プロローグ
大きな屋敷の庭園に十代半ばぐらいの少年と少年より何歳か年下の少女がいた。
空は晴れ渡り、春の暖かな陽射しに包まれている。
そんな気持ちのよい空模様とは裏腹に、いつもと違って元気のない少女に気付いた少年は、心配そうに少女の顔を覗き込んだ。
「どうした?元気ないみたいだけど」
「……あのね……父様と母様が離婚するんだって……。
それで、私と母様は家を出て行かなきゃダメだって。
出て行ったらエルの所から遠くなるから、もう会う事も出来ないかも……」
少女の両親が不仲なのは少年も知っていた。
いつかそうなるとは思っていたがこんなに早く来てしまって動揺が隠せない。
ただでさえ、少年の身分では中々会う時間が取れないというのに……。
この家から少女が出て行ってしまったら今までのようには会えなくなるだろうと少年の顔にも悲しみが浮かぶ。
少女にとって両親の離婚自体はなんら問題ではなかった。
むしろ、母親と共にこの家から離れられて嬉しいとすら思える。
しかし、それにより目の前の少年と会えなくなる事の方が何倍も問題だった。
ずっと心の支えとなってくれていた少年。
身分から言っても、もう二度と会えなくなる可能性だってある。
今こうして会えている事すら例外なのだ。
とうとう少女は耐えきれずポロポロと泣き出してしまう。
少女の涙におろおろと狼狽える少年は、今日渡そうとポケットの中に入れてあった物がある事を思い出した。
「ほら、これをあげるから泣き止んで」
「……これ何?」
少年が差し出したのは二つのペンダント。
翼のレリーフが彫られ二つのペンダントを合わせると一つの模様になる対のペンダントだった。
それぞれには、お互いの瞳の色である緑色と水色の石がはめ込まれている。
「きれい……」
「気に入ってくれたみたいで良かった。
このペンダントは二つで一つなんだ。
離れてもまた会えるようにと、ユイが強くなれるようにってお守りだよ」
そう言って少女の首に手を回して、少年の瞳の色と同じ緑色の石がはめ込まれたペンダントを付け、自らは少女と同じ水色の石のペンダントを首に掛けた。
「大丈夫、必ずまた会いに行くから…………。
待ってて、ユイ」