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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

野菜くらみ

掲載日:2026/04/09

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 こー坊は、犬といったら何を食べるイメージがある?

 ……ふむ、肉か。確かにイメージからして、動物を狩って肉を食べる狼のような印象が強いわな。

 いちおう犬は、肉食に近い雑食の動物とされておるが、野菜や果物といったものを多く食べることができるつくりにはなっていない。分量を間違えたり、そもそも食べるべきでないものを口にしたりすると、命にかかわる事態を引き起こす。

 そのようなことを何度も見ているうちに、おのずと「あの種は、ああいう風にして生きていくのだな」と生態の見当がついてくる。研究するにも駆除するにも、相手のことを知っておくに越したことはないからな。

 だから、例外が現れるとそこに注目を集めがちだ。どのようなタネがあるかわからなくては、なにをしでかすか分からないと、夜もおちおち眠れん。

 じいちゃんが昔にあった、奇妙な犬の話を聞いてみんか?


 じいちゃんが小さいころ、住んでいた家の近くでは野菜荒らしの噂が広がっておった。

 畑になっているトマトやかぼちゃなどといったものに、獣の噛み痕が残っている。虫が食ったにしては、あまりに大きく野性味にあふれておったからなあ。

 あまりに相次ぐものだから、大人たちがかわりばんこに夜通しで畑を見張り、犯人を捕まえてやろうと思った。いや、犯獣といったほうがいいか。

 三日三晩の見張りの末、夜中にひょっこりあらわれて、まだ無事なカボチャに噛みつこうとした輩がお縄となった。そいつは首輪をつけていない、小さくてやせっぽちの野良犬だったそうじゃ。当時のじいちゃんは、この捕り物に加えてはもらえんかったから、あくまで伝聞じゃがな。


 しかし、疑問なのがなぜこいつがカボチャを標的にしたかということ。

 犬にとってカボチャは、それだけで有害というほどではないが、熱してやわらかくしながら皮や種を取り除かなくては、食べづらいもの。そうしても食べ過ぎればお腹に悪影響を及ぼすものじゃ。

 これまでの被害を鑑みるに、一抱えほどあるカボチャも三分の二以上が、食べられている場合が大半。それがこの、足で踏みつぶしてしまえそうな子犬が一匹で行ったなど、なかなか信じられるものではなかった。

 絶対に共犯者がいるはずだ。

 そう考える大人たちは、捕まえた子犬を処断することは保留し、檻に入れたまま畑のそばへ。棒で叩いたりして声をあげさせ、他の仲間たちを呼び寄せようとしたんじゃ。

 卑怯とか、卑劣とかはいっておられぬ。こちらの立場としては、汗水たらして手間暇かけた成果を、何の苦労もせずにかすめ取っていく泥棒なのじゃからな。

 下手に手を出すと、こういう風にひどい目に遭うぞ……と教えてやらなきゃ、すぐ同じことが繰り返されるじゃろ。言葉が通じないのなら、教え方も考えねばならん。

 一網打尽をもくろみ、大人たちは犬の仲間たちが現れるのを待ち続けたそうじゃ。一か所だけではなく、日ごとにいろいろな畑もめぐってな。広い範囲に渡ってあぶり出そうとした。

 じゃが、事態は想像とは違う方向へ動き出す。


 結論からいえば、犬どもはやってきた。ただし、よそから来たものたちではない。

 家々の飼い犬たちがじゃ。彼らは一斉に、普段からは想像もできぬ声で吠え猛り、暴れ始めたかと思うと、鎖などのおのおのの縛めを力づくで解いて、畑たちへ向かって殺到した。

 ひとえに野菜をあさるためじゃ。そこをあらかじめ待機しておった大人たちが、最初こそ驚いたが片っ端からお縄をかけていったわけじゃ。

 あらためて拘束された犬たちは、なおもあらん限りの力を込めて抜け出さんとしたが、大人たちもよもやの事態に対し、簡単に警戒をゆるめるわけにもいかず、一進一退の様相を呈したという。

 しかし、彼らの暴れ始めから20時間ばかり経った、夜のこと。


 これまでひっきりなしに吠えていた犬たちが、皆ピタリとなきやんだ。

 うってかわって、それぞれに体を丸め、うずくまり出してしまったんじゃ。ただ小さく震えながら黙り込み、神妙にもほどがある。

 その変わりようをいぶかしく思い出す大人たちの前で。

 突如、黒い風が吹き寄せた。その実、蚊柱が巨大な壁のごときものとなって、自分たちにぶつかり、覆いかぶさりながら、通り過ぎたかと思うほどだったという。

 人にはかすかな衝撃と、わずかな間の目隠し程度にしか思えなかった。じゃが、そのしばし塞がれた視界が再び開けたとき、あの捕まえていた犬たちに大きな変化があったらしい。


 まず、畑におもむきながら野菜をかじることのできなかった連中。

 彼らは皮も肉もない、骨だけを残した姿になっておった。一瞬前までそこに犬がおったのに、風のあとには同じ大きさの骨しかない……ともなれば疑う余地の少ないことであった。

 次に野菜を少しなりとも食べることができた連中。

 彼らは身体の一部の皮と肉をそがれ、骨を露出させるだけで済んでおった。とはいえ、犬として致命的な機能が不全になったものは、長くはもたなかったようじゃが。

 そして、最初にとらえておったあの子犬。

 野菜をたらふく食べたであろうそいつは、風の吹いた後でもなんともなく檻の中にうずくまっていたそうじゃ。


 普段、やらぬであろうことを、あえて行う。

 そこにある意味を、別の種が分かろうとするのはなかなか難しいことかもしれんの。

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