする?」
「もうすぐ俺の順番だから見ていくだろ?」
「ごめんなさい、もう直ぐルエルちゃんの順番来るから戻らないと」
「そんなっ……!」
カルロは再びショックを受けた。
「それなら仕方ないね、ユイの番は?」
「私とフィニーは午後からだよ」
「じゃあ、俺達も見に行くから、皆でお昼ご飯も一緒に食べよう」
「皆も良い?」
ユイがルエル達にも聞くと笑顔で了承した。
「じゃあ、終わったら北棟の食堂に来てくれるかな?」
「えっ、北棟はAからCのクラスの人しか食べられないんじゃ無かったか?」
「Aとかのクラスの人と一緒なら問題ないんだよ。
折角だから北棟で食べよう」
「やった!」
北棟で食べられると聞きゲインだけでなく喜んだ。
北棟の食堂は内装もメニューも豪華な仕様になっている。
しかし、入れるのは北棟で勉強している者だけなので、他のクラスの者達からしたら一度は行ってみたい場所なのだ。
因みに東棟と西棟の食堂は合同で、内装もメニューも普通の物だ。
「それじゃまた後で」
「うん」
ユイ達は兄二人と別れ自分達の試合場へ向かった。
【補足】
双子は父親の伯爵の事は大嫌いです、何せ母親と妹を蔑ろにしてきた人なので。
しかし、レイスの事は認めており、母親の再婚相手で妹のユイの父親になったなら、自分達の父親だろうと言って、普段から親しみも込めて父さんと呼んでます。
双子はレイスが父親だったら良かったのにと思ってます。




