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1-4  旅をするには……


「そう言えば……」


 蔦と和解した透が、右手にも垂れたままの蛇の頭に目を向けた。蛇の体はぐったりと力なく垂れ、その姿はすでに命を失っている事を示している。死因は首を握りっぱなしだった為、窒息死したようだ。


 透は暫らくの逡巡しゅんじゅんの後、意を決したように蛇の首に齧り付き、骨まで歯を立てる。心臓が止まっているので流れ出る血に勢いは無いが、尻尾を持ち上げて血を送り、首筋から吸い出す事で、蛇の体から血をすする。


 これは血抜きの為だが血液の栄養価は高く水分も貴重だ、何より血が流れるままにすれば血の匂いに肉食獣が寄って来るのは想像にかたくない。その為に必要な行為とは言え、透の苦りきった表情からは心の中で『これは必要な事だ』と自分に言い聞かせているのが見て取れる。


 あらかた血が抜けると、透は蛇の死体を首にかけ木登りを再開した。

 

「さて、蔦さん、早速手伝ってもらえる?」


 透が上の方に目を向け蔦に声を掛けると、蔦が声に応ずるようにするすると上方の枝まで昇り、絡みつく。


 透は蔦に手をかけて強く引っ張り、問題は無い事を確認して登っていく。結び目も無く、取っ掛かりも無い蔦を登るのは重労働だが、枝が増え一々それを乗り越える様に登るよりは手間は掛からず、先程のようなアクシデントも起こりにくいため安全である。


 蔦に助けられ、適度に休憩を入れつつ透は登る。結局トラブルは蛇の一件だけで、透は無事に森の林冠部に出る事ができた。


 木の枝に掴りながら邪魔な枝葉をよけると、見渡す限りの緑が透の目に入る。


 前世の最後に見た、雄大な密林すらもはるかに超える命に満ちた大森林。30メートル以上登っても地平線の彼方まで緑が続いている。ポツリポツリと虫食いのように木々の隙間があったり、一際背の高い木が他を圧倒して勢力を広げていたりと、植物達の勢力争いが想像されて透は楽しげに目を細める。


「と、いかん、いかん」


 雄大な景色に見入っていたいと言う欲望を抑え、透は方角を確認する。


 太陽の位置はほぼ真上、現在地は北半球で地軸も太陽に対し傾いているから日の当たる面が南になる。南から右に90度で西、そちらに目を向けると地平線の彼方、緑の絨毯の合間にキラキラと光る波が見てとれた。


「あれが地図にある湖かな?」


 透は地図を取り出し見比べてみるが、距離があるため湖自体の形状の確認はできない。しかし、地図には湖に流れる川が描かれており、彼方に見える光る波からも帯状の隙間が左の方へ流れていた。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 十中八九あれがこの地図にある湖で間違いないな。まぁ間違っていても水は手に入る、まずはあそこを目指すか。


 しかし、あの距離だと今から降りて出発しても暗くなる前に到着するのは無理かな。出発は明日にして、今日は明日以降の為にできるだけの準備をするとしよう。


 さてと、先ずはこの木に生っている団栗の様な実を採ってと、持って降りるのは大変だから下に落として後で拾おう。これだけ大きな木なので結構な量の実が採れそうだが、持ち切れないほど採っても仕方が無いので適当な分だけ採りつつ、木を下りていく。


 地面に降りて直にやらなくてはならないのは明日の進行方向の目印だ、一晩たって方向が分からなくなったら目も当てられない。地面に矢印を大きく書いておこう。


 次に落ちている木の実を集める。んだが、その前に出来れば大きな葉っぱでもあるといいな……。


 ぐるりと周りを探索すると、幸いにも大きな葉をつけた木が見つかったので10枚程もらい、それで木の実を小分けして包んで草で縛って肩ら下げる。これで運びやすくなった。他にも利用法を思いついたので、余分に数枚もらって行く。


 さて、此処でやる事は終わったから移動しよう。


 ・


 移動したのは、昨日の死闘の跡。今朝目覚めた場所だ。地面は踏み荒らされ、へし折られた木の枝が転がっている。


 欲しかったのはこの木の枝だ。先ずは細かな枝を毟って、本体も一部を残して出来るだけ細かくする。出来上がったのは、50センチ程の細い棍棒に、太い枝と細い木の棒が二本に木っ端と葉っぱの山。さて、とりあえずの準備は出来た。まだ薪の量が足りないかも知れないが……、先ずは火をつけてから考えよう。


 あ、先に蛇の下ごしらえをする必要があるか。首に掛けていた蛇を下ろし、首を噛みちぎり一気に皮を剥く。胴体の太い部分で多少つっかえて苦労したが、後は気持ちいいように肉から皮と内臓が外れる。蛇肉と内臓を別々に葉っぱで包み、これで準備完了。


 地面を棍棒で浅く掘り、蛇肉の包みをそこに置く、上から見えなくなる程度に土をかけ、葉っぱと木っ端の山を盛る。


 ……あ、材料が足らん。周囲を歩いて、枯れ草と細長い草を集める。


 細い木の棒に細長い草を縛りつけ弓を作る、弓の弦にもう一本の細長い木を絡め、木の塊に添える。これで弓ぎり式火起こし機の完成だ。後は火が起こるまで弓を動かすのみ!


 手持ちの知識と技能でやれる最も効率の良い火の起こし方だが、如何せん乾燥していない木材に、弓の弦に使っている草が何度も切れたため、煙が立つまでだいぶ時間がかかった。煙の勢いが増してきたら、枯れ草を放り込み、火がついたら葉っぱと木っ端の山に入れ空気を送って火を大きくする。


 異世界なんだから魔法でも使えたらな……。とも思うが、使い方は知識に入っていなかった。知識によると魔法は存在するようだが、現状で使えないものは仕方が無い。使えないものに気をとられるより、出来る事をやらないと日が暮れてしまうので手を動かすとしよう。


 中々いい勢いで燃えている、油分の多い木なのかな?この燃え方だと少々薪が足らないかも知れん、ちょっと探してくるか。枯れ枝でもないかと先ほどより遠くまで歩き回り、使えそうな物を集めていく。幸い朽ちた木に柑橘系の果物まで見つかったので、明日の以降の為にも多めに果物を確保する。


 焚き火に戻ると火の勢いはだいぶ弱くなっていた、だが、これで丁度良い。葉っぱの包みから木の実を取り出し、直接火に当てないように、遠火で煎る。焦がさない様に気をつけて、細い棒でコロコロ転がしていると、時間を忘れる。煎りあがった木の実を冷まして大きな葉っぱに包みなおし、次の包みの木の実を煎りっと、やっていると、何時の間にやら日が暮れていた。


 そろそろ良いだろうか?団栗と一緒に煎っていた蛇の頭を噛み砕きながら、木の枝を使って焚き火をどかす。その下から現れた蛇肉と内臓の包みを取り出し包みを解く。


 内臓はにおいが心配だったが、葉っぱの香りのお陰か不快な臭いは無かった。内臓は栄養価が高いので、多少は我慢するつもりだったが杞憂に終わったようだ。


 肉の方も良い感じに蒸しあがっていた。骨を避けつつ肉を齧り取り、合間に果物でのどを潤す、調味料が無いので少々味気なくはあったが、状況を考えれば中々の晩餐だった。


 腹が膨れると眠くなったが、次に焚き火をするのは川に行けてからにしたい、寝るのはやる事をやってからだ。残りの木の実を煎り、蛇の骨を焼き、蛇の皮をあぶる。出来るだけ食料の準備をして、眠ったのはだいぶ夜も更けてからだった。



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