願い事を叶えた弊害
【登場人物】
・アラシ…"魔法の急須"に宿る"魔王"に願い事をしたが…。
・アブクマ…アラシの友人。
・魔王…"魔法の急須"に宿る。
★とある屋敷の客間にて★
アブクマ「凄い屋敷だ…。よくこんなでっかい和風の屋敷建てたね。いつのまにそんなに稼いだの?」
アラシ「実は…この屋敷は俺の実力とか努力で建てたわけじゃないんだ…。」
アブクマ「は? どういうこと?」
アラシ「こういうこと。」
(机の上に置かれていた袋から"とあるもの"を取り出すアラシ)
アブクマ「なにこれ? 金色の急須…?」
アラシ「これは、"魔法の急須"だ。」
アブクマ「"魔法の急須"?」
アラシ「この急須の中に、願いを3つまでならなんでも叶えてくれる"魔王"が宿っているんだ。」
アブクマ「"魔王"!?」
アラシ「その魔王に1つ目の願い事として『大きな屋敷に住みたい』と言ったんだ。そしたら、都内一等地の広大なこの土地に、この和風建築の屋敷をドーンと作ってくれたんだ。」
アブクマ「本当? 本当にそんなことがこの現実世界で起きるの?」
アラシ「本当だ。第一俺はアルバイト、そして実家は一般的なサラリーマン家庭。そんな俺にこんな十数億円規模の御殿が建てられるわけないだろう。」
アブクマ「確かにそうだね…。まあでも良かったじゃん。こんなに良い屋敷に住めるようになって。」
アラシ「何も良くないよ…!」
アブクマ「な、なんで!?」
アラシ「屋敷の建築費は確かに無料だよ。でも、その後にかかる維持費は全部俺持ちなんだ!」
アブクマ「…あ~確かにそうか…」
アラシ「魔王はあくまで屋敷を俺にプレゼントするまで。それ以上のことには魔王の力は適用されなかった…」
アブクマ「そりゃ住む人持ちだもんね。」
アラシ「それを踏まえて考えてみてよこの屋敷を!推定十数億円規模御殿を!」
アブクマ「和風建築だから屋根には大量の瓦、木造だから腐食も防止しなきゃ、そして襖に畳に障子…バイトの許容範囲を天文学的に超えている。」
アラシ「そうだよ…それとこれ…」
(アラシが一枚の封筒を見せる)
アブクマ「これは…役所から?」
アラシ「"固定資産税"の請求書だ。」
アブクマ「土地代か!」
アラシ「一等地の土地代だ!」
アブクマ「一等地の土地代か!」
アラシ「くそ…願い事する時に『維持費も固定資産税も無料の…』ってオプション付けるべきだった…。」
アブクマ「オプション付けないといけないんだ…気をつけよ…。あれ?でも確かアラシ、なぜかお金持ちの奥さんと結婚してたよな?」
アラシ「ああ。大資産家の美人娘と結婚してた。」
アブクマ「なら、その大資産家であるお義父さまに頼めば…」
アラシ「嫁とは離婚したよ…。」
アブクマ「え~なんで…」
アラシ「その嫁との結婚は魔王への二つ目の願い事として実現してたんだ。」
アブクマ「そこも魔王パワーか!」
アラシ「バイトの俺が大資産家様の令嬢様と易々と結婚できるわけないだろ。ファンタジーじゃないんだから。」
アブクマ「確かにそうだよな。」
アラシ「急須の魔王に『大資産家を父に持つ国民的女優並みに美人な妻が欲しい』と願ったから、結婚できたんだ。」
アブクマ「マジか…。そっちには凄いオプション付けてるね…。」
アラシ「これが男の業だよ…。」
アブクマ「アラシ…」
アラシ「最初は美人で金持ちの嫁が出来て狂喜乱舞したよ。でもあの嫁、箱入り娘過ぎる故か世間のことをなにも知らないし、家のことは役割分担しても全くやらないんだ…。」
アブクマ「あー確かにそれは困るね…。」
アラシ「それに俺は理系で嫁は文系、俺はインドアで嫁はアウトドア、俺はバイトで嫁はアパレルの社長…相性も悪すぎた…。」
アブクマ「うーん、ステータスは大事かもね…。」
アラシ「そして、俺に対してすぐ不機嫌になるんだよ。不機嫌の理由もよくわからないし…。」
アブクマ「あ~面倒なヤツだ。」
アラシ「そして最終的に喧嘩別れしたってわけ…。」
アブクマ「魔王のパワー隙だらけだな…。」
アラシ「クソッ!クソッ!何が魔王だ!何が願いを三つ叶えようだ!何が急須だ!」
アブクマ「アラシ…自分ではこれほどの絶望をカバーすることは出来ない…。魔王のパワーならなんとでもできるだろうに…。」
アラシ「だから今日三つ目の願い事を叶える。」
アブクマ「まだ二つしか願い事してなかったんだ。」
アラシ「これから三つ目の願いで全てをひっくり返してやる!」
アブクマ「そうだね。もう全部無かったことにしよう。」
(魔法の急須の蓋を開けるアラシ)
アブクマ「蓋開けた!?注ぎ口から出るんじゃないの!?」
(中にお茶の葉とお湯を入れるアラシ)
アブクマ「…?…?」
(蓋を閉じ、湯飲みにお茶を入れるアラシ)
アブクマ「お茶……ん!?」
(お茶の湯気が徐々に人型に変わっていく)
魔王「なんだなんだ!定時ギリギリに呼び出しやがって!サビ残はこの世から消え失せろよ!!」
アブクマ「これが魔王…黒いタンクトップ着てる…」
アラシ「魔王よ最後の願いが決まった…。」
魔王「ではこちらの『願望申請書』に必要事項をご記入になってお待ちください。」
アブクマ「感情の起伏どうなってるんだよ…。」
(『願望申請書』に氏名、性別、住所、電話番号、願い事を書き込むアラシ)
アラシ「お願いします。」
魔王「お預かりします。ウーーー願い事受領!『この世を消し去る』ーーー!!」
アブクマ「エーーーーーッ!!!ちょっと待ってー!!なになに!?"この世"を!!この世界が消える!?」
アラシ「もう全部を終わりにする。」
アブクマ「なんでだよ!『屋敷の固定資産税と維持費を無料にする』で良いじゃないのーーー!!」
アラシ「この世さえなければ、俺たち生命体がいなくなれば、幸せという概念は無くなるが、不幸という概念も無くなる!」
アブクマ「全生命を巻き込むなーーー!!」
アラシ「俺はそれで良い!!アブクマ!あばよ!」
魔王「受領のハンコ押印しま…」
アブクマ「ああああああああああああああああああああ!!!」
魔王「あ…」
(魔王の手が止まる)
アラシ&アブクマ「!?」
魔王「うち紙媒体廃止したんだった。あと受領する願い事は急須の主とは無関係な人物を巻き込まないもののみとするように規定が改訂されました。よってこの願い事は無効です。」
アブクマ「…あふゃっ…。」(安堵して崩れ落ちる)
アラシ「………魔王よこの屋敷を普通のアパートに変えて。」
アブクマ「うん、それで良い。」
ー終ー




