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初陣

 昨日の夜、あんなことがあったが私達は今『フォードヒルズ』に向かう列車の中にいる。……しっかしあの後戒を元に戻すの大変だったなぁ……。

 そして大企業の娘に会いに行くわけだから私は不安が一杯の中この列車に乗っているのに彼女のことをしっている二人はというと……。

「ねぇ茂さん? たしか六時間ぐらいかかりましたよね?」

「そうですね、正確にはもう少しかかると思いますが」

「まじッすか、じゃぁ俺寝ますわ」

「戒君が寝るのでしたらそうですね……私は展望台に行って外の景色を見てこようと思いますが瑠璃さんはどうしますか?」

 すっごいリラックスしていた!!

 まぁ会ったことあるから緊張しろって方が難しいのかもしれないけどこんな緊張してる私が馬鹿みたいじゃない……。

 普段住んでいる世界があまりに違うことにショックを受けつつも私はなんとか返事をした。

「私はせっかくなので初めて乗った列車の中を回ってみたいと思います」

「そうですか、ではくれぐれもお気をつけて行動してくださいね」

「わかりました」


 こうして私は戒と篠山さんと別れてから一人列車の中を回っている。

 初めて乗った列車だからか見るもの全てが新しく楽しかったが同時になにか物足りなさも覚えていた。

 たぶんそれは……話し相手がいないことだった。

 でも展望台に出るのは怖いし戒は寝てるしどうしようかなぁ……。

 などと考えながら歩いていたら不意に服の裾が引っ張られた。

「……?」

 私が疑問に思って振り向くとそこには小さな女の子がいた。

「……………………」

 その女の子はなにを思っているのか私の服の裾を掴んだまま俯いていた。

「ん? どうかしたの?」

 視線の高さを同じにするためにしゃがんで聞いてみた。

 だが視線を合わせてみて一つわかった……この子今にも泣きそうだ!!

「……ぐすっ……おか……うわああああぁぁぁん!!」

 そして危惧していたこと……泣き出してしまった!

 私は必死に落ち着かせようとしたが幼い子供なのであやした事もない私が落ち着かせようとした所で落ち着くはずもなく……。

「おかあさぁん! うわああああぁぁぁん!!」

「一旦落ちつこ? ね? お願いだよー!!」

 空しく私の声が響くだけだった。


 長い時間をかけなんとか落ち着かせれたのだが、それでもまだ少し泣いていて話を聴ける状態ではなかったのでもう少しゆっくりしてようやく落ち着いてきて今から事情を聴くところだ。

「えっと? まず名前はなんて言うの?」

「わたしのなまえはねぇ、ねむろりおんだよぉ」

 ねむろりおん……どういう漢字で書くんだろう……さっぱり検討も付かない。

 でも私も人のことを言えないけど珍しい名字だなぁ。

「それでりおんちゃん、もしかしてお母さんとはぐれちゃったの?」

「うん……」

「そっか……じゃぁ一緒に探しに行こっか?」

「うん!」

 りおんちゃんを安心させるためにそういって探し始めたがこの列車での人探しは簡単じゃない……いや、むしろ難しいとしか言えなかった。

 なにせ車両数が二十両も有るのだ。

 しかも篠山さんが言うには基本的に満員に近いらしく、今日も例に漏れずぎゅうぎゅう詰めだった。

 さらにりおんちゃんと出会った場所が十両目……つまりど真ん中のスタートだった。

「さて、どっちに行こう……」

 まぁ考えた所で何処に居るのかもわからない上にどっちに行っても逆方向に戻らないといけないからどのみち同じなんだけど。

「どうしよっかな、ん? りおんちゃんどうしたの?」

「こっちにいくの」

 そう言うとりおんちゃんはとてとてと歩いて行ってしまった。

 子供らしいというかなんというか……自由に生きてるなぁ。

「あ! ちょっと!」

 そうしてりおんちゃんが先に行きその後を私が歩くというよくわからない並びで一番設備が貧相な車両まで行ったのだが。

「見つからなかったね」

「うん……」

「気を取り直して反対側に行ってみよっか」

「うん!」

 そうして私とりおんちゃんを歩き出したけどなぜかりおんちゃんが急に動きを止めた。

「りおんちゃん?」

「なんかへんなおとがする」

「…………ホントだ」

 りおんちゃんに言われて私もようやく気がついた。

 なにかが軋むような音が微かに聞こえるのだ。

 他の乗客たちも気がついたみたいで辺りを見回したり、顔を見合わせている。

 上から音がするから確認しようと思ったのか窓際の席にいた人が窓を開けて上を覗き込んでいて、

 ビチャ。と音がした。

 なにかと思って私は音をした方を向いて……絶句した。

 そこには辺りに撒き散らされた血と無残にも首から上を食いちぎられた人と……『ベイメント』がいた。

「……ッ! りおんちゃん!」

「わ! わ! おねえちゃんどうしたの!?」

「いいから早く!」

 私は考えるよりも早くりおんちゃんの手を取って駆け出した。

 私達は元の道を戻ろうとしてる途中だったのでその車両からはなんとか逃げられたが後ろを振り向くとたった一匹の『ベイメント』によってその車両の人はほぼ全員食いちぎられていて元は白かった壁や床が真っ赤に染まっていた。

 戒と合流することができればこの状況でも大丈夫だ……だから一刻も早く……。

 だがそんな事を考えながら走っていた矢先にりおんちゃんが転んでしまった。

「……ッ! りおんちゃん!!」

 私はりおんちゃんを起き上がらせようとしたけどいつの間にか『ベイメント』が目の前にいた。

 逃げるのが間に合わないと思ったから鈴ちゃんを守るように『ベイメント』に背中を向けて床に倒れこんで来るべきに痛みを覚悟していたけど……いつまでたってもその痛みは訪れなかった。

 不思議に思って顔を上げるとそこには、

「なんとか無事みたいだな」

「……はぁ……ま、おかげさまでね……って他の車両は大丈夫なの!?」

「ん? あぁ、大丈夫だろ。この『ベイメント』は基本十、二十の群れで行動するんだが一体しか追ってきてないだろ?」

「うん、そうだけど」

「なら展望台にいた茂さんが異変に気づいて全部打ち落としにかかってるはずだぜ」

 まぁ、もうすぐ終わるだろうから待ってろよ。と戒が付け加えてからそう立たない内に窓の外から奇妙な鳴き声が聞こえなくなった。


 そこから先は列車に救助隊が来てまだ少しでも息のある人を助けたりりおんちゃんの親を見つけて別れを告げたりしてから篠山さんと合流して『フォードヒルズ』に向かって出発した。

 そして本来の到着時間より一時間ほど遅くなったが今、円さんが住んでいるという『フォードヒルズ』の最下層の貧困エリアの入り口にいた。

「なんで円さんは社長の娘なのにこんな所に住んでるんですか?」

「あぁ、あいつのことですからたぶんあの理由だと思いますが……それは本人に聞いたほうが早いでしょうね」

「そうですか、わかりました」

「おい、とっととあいつの家に行こうぜ」

「そうですね、では付いてきてくださいね」

「はい」

 そうして歩き始めたとき。

「きゃっ!」

「いってぇ……」

 後ろから少年がぶつかってさらに転んでしまっていた。

「大丈夫?」

 私はその少年に手を差し伸べたがその少年は私の手を振り払い、走り去ってしまった。

「あ! この野郎! まちやがれ!」

 その時なぜか戒がいきなりその少年を追いかけ始めた。

 私は事情が飲み込めなかったものの篠山さんに戒を追う事を伝えて走り出し、少ししてから戒に追いついた。

「急に走り出してどうしたの?」

「あの野郎スリだよ!」

「え? あんな子供が!?」

 そう話している間も足を緩めずに走り続けてあと少しで戒の手が少年に届きそうな……その時。

「こらああああああああああぁぁぁ!!」

 ドスン。

 と轟音を立て、砂煙を巻き上げて私達の前に落ちてきた。

 そしてその砂煙が晴れ、その中から現れたのは……。

「なに人様からスリなんてしとんねん自分!」

「ロボット!?」

 全長三メートルはあろうかと言うほどの巨大な鋼鉄のロボットとその背中にしがみついていた女の子だった。

「お、お姉ちゃん……」

「ほら! はよ、返しぃや! で、ちゃんと謝るんやで?」

「うん……」

 私からスリをした男の子はごめんなさい。と言ってから去っていった。

「これにて一件落着! やな!」

 そしてしがみついていた女の子がそんなことを言っていたが、私は訳がわからなくてただ呆然とするだけだった。

 そこに篠山さんが来て、

「瑠璃さん、戒君、ここに居ましたか……と、円さんも一緒ですか」

「え! 円さんってこんな女の子だったんですか!?」

「お前いったい円がどんな奴だと思ってたんだよ……」

「篠山さんがさん付けするぐらいだから少なくとも私と同じくらいかと……」

 そんな話をしてる間に私達に気づいたのか円さんが近づいてきた。

「おぉ! 久しぶりやな! 茂はん! 戒はん! で、こっちが……瑠璃はん?」

「あ、うん。そうだけど」

「ふーん……テストや!!」

「え? えぇ!?」

「まぁ、名前は知ってるやろうからこれからうちのことをなんて呼ぶつもりや?」

 ちなみに率直な気持ちで言うんやで?と円ちゃんは付け足したがなんていうかもう……この身長を見たときから……。

「えっと、円ちゃん」

「合格や!」

「ホント!?」

「いやぁ……瑠璃はん話がわかっとるやないか! ほんま、うちの周りにはちゃんで呼んでくれる人がおらんくてなぁ」

「え!? なんでこんな可愛いのにちゃんじゃないの?」

「やろ? うちもそれが疑問でなぁ……」

「……俺らがちゃんで呼ばないのが悪いんですかね?」

「……さぁ、少なくとも僕にはわかりません」


 そんなこんなの話で私と円ちゃんが盛り上がってから約一時間後ぐらいの頃に。

「さて、そろそろ円さんの家に行きませんか?」

「ん、そやなぁ」

「ほいならトクナガの背に乗って行くか」

「そんなことできるの?」

「うちのトクナガを舐めたらあかんで!!」

「ってちょっと待てよ……」

「どうしたの?」

「なんで俺だけハブケなんだよ!」

 どうやら戒は自分だけトクナガの背に乗っていけない事を怒ってるらしいが、さすがに理由はわからなかったので円ちゃんの言葉を待って、そして円ちゃんはさもなんでもないように言った。

「定員オーバーや」

「嘘付けって! おい!」

「よっしゃぁ! いくで!」

 戒はまだ何か言っていたようだが円ちゃんは気にせずにそのままトクナガを起動させジェットと足のばねを最大限に利用して飛び上がった。

 そして建物の間から出た瞬間、

「うわぁ……」

 私は歓喜の声を上げた。

 上空に出たときに見えるのは圧倒的までに青い空。

 私はこの光景にただ唖然とするばかりだった。

「ん? あぁ! 瑠璃はん口閉じぃや! 舌噛むで!?」

「え?」

 が、喜べたのは一瞬でトクナガは上に飛んだ、いや……跳んだのだから落ちるのは当然のことで口を開けて感動していた私は円ちゃんの注意も空しく、

 私は舌を噛んだ。


「うぅ……いはいよぉ……」

「大丈夫ですか?」

「はい……まぁそれなりには」

「ならよいのですが」

「ごめんな……瑠璃はん……うちが最初に言わへんかったせいや……」

「気にしないでって、ちょっと痛いぐらいだから」

「で?武器のことはもう聞いたのか?」

「武器?」

 その時私達が着いてからそう経たずして来た戒が聞いたが、まだ言ってないので円ちゃんは疑問顔だ。

「ええ、私達で『ベイメント』と戦おうというので瑠璃さん用の武器を作って欲しいのですよ。」

 篠山さんがそういった瞬間円ちゃんの顔が驚愕のものに変わった。

「は!? たかが三人で『ベイメント』に挑むつもりつもりなん? 無茶もいいとこやで!?」

「いいえ、三人ではありませんよ。十五年前の知り合いを当てに各地を回って協力を頼みますしそれに」

 篠山さんはそこで一旦言葉を区切り円ちゃんを正面に見据えて言った。

「少なくとも円さんは協力してくれるでしょう?」

 その言葉を聴いた瞬間に円ちゃんは困ったような顔をして、なにかを考え込んで、最後に呆れたような顔をして言った。

「……………………はぁ……ま、あんたらみたいなんをほおっておけへんしな」

「それじゃぁ!」

「ええで、うちも手伝ったる…………まぁ瑠璃はんと一緒に居たいしな……」

「ん? 円ちゃんなにか言った?」

「い、いや! なんもあらへんで!?」

「素直じゃねぇ奴……」

「うっさいわ!!」

 戒には聞こえていたみたいで戒から聞こうとしたのだがどうしても円ちゃんが許してくれなかった。

 いったいなんて言ったんだろう?


 円ちゃんも旅に一緒に来てくれることが決まってから円ちゃんはすぐに私の武器製作に取り掛かってくれたのだけど私は武器みたいなの使ったことないんだけど大丈夫かな?

 まぁ、円ちゃんは任せてって言ったから任せよう。

 そして、篠山さんに武器製作は時間が掛かるから先に寝ててくださいといって私と戒は今寝室にいるのだが、

「ちょっと戒! そんなくっつかないでよ!」

「俺だってこんな貧相な体にくっつきたくねぇよ……」

 なんて失礼な! 私だってこう……寄せて上げれば……やめよう、空しくなっちゃった……。

 なんか空しくなったら眠くなってきちゃったなぁ……寝よう、そうしよう

「なぁ瑠璃?」

「どうしたの? 戒?」

 少し眠いけどさすがに無視するのもアレなので少し話を続けることにした。

 けど、いったいなんなんだろう?

「お前、これからは戦いの日々になっていくが怖くないのか?」

「………………怖いよ」

 こんなことで嘘をついても仕方ないし、なにより戒が心配してくれたことが……嬉しかった。

「そうか」

「ねぇ戒、私どうしたらいいのかな?」

「お前は戦う力を持っている」

「そうだよね……」

「だが、最初は戦いに慣れることも出来ないだろうし怖いと思う。だから」

 私が予想外の言葉に驚いてると戒は一旦言葉を区切り、

「そのときは俺に言え、必ず守ってやる」

「……うん。っと、それじゃ私もう眠いから寝るね」

「あぁ、お休み」

 私は一刻も話しを切り上げたかった。

 だって、恥ずかしすぎて……おかしくなりそうなんだもん……。


 昨日恥ずかしくてあまり寝れなかった私は朝早く起きてリビングに行くと篠山さんが料理を作っていた。

「おはようございます。朝早いんですね」

「おはようございます、実は寝てないだけなんですよ」

「そうなんですか? それなら寝てきてきた方がいいですよ?」

「うーん……ではお言葉に甘えさせてもらいましょうかね。それでは料理お願いしますね」

「……………………え? あっ……はい……」

 私に背を向け円ちゃんが武器を作るために入っていった部屋に入っていく。

 取り残された私は、

「……どうしよう」

 いつも宿屋のおばさんがすごく美味しい料理を作ってくれるから今まで一度も作ったことがないんだけど……。

 でも篠山さんが頼ってくれたんだ! がんばろう!


「で、この惨状か……」

「………………ごめん」

 まぁ、意気込みだけあっても腕がないから結果としては、

 私が作った料理は全滅、あまつさえ油の入れすぎで火事になりそうなほどだった。

 戒が起きてこなかったら今頃……。

 そう思うとゾッとする話だった。

「ま、今から俺が作るから十分したら来るように篠山さん達に言ってきてくれないか?」

「え? 戒って料理できたの?」

「少なくともお前よりかはな」

「うぅ……なんかむかつく」

「ほら、とっとと呼びにいって来い」

「はいはい……」

 なんかなぁ……これから私も料理の練習しよっかな。

 そんなことを思いつつ篠山さんと円ちゃんがいる部屋の前に行く。

「篠山さん、円ちゃん、十分後ぐらいに出来上がるので来てください」

「わかりました、私も円さんが元に戻るまで待ってないといけませんしね」

「では、十分後に」

 そういって私は戒の所に戻っていったけど円ちゃんが元に戻るってどういう意味だろ?


 皆でご飯を食べ終わった後、円ちゃんが私に話しかけてきた。

「なぁ瑠璃はん、買い物に行かへん?」

「買い物?」

「そ、ついさっき戒はんから残り食材が少ないことを指摘されてなぁ、せっかくやしと思ってな」

「うーん……まぁ円ちゃんと一緒に行くんだったら楽しいだろうからいいよ」

「そか、ほな行くで!」

「うん、じゃ戒、篠山さん、行ってきます!」


 私は円ちゃんと食材を買いに行ったりそこに行く途中で見つけた服屋やアクセサリー屋で恥ずかしがる円ちゃんを着飾らせたりして今から帰るところだった。

 しかしあの時、着替えた円ちゃんはかわいかったなぁ……。

 そんなことを考え浮かれていたのだけど、その浮かれは次の瞬間吹き飛んだ。

 地面から影のように『ベイメント』が現れたのだ。

「……ッ! 瑠璃はん!」

「うん!」

 私達は距離を取りつつ話す。

「どうする?」

「どうにかこの場さえ乗り切れれば武器を取り行けるんやけどなぁ……」

「だよね……どうしよっか……」

 どうやって切り抜けるかを二人で考えてると、

 シュタ!と私達の前に私達の前に何かが降り立った。

 そしてその降り立った何か……白いスーツを着た男の人がこちらにゆっくりと振り向き、

「円~! 私の可愛い円よ! なぜこんな所で『ベイメント』と対峙しているんだ! 危ないじゃないか! 円の綺麗な綺麗な珠の肌に傷ができたらどうするつもりなんだ!!」

「うっさいわボケ!」

 円ちゃんのハイキックが決まり崩れ落ちる白スーツの人……いったいなんなんだこの人……。

「まったく、瑠璃はんもおるし『ベイメント』と対峙してるときにこんなことしてるんやないで……」

「瑠璃……だと……」

「あ、はい、私ですけど」

「おぉ! なんと美しい! 先ほどは見苦しいところを見せて大変申し訳ありませんでした」

「い、いえ……あまり気にしてませんけど……」

「なんと! 私のあのような場面を見ても許すその心はまさに玉瑠璃の様に澄んでいて、その肌はどんな宝石にも負けないぐらい美しく……」

 話を聞きながらどうしようかと思っていたとき、その人の背後から『ベイメント』が飛び掛った。

 しかしその人に凶刃が届くことはなく飛び掛った『ベイメント』は影となって消えた。

「まったく、レディを口説いている最中に邪魔をするとは無粋な連中ですね……しかし、そろそろ時間ですか」

 その人が何かを投げる動作をすると『ベイメント』が次々に一匹、二匹と死んでいく。

 そして私達に振り返り、

「さぁ円! ここは私が受け持ちますのであなたは武器を取りに行きなさい!」

「わかったで!」

 円ちゃんは私の手をとって走り出した。

「ちょっと円ちゃん! あの人置いてって大丈夫なの?」

「大丈夫、やってうちの父さんやもん!」


「ふっ……行きましたか……さて、また口説くためには先にこいつらを片付けないといけませんね」

 そういって白スーツの男……仁王 工機は自分の手に無数の投げナイフを取り出して手に広げ、自分の後ろに向かって手を振り、

「茂、サポートは頼みましたよ」

 ここから離れた場所でスナイパーライフルを構えているだろう幼馴染に対し独り言をいい、

「覚悟してください!」

 工機は投げナイフを投げ『ベイメント』との戦いが始まった。


 私達が円ちゃんの家にだどり着くと玄関前には戒の姿があった。

「ん? おぉ戻ったか。ここは俺に任せて早く武器とってこいよ」

「恩に着るで! さ、瑠璃はんこっちや」

 円ちゃんに付いていき部屋の中に入る。

「んで、これが瑠璃はんの武器や!」

「これが……私の武器……」

 円ちゃんから渡された私の武器、それは弓と短剣だった。

 私に説明してくれた事の要点をまとめるとこの弓は宮ノ坂が代代持っているはずの力を込めると特殊な力を発揮するらしいがまだ私はその力が覚醒してないから使えないとのことだった。

 ただ一つだけ篠山さんに宮ノ坂の力の話を聞いたときから疑問に思っていたことがある。

「ねぇ、円ちゃん。宮ノ坂の力っていったいなんなの?」

「それは……」

 円ちゃんが口を開き言い始めようとした時、外から激しい戦っているような音が聞こえてきた。

「瑠璃はん! そこの武器持って戒はんの手助けに行くで!」

「うん!」

 私はさっきまで説明を受けていた弓を持ち短剣を腰に挿して外に出て行った。

 外は思ったとおりに戦闘中でざっと敵の数は二十体ぐらいいた。

「戒!」

「瑠璃! やれるか?」

「大丈夫! 任せて!」

「あまり気負いすぎるなよ!」

「わかった!」

 しかし初めての戦いの上に狭い路地での乱戦だったので私は隙をついて射って三体倒したところで完全に疲れ果てていた。

「はぁ……はぁ……」

 私は一度立ち止まり大きく呼吸をして息を整えようとした。

 しかしそんな隙を見逃してくれるはずもなく、これ幸いとばかりに飛び掛ってきた。

「クッ……!」

 私は転がるようにしてなんとかかわしたが、すぐに次の攻撃が来るだろうと立ち上がり飛び掛ってきた『ベイメント』を見据えたが私に飛び掛り避けられたため勢い余って四つん這いになったまま止まっていた。

 なぜ止まっているのかわからないまま呆然としていると、

「我、生きるは人の為」

 どこかからか声が響いて、

「我、殺すは主の為」

 その声はだんだんと近づいてきて、

「我、滅すは國の為」

 その声の方向には、

「なら汝は何が為に生きる」

 戒がいた。

「生きる価値無きその命、死を持って償うがよい!」

 そしてそのままギロチンを振り下ろし『ベイメント』は真っ二つに切断された。

「……ふぅ……」

 私は戦いが終わって緊張感から開放されてへたり込んだ。

「大丈夫か?」

 戒が私に手を差し伸べてくる。

「うん、ありがと」

 私はその手を取り立ち上がった。

「そういえばさっきのっていったいなんなの?」

「ん? あぁ、アレが俺の代代引き継がれている力……ま、端的に言えば敵を五秒だけ金縛り状態にするってとこだな」

「へぇ……ってことは篠山さんや円ちゃんにもそんな感じの力ってあるの?」

「まぁな、ただ円の力は厳密には工機さんの力と違うがな。」

「そうなんだ……そういえば円ちゃんは?」

「ん? あぁそういえばいねぇな。どこ行ったんだ?」

 私と戒は辺りを見回してみるが円ちゃんの姿は見つからない。

 心配になって探しに行こうとしたその時、

『おう、坊主共無事だったか?』

 突然響いたひどく野太い声に私達は顔を見合わせる。

 そのとき円ちゃんがトクナガと一緒に上から降りてきた。

「おーい! 瑠璃はん! 戒はん!」

「あ! 円ちゃん!」

 私達は円ちゃんに駆け寄った。

「円ちゃんどこ行ってたの?」

「ん? トクナガと一緒にこの家を守っとたで?」

「どこでだよ……」

「屋根の上や」

「「………………」」

 まったく気づかなかった……。

 確かに円ちゃんの家は瓦とかじゃなくてビルの屋上みたいな感じだからわからなくもないが……。

「それでな? 瑠璃はん、戒はん?」

「ん? どうしたの?」

「トクナガがせっかく心配してくれとんのに無視は酷いんとちゃうかな?」

「「…………………………」」

「「はああああああああ!? え!? はああああああああ!?」」

『おいおい、そんなに驚くことか?』

 トクナガ?は呆れたような声を出すが私達は驚きっぱなしだった。

「え!? だって円、お前トクナガはロボットって」

「うんうん、円ちゃんそう言ってたじゃない!」

 しかし私達がそこまで言ったところで円ちゃんは腰に手を当て胸を大いに張って、

「やからうちのトクナガはただのロボットやないってゆうたやんか!!」

『って、伝わってねぇ時点で駄目だろうが!』

 ビシッとトクナガは円ちゃんにチョップを入れ円ちゃんは痛かったのか頭を押さえてうずくまったが私達はそんな光景にただ呆然と立ち尽くすだけだった。


 一方街に残り戦っていた工機と茂はというと、

「舞い飛べ我がナイフよ! 敵の体を切り刻め!!」

 工機がそういうと同時に工機の回りに歯車の形になるように計算しつくされて投げられたナイフが周りを飛び交い『ベイメント』の群れを切り刻んでいった。

「ふぅ……こんなもんですかね。さて麗しい私の円と瑠璃さんはどこにいるんでしょうか!」

 そういってスキップをしながら進み始めていた工機だったがピタッと足を止め振り返る。

「巨大種ですか……久しぶりに見ましたね……」

 だが工機は巨大種を一瞥すると歩きを再開させる。

「ただ、これはあなたにとって格好の的でしょう?」

 そういうか言わないかのところで、

 タンッ……タンッ……タンッ……。

 と渇いた銃声が響き巨大種の頭に三つ穴が開いた。

 そして間髪入れずにミサイルが腹に直撃し、無数の弾丸によって手足を削がれていき頭の上に何かが乗り、

「チェックメイトです」

 茂はショットガンの引き金を引いた。


 そのまま茂るは崩れ落ちる巨大種の上から飛び降りたが何かを踏みつけた。

 まぁそれは工機の頭だったのだが茂は気にせずに聞く。

「こんな所で何をしているんですか?」

「はははっ……わかってるとは重いますがあなたの撃ったミサイルの爆風のせいで吹き飛んで立ち上がろうとしたところであなたに上から頭を踏みつけられたのですよ」

「あぁ……そういえばそんなこともありましたね」

「とりあえず私の頭の上からどいてくれませんか?」

「なんでですか? あなたマゾでしょう?」

「わかっていましたがあなたは昔からサドでしたけどね……ただ、私はマゾでも男に踏まれて喜ぶマゾではないのです!!」

「そうですか、そうですか」

「痛い痛い! やめてください! 頭を足でグリグリしないでください!!」


「そういえば工機さん大丈夫かな?」

 完全に安心しきっているのかゆっくりと歩いてる戒と円ちゃんに聞いてみたが二人は顔を見合わせ言った。

「茂さんも援護しに行っただろうし大丈夫だろ。二人とも変だけど。」

「そうそう父さんもそれなりに強いしな。二人とも変やけど。」

 二人して同じような事を言い切ったことに疑問を覚えたがどうせ知る機会はないだろう……。


 ………………………………知る機会あったよ。

 私達が工機さんと別れた場所にたどり着くと二人して変と言った理由がわかった。

「ははは、なぜ逃げるんです? 今から楽しいお仕置きターイムだと言うのに」

「だから私は男にお仕置きされて喜ぶような趣味はないんですって!」

「またまた、そんな冗談言わなくていいのですよ?」

「しかも毎度のごとくあなたは人の話を聞きませんよね!?」

「あなたも昔から私に弄られて喜んでいるじゃないですか」

「む、昔は昔です! というか今は喜んでいません!!」

 篠山さん……こんなキャラだったんだ……。

 私が呆然と立ち尽くしていると左右から戒と円ちゃんが聞いた。

「な? 変だろ?」

「な? 変やろ?」

「……うん」

 一方工機さんは私達に気づいたのか助けを求めるような顔で急速に迫ってきて、

「おぉ! 瑠璃さん! 戒君! 円! お願いですから私を茂から助けてください!!」

「えっと……」

 私が反応に困っているといつの間にか工機さんの隣にいた戒と円ちゃんが工機さんの両腕を掴み、

「まぁ工機さん、いつものことだから諦めてください」

「まぁお父さん、いつものことやから諦めや?」

「酷い! 鬼! 悪魔! せめて私の人権を……ヒッ!」

 二人が工機さんを捕まえている間に茂さんが近づいてきて工機さんの服の襟を掴み、

「さ、行きますよ」

「だから痛いのはいやなんですって!!」

「そうですか、そうですか」

「ひっ……あっ……だから痛いって……はうっ」

 そのまま去っていった……。

「とりあえず社長室で待ってようや? どうせ戻ってくるならそこやろうし」

「そうだな」

「………………うん」


 円ちゃんの先導で私達は社長室に行き待つこと一時間弱で茂さんと工機さんが入ってきた。

 茂さんがつやつやとしていて工機さんがゲッソリとしているのにどことなく嬉しそうなのは見間違いだろうか……。

「さて、工機」

「『ベイメント』のことですね?」

「……さすがですね、どうせ私の質問の内容もわかっているのでしょう?」

「えぇ、とは言ってもあなたも私の回答がわかっているでしょうに」

「そうですね」

「それならなぜ聞いたんです?」

「彼等にも直接伝えたほうがいいと思いまして」

 茂さんは私達を見て言う。

「そうですね……」

 そして工機さんも……円ちゃんを見てから言った。

「私、仁王 工機は今仁王コーポレーションの社長として『ベイメント』との戦争に関し一切の協力をしないことを宣言します」

 工機さんが言った言葉に私達は呆気に取られていたが一番意外な人物が最初に口を開いた。

「なんでや! なんで一切の協力ができへんねん!」

 それは円ちゃんだった。

 円ちゃんは必死に言葉を投げかけるが工機さんはその言葉に少しも動揺せずに言葉を返していく。

「考えて見なさい円、ここ最近この街は度々の襲撃を受けているでしょう?」

「それはそうやけど……でも! 物資の支援ぐらいは……!」

「無理です、この街以外にも『ベイメント』に襲撃されている所は少なくないのです。私はこの地域の支配者として襲撃を受けたところの復興作業を第一として考えなければならないのです」

「でも……うちらが倒せば……」

「十五年前、あれだけの人がいてツートップを失ってなお『ベイメント』は活動を続けています。それを完全に倒そうなど夢幻にすぎません。」

 その言葉に反論する言葉がないのか円ちゃんはなにも言えなかった。

 だが工機さんは無情にも残酷な言葉を言う。

「そして円、あなたが行くのならあなたは今から私の娘ではなくただの仁王 円です」

「……ッ!」

 その言葉に円ちゃんは今にも泣きそうな顔で下を向き唇を噛み締める。

 篠山さんはこうなることがわかっていたのか平然とした顔で座っている。

 私は講義の声を上げようとしたが……私はまだ工機さんのことを理解していなかった。

「ただし!」

 私が上げようとした講義の声は工機さんの上げた声によってさえぎられ、工機さんは話を再開させる。

「『ベイメント』を完全に倒し帰ってくることができたら今から旅出つ仁王 円はまた私の娘となります。」

「え?」

 よくわからないといった顔で工機さんを見上げた円ちゃんに工機さんは視線の高さをあわせ、

「ですので、無事に帰ってきてくださいね?」

「お父さん……」

 そして工機さんは立ち上がり照れくさそうに誰に言うでもなく、

「あぁ……この会社の十周年を記念して私の娘と同じ名前の仁王 円と言う子に特別になにかを送るキャンペーンでもしましょうかね……」

「お父さん!!」

「うわっと……危ないですよ?」

「だって……えへへ……」

 少しびっくりしながらも円ちゃんを抱えている工機さんとその腕の中で心底嬉しそうに微笑む円ちゃん。

 本当にいい親子だなぁ……と思った。

「そういえば茂さんはこうなることわかってたんですか?」

「えぇ、あいつのことですから」

「ならなんで教えてくれなかったんですか?」

「だって、黙ってた方が面白いじゃないですか」

「…………………………」

「やっぱ茂さんか……」

 本当にサドなんだなぁ……と思った。


 あの後工機さんの腕の中で円ちゃんが眠って困ったようにしてたり、武器のメンテナンスをしたり、工機さんが篠山さんに夜通し弄られ続けたりして一夜過ぎで私達は今正門にいた。

「それでは、瑠璃さん、戒君気をつけてください。」

「ありがとうございます」

「俺なら大丈夫ですよ!」

「茂? 円を頼みましたからね?」

「えぇ、あなたこそこの地域の統治。がんばってください」

「円……無事に帰ってきてくれることを信じてますよ」

「うん! 行って来るで!」

「それでは……宮ノ坂 瑠璃様、荒尾 戒様、篠山 茂様、仁王 円様。旅のご武運を祈っています。」


『フォードヒルズ』からけっこう歩いたところで篠山さんの発案でちょうどいい高原で野宿をすることにした。

 そして円ちゃんが寝てしまったので三人で寝ずの番をすることにして私が寝ずの番をしている時だった。

「円ちゃん?」

 円ちゃんが少しふらふらしながら歩いていることは疑問に思うけど、ま、大丈夫かな? 転んだり……。

「うにゃぁ!?」

 したなぁ……。しかも妙な声まで上げて……。

 けど転んだ以上ほおっておけないので私は円ちゃんに近寄って聞いてみた。

「大丈夫? 円ちゃん」

「うん! ありがとうっ、瑠璃おねえちゃん!!」

「………………………………え?」

 今……円ちゃん私のこと瑠璃おねえちゃんって呼んだ?

「円ちゃん、もう一回言ってみて?」

「ありがとうっ、瑠璃おねえちゃん!!」

「もう一回」

「ありがとうっ、瑠璃おねえちゃん!!」

「うぅん……悪くないかも」

 私は今壮絶に顔が緩んでいることだろう。

「瑠璃おねえちゃん、私は寝に行くけど瑠璃おねえちゃんはどうするの?」

「私は寝ずの番をしてるからここに残るよ」

「そうなんだ……だったら私もおねえちゃんと一緒に寝ずの番する!」

「え? 寝なくて大丈夫なの?」

「だって瑠璃おねえちゃんと一緒に居たいんだもん……だめ?」

 円ちゃんが少し潤んだような目で私を上目遣いに見て聞いてくる……くぅ……こんな風に言われたら……。

「じゃぁ一緒にしようか」

「うん! 瑠璃おねえちゃん大好き!!」

 そうして私達は一緒に寝ずの番をしていたのだが円ちゃんが寝てしまい私は、

「もしかしてこれが篠山さんが言っていた円ちゃんが元に戻るまで……?」

 うん……このことは私の胸の奥にしまっておこう。円ちゃんの為にも……。

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