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教室から出た後、ユイは職員室に行き落とし物がないか聞きに行ったが、それらしい物は届いていなかった。
見落としがあるかもと希望を胸に、再度ペンダントが投げられた場所の周辺を見回るがやはり見つからない。
ただのペンダント。
しかし、ユイにとっては自分と彼を繋ぐたった一つの代えの利かない大切な物だ。
これだけ探しても見つからない事に次第にユイの目が潤んでくる。
その時、
「探してるのはこれか?」
突然かけられた声に驚き勢い良く振り返り、そこにいた人物を見て息を呑んだ。
最初の出会いは七年前、どこかの貴族の集まりに連れて行かれた時の事。
父親に罵声を浴びせられ人知れず草陰で声を殺して泣いていると声を掛けてきた少年。
その時は少年の身分など知らず、後日知って飛び上がるほど驚いたものだ。
それからは時々王宮を抜け出し会いに来て、落ち込んだ時泣いた時には話を聞いて励まし慰めて最後は笑顔にしてくれた人。
四年前ペンダントをくれ、会いに行くと約束してくれた。
けれどそれから一度もフィリエルが会いに来ることはなかった。
何故……とユイは何度考えたが分からなく、彼は優しいからもしかしたらユイと会うのが面倒に思っていたのに言い出せなかっただけで、もう会いたくないと思っているのではないかと何度も不安に思った。
来てくれないなら行こうと思っても、伯爵の父を持つとは言え今はただの一般の子供が王子に会えるはずもなく、けれど諦めきれなくて………。
それほど会いたいと思い続けた人がユイの目の前にいた、成長して少年から青年になったが四年前と変わらぬ優しい笑顔をして。
そして、その手にはユイがずっと探していたペンダントがあった。
ユイは時が止まったようにフィリエルを見つめる。
「どうして……」
「それはペンダントを持っている事か?それともここにいる事か?」
「それは……」
ユイが答えようとしたが近場で数人の話す声が聞こえ中断する。
さらに話し声はだんだん近付いてくる。
「ここだとゆっくり話が出来ないな。
触ってもいいか?」
フィリエルはユイの前に片膝をつくと、ユイの顔を覗き込むように問い掛ける。
「えっ?うん」
ユイが訳も分からないまま了承すると、フィリエルは魔力を抑えるどころか魔力を阻害する手袋もせず、そっとユイの頬に触った。
しかし、魔力抑制も手袋もせず触ったにも関わらず、ユイには何の影響も現れない。
普通であれば魔力を阻害していない状態で触れば命に関わる影響が出るというのに。
何事もなく触れられたままのユイを確認したフィリエルは、満足そうに笑みを浮かべると、
地面にへたり込んでいるユイの膝裏に左手を差し入れ、もう片方の右手を背中に回し抱き上げる。
ユイを横抱きにしたままフィリエルは詠唱すると、足元に魔法陣が浮かび二人の体が光り始め、ユイは眩しさに目を閉じた。
光が収まり目を開けると、学園内の屋上に着いていた。
どうやらフィリエルが転移の魔法を使い、先程の場所から移動したようだ。
フィリエルは抱き上げていたユイを壁際にもたれかかるように下ろすと、向かい合うようにして座り込む。
そんな一連の行動を何も言わず見ていたユイの頭の中は激しく混乱していた。
フィリエルが何故ここにいるのか、何故ペンダントを持っているのか、何故今まで会いに来てくれなかったのか………。
会えなかった寂しさ、来てくれなかった悲しみ、会えた喜び、様々な感情がユイの中を駆け巡り、聞きたい事は山ほどあるというのに言葉が出て来ない。
「何か聞きたかったんだろう?」
「エ…フィリエル殿下はどうして……」
最初、以前呼んでいた名前で呼ぼうとしたが、自分が嫌で為に会いに来なかったのではという思いがくすぶっているユイには、今の自分に呼ぶ資格はないのではと思い途中で止め、名前を言い直して話し始める。
すると、言葉の途中でユイの頬に手が添えられ口を閉じる。
フィリエルは悲しそうな表情を浮かべた。
「昔みたいに呼んでくれないのか?」
どう答えたらいいのか分からずユイは顔を俯ける。
ユイはフィリエルの顔を見る事が出来ず、俯きながら四年間ずっと聞きたかった事を問う。
「どうして今まで会いに来てくれなかったの?
約束したのに………私が嫌になって会いたくなくなった?」
「違う!」
フィリエルはユイの会いたくなかったのか、という言葉に慌てて否定する。
思わず大きい声が出てしまい、ユイがびくりと肩を震わせるのを見て息を吐き出し自分を落ち着けた。
「違うんだ、俺も会いたかったけど事情があってお祖父様から会わないように言われてたんだ」
ユイは俯いていた顔を上げてフィリエルを見る。
「……事情?」
「ああ。ユイは王宮で俺と兄上とで後継者争いがあったのは知ってるか?」
ユイはゆっくりと頷き肯定する。
「その件で貴族達が色々と裏で動いていたんだ。
平気で命を奪おうとする手段を選ばない者達ばかりだったからな。
そんな状況でユイに会って貴族達にユイの事が知られたら、利用されたり命が危険になる可能性があったんだ。
ユイを守る為にも会いに行くのを控えていた」
「それならそうだって一言言ってくれたら良かったのに」
「俺も命を狙われてたからな、そんな事を知ったらユイは心配するだろう?
下手に心配させるよりは良いと思ったんだ」
「そう……だったんだ、そっか私の為……。
全然会いに来ないから嫌になったのかなって」
四年もの間ずっと渦巻いていた問いの答えが聞けて、そしてその答えが考えていた悪い予想と違っていた事に安堵し、だんだんとユイの目が潤み、我慢しきれなかった涙がポロポロとこぼれ落ちる。




