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ロイクの話が終わると突然食器が倒れる激しい音が部屋に響いた。
全員が音のした方を見るとワインの入ったグラスが倒れ、零れたワインがシェリナの服を汚していた。
「すみません、手が当たって倒してしまいました。
シェリナ大丈夫ですか?」
「ええ」
「とりあえず服を着替えた方が良さそうですね。
さあ、立って下さい」
レイスはシェリナの手を取り立ち上がる。
「じゃあ少し離れるので後は頼みましたよ」
そう言うとシェリナを連れて足早に部屋を出て行った。
そのレイスの行動にユイは僅かに違和感をもった。
取りあえず、戻ってくるまでロイクとリューイにレイスの学生時代の逸話を聞きながら食事をしていたのだが……。
「ねえ、ユイちゃんはレイスの事どういう風に思ってるの?」
「父親としてって事ですよね?
ママの再婚相手がパパで良かったと思ってますよ。
私にも凄く良くしてくれるし、私のパパになってくれて嬉しいです」
リューイの問い掛けに素直に思っていることを言った。
自分と血の繋がらない連れ子でありながら、誰が見ても分かるほど愛情表現をして大切にしてくれているのだ、今の所ユイには何も嫌に思う事はない。
敢えて言うなら愛情表現が激しい事だろうか、毎回窒息しそうなほど抱き締めるのは止めてもらいたい。
「急に父親出来て戸惑ったりしなかったのか?」
「ちゃんとママの事思ってるのは感じましたし、私にもきちんと説明をしてくれましたから……。
はっきり言って前の父親とは折り合いが悪かったので新しい父親に抵抗は無かったですね」
この時、ロイクとリューイがユイに対し思ったのは「自分の意志をきちんと伝えられるやけにしっかりした子」だった。
「ねえ、ユイちゃんは一緒に暮らしたりしないの?」
そう聞いた瞬間、ユイはじぃーとリューイを見つめた。
「…なっ……何?」
「……パパに聞けって言われました?」
「なっに言ってるの違うわよ」
疑わしい者を見るように無言でさらに見つめる。
無表情なので尚更リューイを追い詰める。
「…………」
「……うっ…分かったわ……その通りよ」
「ははっ、お見通しみたいだな」
ユイの無言の眼差しに耐えきれずリューイは視線を逸らし肩を落とした。
まさかこんなに直ぐに見破られるとは……。
しかも相手は学生。王宮で文官として働くリューイは己の力量に自信が無くなってしまった。
「そんなに分かりやすかったかしら?」
「いいえ、食事の前にもママから一緒に暮らさないかって言われたし、パパにも来る度に言われてたので、このタイミングで聞かれたからパパに言われたのかなって。
それに、服が汚れたならママだけで大丈夫なのに、私から見ても過保護なパパが部屋に私と初めて会った人だけにするはずないと思って」
「なるほど」
「よく見てんなぁ」
ロイクは感心したような顔をする。
「気付かれたのなら仕方ないわね。
だったら単刀直入に言うけど、どうして一緒に住まないの?
レイスも貴方と住みたがってるみたいよ」
そう今回ユイがいる時を狙って来たのはこれが一番の理由だった。
レイスがユイを可愛がっているのは傍目から見てよくわかる。
シェリナと結婚し、当然ユイも同じ家で暮らすものだと思っていたレイスは、祖父母の家で暮らすと言われ一気に天国から地獄におとされた。
その理由を問いただすも、のらりくらりとかわし絶対に話さないのだと、やけ酒を煽りながら涙ながらに話すのだ。
ロイクもリューイも面倒臭いと内心思いながらも、放置すると日々の政務に影響が出るので仕方なく力になる事にしたのだ。
理由を聞かれるとユイは渋い顔をする。
リューイとロイクは互いに視線を合わせ、畳み掛ける。
「ユイちゃんも分かってると思うけど、レイスは本当にあなたの事可愛がってるわよ。
貴方と一緒に住む為に出来るだけのことをしたいって言ってたわ。
それで私達に理由を聞いて欲しいって」
「何か不満があるのか?
レイスが無理なら俺達が相談にのるから言って見ろよ、なっ?」
「いいえ、不満って事じゃないです」
「なら言ってみろ、必要なら俺達が何とかするから」
言いたくなくて今まで上手くかわしていたが、流石に他人を巻き込んだとなると言わない訳にはいかなかった。
ユイは言いづらそうにしながら話し始めた。
「私も最初は一緒に暮らすつもりでいたんです」
「それならどうして気が変わったの?」
「二人共仲が良いんです」
「レイスとシェリナの事か?
仲が良いのは良いことじゃないのか、新婚だしさ」
「まあ、良いことなんですけど……。
お二人も見たので分かると思いますけど、人前を気にしないというか、私が居る前でも二人の世界で……。
まあ、新婚だし仕方ないと思うけど、でも始終それだと目の置き場に困るし……」
「…………」
「…………」
気まずそうに話すユイに二人は何も答えない。
いや、言葉が出なかった。
一体あいつは子供の前で何を考えているんだ。
「年頃の娘としては、居たたまれないというか何ていうか……。
私お邪魔なんじゃって思って……」
「………」
話を聞いていたロイクは突然立ち上がり、部屋から出て行ってしまった。
「あの………」
幸せそうにしている二人に水を指すような事を言うのは気が引けるので黙っていたのだが、やはり話さない方が良かったかと心配になった。
「良いのよ、気にしないで。
それより言いづらい事言わせちゃったわね」




