僕らの迷宮攻略法
倫理観がちょっと壊れた勇者パーティの、癖の強い話です。
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「無理」となったら迷わず閲覧を中止しましょう。
僕らは今、迷宮に潜っている。
カンティーラの街からサッカルーサの街へ行く途中だ。
カンティーラとサッカルーサの間には大きな【迷いの森】があり、その下に【マグノア迷宮】があるので、この二つの街を直接行き来しようとすると必ずどちらかを行かなきゃならない。
だけど、どちらのルートも「入った者で出てきた者はいない」と言われる難所なので、普通は大きく迂回して間に他の街や村をいくつも通って行くのだ。
ではどうして僕らがこの迷宮に入っているかと言えば、とっても簡単に言えば判断ミスだ。
「迂回路は日にちが掛かりすぎる」「森は迷ったら最後」という情報と共に「迷宮は一本道らしい」という情報を得た僕らは、それなら迷宮が楽だろうと簡単に考えてしまったのだ。
さらに迷宮の入り口に来てみれば『この先、一本道。入るべからず』と書かれた木製の立看板があったので、「一本道なら迷わないね」と、気楽に足を踏み入れてしまった。
一本道なのに「入った者で出てきた者はいない」ということがどういうことなのか、迷わないのに「迷宮」と呼ばれているのがどういうことなのか、僕らもっと真剣に考えるべきだった。
僕らは迷宮に潜って既に1週間が過ぎていた。
「勇者、もう飽きた」
襲ってきた魔物の最後の1匹を屠りながら剣士が僕に愚痴る。
「あははっ、一本道がこんなに長いなんて思ってもみなかったね☆」
幸い、迷宮の魔物は雑魚ばかりで負ける心配は無かったけれど、1週間も似たような魔物ばかりに襲われて、すっかりみんな飽きてしまっていた。
「後どのくらいで抜けれるのかしらぁ? 食料、足りると良いんだけどぉ」
みんなのお姐さん踊り子さんがいつもの、のんびりした口調で心配してる。
「迷宮に入る前の半分とちょっと残ってます。ここら辺が中間地点ならなんとか保つと思うんですけど……」
僧侶ちゃんが彼女らしくなく語尾を濁す。やっぱり不安になってるんだろうか。なんとか励ましてあげたいけれど、どう言えば良いのか迷ってしまう。
「だいたいさぁ、なんだってこんなに道がぐにぐに曲がってんのよっ!? 中がこんなだって知ってたら迷宮なんて入んなかったのにっ!!」
魔法使いが流石にキレた。でも、それをいまさら言ったってどうしようもない。だって満場一致で迷宮を選んだんだから。
確かに魔法使いの言う通り、この迷宮の一本道はカーブが多くて何回も何回も方向転換をさせられている。
どうやら迷宮の範囲全体が通路でみっちり(?)しているようだ。
短気を起こした魔法使いが壁を壊して隣の通路へ近道しようとしたけれど、壁は魔法を受け付けなかったし、魔法使いにねだられて武道家が拳を突いても僕らが剣を突き立てても小さな穴一つ空かなかった。
どうやら上の【迷いの森】といいこの迷宮といい、人知を超えた力が働いているんだろう。だったらいっそ、人間が立ち入れないようにしておいてくれたらいいのにと思う。
もう完全に歩き飽きた代わり映えのしない上下左右が土で出来た通路を歩きながら、僕らはすっかり口数が少なくなった。
たまに沈黙にも飽きた誰かが何かをポツリと零して、他の誰かがそれに返して、それでまた沈黙に戻る。その繰り返しだ。
「さすがのボクも、そろそろ女性が恋しいねぇ」
今度は遊び人さんがぼやき始めた。
彼は、遊び人は遊び人でも女遊びの遊び人だ。どうして僕らのパーティメンバーなのかと言うと、彼の幸運度は類を見ないほど高いし、敵側の女性をたらし込む……もとい、説得する手腕は見事なもので結構助かっているからだ。
「あらぁ、ワタシ達がいるのにそんな事、言うんですのぉ?」
「そうよそうよっ! 美女1人に美少女2人が一緒なのに何が不満なのっ!?」
「ああ、済まないね。君等に不満があるワケじゃないんだ。君等はボクにとって口説くべき女性である前に守るべき仲間なんだ。そこのトコロは誤解しないでくれたまえ、ハニー達♡」
なんだか良いように言いくるめようとしてるみたいだ。
実際、魔法使いには効果があったようで、ぶつぶつ言いながらも少しだけ顔を赤くして目を逸らしてしまった。
踊り子さんは元々そんなに怒ってた訳じゃないからその様子をニコニコしながら眺めてる。
そんなこんなでそろそろお昼を回るんじゃないかという頃、僧侶ちゃんが堪り兼ねたように口を開いた。
「勇者様、私、チーズが食べたいです」
「あれ? チーズ、もうなかったっけ?☆」
「チーズなら2日前に食べたっきりね」
「その、2日前に食べたので最後だったんです」
「確かにもう、チーズは無いわねぇ」
「オレは別に無くてもいいけど」
「あー、チーズねぇ。ボクも食べたいかなぁ♡」
「…………………………」
武道家くんは相変わらず寡黙だ。
「無いって分かったら欲しくなっちゃうね☆」
「私、チーズ大好きなんです。2日以上も食べられないなんて、耐えられないっ!」
普段大人しい僧侶ちゃんがこんなに自己主張するなんて、よっぽど好きなんだなぁ。なんとか叶えてあげたいけれど……。
「そうは言ってもよ、迷宮の中なんだ。店は無いし、先は判んないし、引き返すにしても1週間はかかるぞ?」
「1週間かけて引き返すなんてあり得な〜いっ!」
「チーズ、食べたい……です」
「僧侶ちゃん見てたら、ワタシも食べたくなっちゃったわぁ」
「やめてよ、あたしも食べたくなっちゃうじゃないっ!」
「なんだか一気に伝染しちゃったねぇ。なんとかならないかな♡」
「なんとかって何だよっ。どうにもなんねぇよ! せめて乳牛でもいれば乳絞ればいいけどさっ!」
ここは迷宮。魔物は居れど乳牛なんかいる訳ない。
僧侶ちゃんのチーズ禁断症状がすっかりみんなに移ってプチパニック状態だ。なんとかしないと。
でもどうすれば良いんだろう。
悩んでいると肩をトントンと叩かれた。そっちを見ると武道家くんが僕の背後を指差してる。
「……勇者、……牛」
その言葉に振り向くと、そこには腕を組んでこめかみをヒクヒクと引き攣らせて仁王立ちで立っている、牛頭人身の魔物ミノタウロスがいた。
「貴様等、ギャースかギャースか魔物の住処で五月蝿いぞっ! 躾のなっとらん人間共よ、俺様がお仕置きしてくれるわっ!!」
「…………………………」
「……武道家くん、牛だけどコレは牡牛だよ。牛乳は出ない☆」
そう言うと武道家くんは自分のマジックバッグから一つのキノコを取り出して見せた。
……このキノコは……。
「なるほど、分かったよ☆」
そう返事してキノコを受け取る。
「貴様等、聞いておるのかっ!? 人間のくせに俺様を馬鹿にしおってっ!! 覚悟し「みんなっ! 鼻と口を覆ってぇっ!!」」
ミノさんには悪いけど、ミノさんの台詞に被せてみんなにそう叫ぶと、僕は受け取ったキノコをミノさんへ向けて投げつけた。
ミノさんは一瞬身構えたが、投げたのがキノコだと分かると気が抜けたのか避ける事もせずに、従って僕の投げたキノコはミノさんの顔に当たってその小ささからは想像も出来ないほどの大量の胞子を撒き散らした。
「うぉっほっ! ゲホッゴホッ!! なんのつもりだ、貴様ーーーーーっ!!!」
大きな身体を覆っていた胞子を手で払いながら文句を言うその声は、さっきよりも高く響く。やがて胞子がすっかり散ってしまって見えてきたミノさんの姿を見ると……。
「やったーっ☆成功だぁ!」
「あらあらまぁまぁ」
「武道家のやつが意外にえげつない件」
「…………………………」
僕らの様子を見て、まだ怒鳴ろうとしていたのを止めて自分を見るミノさん。
「なんじゃコリャァアアアァァァァァッ!!!!!!!!!!」(松田○作風)
ミノさんの身体が、ボンッキュッボンッの大変スタイルの良いお姉さんへ変貌していた。
「セイテンカンダケだよ。胞子を吸うと性別が逆になっちゃう毒キノコなんだ☆」
僕が親切に説明してあげたのに、ミノさんはご機嫌斜めだ。
「意味、分からんわっ! 戻せっ、今すぐ戻せっ!!」
怒り狂ってるが、美人のお姉さんに怒られてもちっとも怖くない。
もともと着ていた服が筋肉を見せつけるように露出度が高めだったので、豊満なおっぱい様がすごく際どい事になっている。
でも僕は別に巨乳派じゃない。
「勇者ちゃ〜ん、このまんまじゃ牛乳は手に入らないわよぉ? お乳が出るようにしなくちゃぁ」
踊り子さんが僕の考えの足りなさを指摘してくれた。
そうか、女性にしただけじゃお乳は出ない。お乳が出るようになるには……。
みんな一斉に遊び人さんを見る。
「あ〜、そういう事ぉ? なんんだか気が進まないなぁ」
「遊び人だってチーズ食べたいって言ってたじゃない」
「お願いします。お願いします。お願いします……」
「いいじゃん、結構、美人だし、流石のおっぱいだし」
「…………………………」
「いつもの説得、お願いします☆」
僕が頭を下げると、仕方ないなという風に遊び人さんはため息をつくと、ずいっと僕らの前に出た。
「貴様等、いい加減にしろよ! どいつから躾されたいかっ!?」
未だにぷりぷり怒ってるミノさん改めミノ子さんにすいっと遊び人さんが近づく。
「怒ってるキミも可愛いけれど、怒ってばかりだとせっかくの美人が台無しだよ♡」
言いながらするっと右手でミノ子さんの腰を抱き、左手でミノ子さんの手を握る。
警戒していたはずのミノ子さんをあっという間に自分のペースへ巻き込んでしまった。流石は遊び人さんだ。
「き、貴様、いったいどういうつもりだっ!?」
ミノ子さんは遊び人さんを振りほどこうと身をよじるけど、ああ見えて遊び人さんって力強いんだよね。男だった時は筋肉隆々だったミノ子さんがびくともしない。
「どういうつもりも何も、キミとお近づきになりたいだけさ♡
くるくるの巻き毛もその愛らしい角も、とてもチャーミングで君の全てをボクの物にしたい……♡」
遊び人さんがミノ子さんを口説く……もとい説得する様を、僕らは体育座りで見学。踊り子さんだけが興味無さげに化粧直ししている。
女体化の影響で少しずつミノ子さんの仕草が女性らしくなっている。ミノ子さんはきっと自覚していない。
「自分が何を言っているのか分かってるのか!?」
「十分、分かっているさ。でも、ここはお子様が多すぎるね。ボクはキミと二人っきりになれる場所が欲しいよ♡」
遊び人さんがチラッと僕らを見て、すぐにミノ子さんの瞳を射抜くように見詰めると、ミノ子さんの目線が僅かに土の壁を見た。
ミノ子さんが視線を投げた壁をよく見てみると、紛れるように土壁と同じ質感の岩戸が少しズレていて、その向こうに空間がある事が分かった。
ミノタウロスがいきなり現れたように見えたのは、どうやらあそこから出てきたためらしい。この迷宮を住処と言っていたから、ミノ子さんの部屋なのかな?
当然ながら遊び人さんもそれに気付いて、とびきりのスマイルをミノ子さんに投げかけるとその細い体のどこにそんな力があるのかと思うくらい軽々と、牛の印象とナイスバディも相まってそれなりに重そうなミノ子さんをひょいっとお姫様抱っこして岩戸へ向かった。
片足を器用に隙間に突っ込んで岩戸を開け、
「それじゃあ諸君、しばらく待っていてくれたまえ♡」
と言うと遊び人さんは岩戸の向こうにミノ子さんを連れ込んでしまった。
岩戸が閉まりきる瞬間までミノ子さんは文句を言って手足をばたつかせていたが、努力も虚しく、岩戸は僕らの目の前でぴっちりと閉まった。
「あと1〜2時間は出て来ないわねぇ」
「退屈だな」
「あたしはいつ出て来ても大丈夫なように魔法の準備をしておくわ」
「楽しみだね、僧侶ちゃん☆」
「私の我壗の為に、皆さん、ありがとうございます」
「…………………………みんな、食べたくなってた。気にするな」
「おお、武道家くんが長文しゃべった!☆」
再び岩戸が開くまでの約2時間、僕らは思い思いに次の準備をしたり休息を取ったりおしゃべりしたりした。
そして再び岩戸が開くと、すっきりした表情の遊び人さんがミノ子さんの手を引いて現れた。
「みんな、待たせたね♡」
「待ってたわ。さあさあ、その魔法陣にミノ子さん入れて」
「えっ? なにを……?」
すっかり大人しくなったミノ子さん。オロオロしながら遊び人さんに促されるまま、岩戸の真ん前に魔法使いが書いた魔法陣の真ん中に入れられた。頬が上気して色っぽくなってる。流石は遊び人さんだ。
「時空魔法【時の順送り】っ!」
ミノ子さんが魔法陣の中で一人になると、魔法使いが詠唱を唱え魔法を発動させる。魔法陣が発した光にミノ子さんが包まれ、一瞬、見えなくなった。
でもすぐに光の渦は無くなり、仕事を終えてただの落書きと化した魔法陣の中にいるミノ子さんは、お腹がすこしぽっこりしておっぱいがさっき以上にはち切れんばかりに張っている。
己の変化に呆然としているミノ子さんを労るように遊び人さんが寄って行って肩を抱いてあげると、踊り子さんも立ち上がった。
「それじゃぁ、乳搾りといきますかぁ」
「え、踊り子も来るの?」
「あのねぇ、ただでさえミノ子さんは初めて尽くしでストレスマッハなのよぉ。せめて搾乳くらい女同士の方が少しはマシよぉ。時間が惜しいから二人でやるけどぉ」
二人がそんなやり取りをしていると、
「あ、俺、俺も乳搾りしたい!」
と剣士が手を上げた。一瞬、剣士ってば巨乳好きかと思ったけど、彼の目を見るとキラキラしていて、どうやら純粋に牛の乳搾りがしたいだけのようだ。
「だぁ〜め! 女の子のおっぱいはデリケートなのよ、剣士ちゃんは本物の牛でできる機会を待ってなさ〜い」
「魔物を偽物の牛みたいに言うなっ!」
「ちぇっ、前に牧場見学した時からやってみたかったのに……」
ミノ子さんは牛だけどただの牛じゃないから仕方がないよね。むしろ今はデリケートな存在だし。しょうがないから迷宮を抜けたらできるだけ早く体験学習させてくれる牧場を探すか。
かくして遊び人さんと踊り子さんに連れられて、ミノ子さんは再び岩戸の向こうへ消えて行った。
「魔法使いさん、大丈夫ですか? どうぞ、マジックポーションです」
「あ〜、ありがとう僧侶ちゃ〜ん。優し〜。流石に魔力が尽きそうよ。ここまでしたんだもの、何がなんでもチーズを食べるわよ……!」
「私のわがままのために……、ありがとうございます」
「何言ってんの? あたし達、一蓮托生でしょ? 全員が食べたいってなってたんだから、できることをするのが当たり前じゃない」
魔法使いはそう言うと、ゴクゴクとマジックポーションを飲み干した。時空魔法は大掛かりな魔法だ。魔力を喰うので使い手も多くない。実際のところ、今、襲われたら魔法使いは一溜まりもないだろう。まあ、僕、剣士、武闘家くんがそんなことにはしないけどね。
さらに20分ほど後、岩戸から三人で出てきた時には、遊び人さんと踊り子さんの手には牛乳がたっぷり詰まった革袋があった。ミノ子さんは顔を赤くして、力が入らないようで出てきてすぐに踞ってしまった。
そんなミノ子さんに遊び人さんは毛布を掛けてあげてから、鍋を準備していた僕らのところへやってきた。
「では、これから作りますね」
僧侶ちゃんが牛乳がたっぷり入った鍋を火にかける。
きゃいきゃい言いながら女性陣が料理する様は、やっぱり可愛いなぁと思う。
お酢の代わりにレモンの絞り汁を使って、ガーゼとザルで水気を切れば、カッテージチーズの出来上がりだ。
「ああぁぁ、チーズです。美味しそうです!」
「もう、ついでだから食事にしちゃいましょう?」
「さんせ〜い」
そういう訳で僕らはパンや干し肉・干し野菜などで食事の準備を始めた。
定番の干し肉と干し野菜のスープと、薄切りにしてトーストしたパンに、作ったカッテージチーズを乗せる。質素だけれど、とてもおいしそうだ。
「「「「「「「いただきま〜す」」」」」」」
みんなで揃ってチーズとパンに齧りつく。
僕はその瞬間に口の中に広がった風味と食感に目を見張った。周りを見れば、みんな、似たような表情をしている。
「美味しいっ!」
「美味ぇっ!」
「美味しいわぁ」
「意外に上品な味ですねぇ♡」
「…………………………美味」
「ああ、今まで食べた中で一番美味しいです!」
「ほっぺた、落ちちゃうねぇ☆」
僕らは揃って賛辞を述べた。だって本当に美味しいのだ。独特の酸味と甘みが絶妙で、トーストしたパンにとても良く合う。
こういう野営じゃなくてちゃんとした工房で作ったら、もっとずっと美味しいチーズになるに違いない。
「貴様等、まさか、それだけの為に俺様を女にしたの……か?」
這いつくばったミノ子さんが恨めしげに質問してきたので、
「そうだよ☆」
答えてあげたら突っ伏して泣き出してしまった。
「ちぇ、まぁ一番の功労者だからよ、別けてやるよ。腹、減ってるだろ?」
おお、剣士がジェントルだ。そうだよね、ピーーーな運動してお腹に子供がいて牛乳まで出したんだからお腹減ってるよね。
差し出されたチーズ乗せパンに目を向けるも、ミノ子さんはさらに泣き出してしまった。
「お前等、デリカシーが無さ過ぎる……。俺はこれからどうやって生きて行けば良いんだ。
やって来るかどうか分からない人間どもを屠るために……ここで一人、待って、待って、待って…………。他の魔物どもは人語を解さない低級な奴らばかりで……」
シクシクと泣いているミノ子さんに、今度は僧侶ちゃんが近づいていった。
「ミノ子さん、悲しまないで下さい。貴女のお乳で作ったチーズ、大変美味しゅうございました。
チーズが美味しいのはお乳が美味しいからです。美味しいお乳が出せる貴女はとても素晴らしい魔物だと思います。
お腹のお子の事も、私達が責任を取りましょう。貴女さえ良ければ私達と一緒にこの迷宮を抜けませんか? そして、私達と共にその子を育てましょう」
僧侶ちゃんの言葉に僕は感動している。僕らの勝手に振り回されたミノ子さんだもの。僕らで責任取らなきゃね。
「ボクもとうとうパパになるのか〜♡」
遊び人さんが意外に乗り気だ。軽そうにしていて責任感は強いものね。
「なっ!? 何を勝手に決めてるんだ、俺様に子を産めと言うのか!?」
「せっかく授かった命です。産まずにどうすると言うのですか?
幸い、父親である遊び人さんも納得してくれてます。みんなで育てれば苦労も幸福も分かち合えます。悪いことなんて何もないんです。
それから、これからは女性らしくご自分の事は“わたし”とお呼びする事をお薦めします」
僧侶ちゃんがちょっぴり説教モードに入っちゃったけど、そんな僧侶ちゃんも可愛い。
「不安に思うのも分かるよ、でもボク達を信じて欲しいな♡
なんたって、キミとボクは愛し合った仲じゃないか。大切にするよ。みんなも協力してくれる。
ボクの子供を産んでくれるね?♡」
遊び人さんがミノ子さんの両手を取ってキラキラの瞳で見詰めると、ミノ子さんが息を飲んだのが分かった。
見る見るミノ子さんの顔が赤くなる。
「ば、馬鹿な。会ったばかりでこんな……」
「会ったばかりで無体を働いたのはボクだよ。でも、それだってキミが魅力的だったからさ。
世界中の女の子が泣いても、ボクはキミに愛を誓おう♡」
「くっ、ふ…………………………、ほ、本当なんだろうな……?」
真っ赤な顔で上目遣いで訊いて来るミノ子さんは破壊力抜群だった。…………………………僕には僧侶ちゃんがいるけどね。
「ボクは女の子に嘘を言ったことはないよ、ハニー♡」
「う、お、俺様は、俺はずっと一人でこの迷宮で……。話す相手もいない、一人では出ることも叶わない。お……、わ……わたしは……何のために生きているのかと……ずっと…………」
「そう……。ずっと寂しくて辛かったんだね。でも、もう大丈夫さ。ボクがずっと傍にいるよ。ボクらがこの迷宮からキミを連れ出してあげる。外に出たら教会を探して式を挙げよう!♡」
遊び人さんのプロポーズを聞いたミノ子さんは真っ赤な顔でボロボロと涙を流した。そんなミノ子さんを、僕は不覚にも可愛いと思ってしまった。でもでも、僧侶ちゃんの次くらいだからね!
そんなこんなで、遊び人さんは見事にミノ子さんを落としたのだった。
こうやって僕らのパーティにミノ子さんが加わった。ミノ子さんは妊婦なのであんまり戦わせられないけど、僕らは十分に強かったので全然困らない。
ちなみにミノ子さんが言うには、迷宮の入り口の立て看板はミノ子さんが置いた物だそう。看板を置いてから迷宮に入る好奇心旺盛な人間が増えたそうだが、途中で引き返したり他の魔物にやられたりでミノ子さんのところまで辿り着ける人はまず居なかったとのこと。そして、僕らが出会ったあの地点がちょうど迷宮のど真ん中なんだそうだ。
だから後1週間も進めば迷宮の出口に着く。
先が見えれば当然、元気も出るもので、僕らは勢いに乗って迷宮を突き進むのだ。
「ふふ、これで毎日、美味しいチーズが食べられるのです♪」
END




