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奇妙な短編

節約中毒

作者: ショッピー


 微風波人そよかぜなみとは夜道を歩いていた。残業を終え、帰宅するためだった。

波人は薬品メーカーに勤めている。家では5歳になる娘の七海と妻の美月が待っている。

早く帰らなければいけない。

波人は久しぶりに走った。

2月の風が冷たかった。


 「ただいま」波人は玄関で靴を脱いだ。

「おかえり」エプロン姿の美月が言った。七海が駆け寄ってくる。

「遅かったわね。どうしたの」しまった。遅くなることを言い忘れた。

「悪い。今日は残業だったんだ」

「そうなの」


 「先に飯いいか?」

「わかったわ」美月はキッチンに向かった。

波人は七海を抱き上げる。

「あとでいっしょに風呂入るか?」けらけら笑う七海に聞く。

「うん」


 その日の夕食は肉じゃがと味噌汁と揚げ豆腐だった。

「ビールをくれないか?」

「だめよ」美月はきっぱりと言い放った。

「どうして?」

「今日から私、節約することにしたの。隣の奥さんも始めたらしいから」

それを聞いて納得した。いつもより家が暗かったのだ。必要のない電気は消したらしい。

「そうか。で、ビールはなしか」波人は不満を漏らした。

「しばらくは、ね」


 その時はそれでなんとも思わなかった。


 1週間後に家に帰ってみると、家の電気がすべて消えていた。

ほかの家にはついているが、まるで自分たちが旅行に行っているみたいだ。

「おい。これはどういうことだ?」ドアを開けるなりそう言った。


「節約よ」暗闇の中で彼女は笑った。

「とにかくこれはやめてくれ」波人は言いながら電気を消した。

「七海は?」いつもは駆け寄ってくるはずの七海がいなかった。

「もう寝かせたわよ」

「寝かせたってまだ7時だぞ」

「わたしも早く寝ることにしたの。起きていると電気代やらなんやらかかるから」

異常だった。

少し寒気がした。


 「おれ、先に風呂入るよ」

「もう入れてあるわよ」

波人は廊下を歩き出した。

まるで、魔女の館だ。

美月に負けないように明かりをどんどんつけて行った。


 服を脱ぎ、風呂場に足を踏み入れた。

「何なんだよ?これは」波人は大声で言った。

浴槽には水が4分の1しか入っていなかった。


「どうしたの?」美月が何食わぬ顔でやってきた。

「なんでこんなに水が少ないんだ?」

「節約よ。あと、シャワーは使わないでね。私使わなかったから」彼女は真顔でそう言ってみせた。

波人は恐怖を覚えた。


 ぬるい湯船の中に入り、体にかける。冷えていた体はあまり暖まらなかった。

シャンプーをしてからシャワーを使わずに湯船のお湯をかけた。

いつからこうなってしまったのだろう?

平和な日々は帰ってくるのだろうか。


 夕ご飯はとうとう納豆とキムチだけになってしまった。

波人はもうなにも言わず食べた。


 七海の部屋に行ってみると、七海はベットの上で目を開けていた。

まだ眠たくないのだろう。

「パパ。おかえり」七海はうれしそうだ。

「ああ。お前、まだ眠たくないだろう」七海の頭を撫でながら言った。

「うん。ママがもう寝なさいって言うの」

「そうか」

「ママ、どうしちゃったのかな?」

俺にもわからないよ。波人は心の中で言った。

「どうしたんだろうな」

 

 「よしっ。パパが絵本読んでやる」波人がシンデレラの絵本を持ってくると、七海は笑顔になった。

波人は七海が目を閉じるまで絵本を読んでやった。


 

 3日後の夜、家に帰るとリビングがゴミだらけになっていた。

波人は自分の目が信じられなかった。

美月は鬼の形相でゴミ袋をあさっていた。部屋の中が異臭で充満した。


「何してるんだ!やめろ」波人は必死に止めたが、美月はやめない。部屋の隅で七海が怯えていた。

「頭がおかしいんじゃないのか」彼女の腕を掴んでゴミ袋から引き離した。


 「何するのよ!私はこの前捨てたマヨネーズが使えるかもしれないって思ったから探してたのよ」

「一度捨てたのにか?」波人には理解ができなかった。

そんなことをする意味も、そんなことをする美月も。


 「節約しなきゃいけないのよ。あなた今日ご飯食べる?」美月はいかにもいやそうな顔で聞いてきた。

「いや。いいよ」

波人は決めた。

この家を出ることを。



 

 節約中毒、いかがでしたか?

僕の書くホラー短編の主人公は、春風、秋風、北風などで統一してきましたがそれももうなくなってきて今回はかなり無理やりでした(笑)。

でも書けてよかったです。

感想、アドバイスお待ちしています。

ではでは。

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― 新着の感想 ―
[一言]  こんばんは、水霧です。  なんというタイムリーな内容なんでしょうか。世の中が不況で節約が要求される中、実際にありそうで怖かったです。読み切った後、鳥肌が立ちました。  ホラーというより狂…
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