表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/136

4

「ユイと会うのが嫌になるなんてあり得ない。

 ずっと会えなくて寂しいと思ってたんだから。

 けど、こんなに悲しませるなら一言言っておけば良かったな、悪かった」



 謝罪にユイは首を横に振る、そしてフィリエルはユイに手を伸ばし、ポロポロ流れる涙を指で拭う。



「これで誤解は解けたな。

 ほらユイ、昔みたいに呼んでくれないか?」



 ユイはフィリエルを見つめながら、以前は当たり前のように呼んでいたユイだけが呼ぶ名前を呟く。



「………エル」



 四年ぶりに呼ばれた名前にフィリエルは嬉しそうに破顔した。



「エル、エル、エル……」


「うん」



 何度も確認するように呼ぶユイに、フィリエルは優しい微笑みを浮かべ、ぎゅっと抱き締め四年ぶりの再会を喜び合った。




 ちゃんとした理解があった、自分だけではなくフィリエルも会いたいと思っていたんだと分かり安心すると、涙も落ち着きユイは別の問題を思い出した。



「あっ……ペンダント!」


「ああ、これだな」



 フィリエルは持っていたペンダントを取り出す。



「どうしてエルが持ってるの?」


「俺の護衛が拾ったんだよ。

 俺が持ってるのと同じデザインだから俺のだと思ったみたいだな。

 見つからなくて泣いてると思って届けに来た」



 先程の優しい微笑みとは違い、いたずらっぽく笑う。

 泣いていたのが事実なだけに何も言えず、ユイは顔を赤らめた。



「クックックッ、ほら後ろ向いて」



 声を上げて笑うフィリエルに不満げにしながら後ろを向くと、フィリエルはユイの首に手を回しペンダントを付けた。



「良かった」



 ペンダントが戻り安堵するが、ふと体の辛さを感じた。

 そういえば熱があったのだと思い出し、それを自覚すると忘れていたはずの体調の悪さが戻ってきて体がグラグラとしてきた。



「ユイ……?」



 フィリエルがユイの顔が赤く呼吸が乱れているのに気付いた。



「なんか…目が回る…かも……」


「凄い熱じゃないか!そういえば触ったとき熱かったような……。

 取りあえず保健室に行こう」



 フィリエルは保健室に連れて行こうとしたが、動きを止める。 



「俺が連れて行くと後々騒ぎになるな。

 セシルかカルロに来てもらうから少し我慢出来るか?

 辛かったら寄りかかって寝てて良いから」



 フィリエルは辛そうにするユイを膝を枕にするように寝かせ、連絡を取る為通信用の魔具を取り出した。

 すると、ユイがフィリエルの服の袖を引っ張った。



「また会える?」



 熱から意識が朦朧とするが、このまま目を閉じたらまた会えなくなるのではと不安になった。


 不安そうな顔で聞くユイを安心させるように優しく話す。



「大丈夫、今度はちゃんと会いに行く。

 四年も待たせたりしないから安心して寝てろ」


「絶対?」


「ああ、絶対だ」



 その言葉に安心すると、ユイはあまり見せる事のない満面の笑顔を浮かべ、次第に眠気がきたのかゆっくり目を閉じる。


 眠ったのを確認するとフィリエルはまずセシルという人物に連絡をした。





 ***





 次にユイが目を覚ますと屋上ではなくベッドの上だった。

 体を起こしキョロキョロと周りを見回すと、そこは見慣れたレイスの家でのユイの部屋だった。


 ユイは何故ここにいるのかと思い出そうとするが、屋上でフィリエルと話してからの記憶がない。


 ユイが考え込んでいると誰かが部屋に入ってきた。



「もう起きて大丈夫かい」


「セシル兄様」



 セシルは、ユイと血の繋がった正真正銘の兄で、四年前の両親の離婚で母親に引き取られたユイとは違い、伯爵である父親の方に引き取られた。

 セシルは双子でユイにはもう一人カルロという兄がいる。


 セシルはダークブラウンの髪に群青色の瞳、ユイの母親に似た優しく落ち着いた雰囲気を持つ。

 もう一人の兄のカルロはセシルと同じ髪と目の色をしているが、性格は落ち着いたセシルとは正反対で陽気で行動的。


 しかし、二人共整った容姿に加え、学園では実力者集まるAクラスで伯爵家の子息ということで人気があり、セシルとカルロにはそれぞれ学園内にファンクラブがあるのだとか。



「どうしてセシル兄様がここに?それに私も……」


「フィリエルからユイに熱があるって連絡があってね。

 まだ学園内にいたから執事のジョルジュさんに迎えに来てもらって、お祖父ちゃん達はお店があるからこっちの家に連れてきたんだよ」


「そっか、ありがとう兄様」



 すると、セシルがユイの頭に手を伸ばし優しく撫でる。



「フィリエルに会えたみたいだね」


「うん、ねえ兄様は知ってたの?

 エルが私に会いに来なかった理由」


「知ってたよ、カルロもね。

 フィリエルとは同じクラスだから聞く機会は沢山あったから……。

 でもフィリエルに口止めされていたから、ユイに悪いと思ったけど黙っている事にした」



 ユイとフィリエルが時々会っていた事を知っていた者は少ない。

 ユイの両親もフィリエルの両親も知らない。

 しかし、それを知っていたセシルとカルロはフィリエルとも昔から知り合いでクラスも同じ。

 そんな二人は、当然の事ながら全くユイに会いに行かないフィリエルを問い詰めた。

 理由を聞いたが、ユイを心配させるからと言われユイには何も話さなかったのだ。



「後継者問題は片付いたみたいだから、これからは沢山会えるよ」


「うん」



 ユイは嬉しそうにはにかむ。

 しかし、あまりにも可愛らしく笑う妹を見てセシルは密かに思った。




「(絶対に邪魔してやろう)」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ