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始まりの夜

「はぁ……はぁ……」

 私は走った。

 ただひたすらに。

 ただでたらめに。

 ただがむしゃらに。

 雨が降り注ぐ夜の中で追いかけてくる何かから逃げるために。

 ボロボロになりながらも絶対に勝てないとわかってるから…

 逃げることだけを考えて走り続ける。

「こ、ここまで来れば……」

 そう思ったときだった。

 ドスン

 と私を追っていた化物が空から降ってきたのだ。

「ヒッ…!」

「…………………………」

 音もなく蠢いて迫って来る化物にどうしよもなく立ち竦んでいたら

「おうおうおう、そこの化物さんよぉ? 人ん家の前でなにやってんだ?」

 男の人が立っていた。

 体つきがよくスタイルもいい人だったが化物の前には誰も勝てない。

 誰も瞬間の内に蹂躙され無残に食われてしまう。

「ダメッ……逃げて……!」

 しかしそう言った時に化物はもうその人に飛び掛っていた。

 その人は何かを構え。

 一瞬で勝負がついた。

 そして私の意識は闇に落ちていった……


 「ん…んんっ…」

「あれ? ここは?」

 気がついたらそこは見知らぬ部屋だった。

「ん? おお、起きたか?」

「あっ! あなたはっ!」

 そう叫んでベッドから立ち上がりかけた時に気づいた。


 私は今服を着ていなかった。


「………………………………」

「………………………………」

 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 そして。

「キャアアアアアァァァァァァァァ!!」

「ぶふぅ!」

 ビンタ一閃。

 命の恩人からただの変態へランクダウンだった。

「今、悲鳴が聞こえましたけど……あぁ、とりあえずこれをどうぞ」

 入ってきた優しそうな男の人は自分の着ていた上着を脱いで私にくれて、肝心の私の命の恩人はというと…完全に床にのびてしまっていた。

 こんな感じで私達の出会い方はいろいろと酷かった。


「私の名前は篠山 茂です。そしてこちらが荒尾 戒君なのですが……」

 さっき私に上着を着せてくれた篠山さんはすごくスタイルがいい人だった。

 細身で尚且つ長身……どうせ私なんて……

 そして私を助けてくれた恩人…もとい荒尾 戒は以外にも歳は私と同じくらいだったが、ずっと呆然としていた。

 篠山さん曰く。

「戒君は、女の子にぶたれた事なんてありませんからね」

 と苦笑しながら話してくれたが悪いことをした気分だ。

「そういえばあなたの名前を聞いていませんでしたね。なんて名前なんていうのですか?」

「私ですか? なぜか育ててくれてた人と名字が違うんですけど宮ノ坂 瑠璃です」

「宮ノ坂…!」

「え? な、なにかいけませんでしたか?」

「いえ、なにもいけない事など在りません」

 そういって篠山さんは膝を付いた。

「さ、篠山さん? いったいどうしたんですか?」

「宮ノ坂瑠璃様、これまでの無礼な言動をお許しください」

「え…あの…とりあえず話がまだ理解できてないので一から説明してください」

「そうですね…失礼いたしました。」

 私がそういうと篠山さんは顔を上げて話してくれた。

「瑠璃様は十五年前に起こったあの戦争のことを知っていますか?」

「私を追っていた化物がこの大陸に攻め入って来た時のことですよね」

「はい、あの化物……『ベイメント』によって全生命が絶滅に陥った戦争のことです」

「その事件が私と関係あるんですか?」

「はい、『ベイメント』は未だ誰も知らないような所から攻め入って来たせいで我々は何の迎撃も出来ませんでした、しかし力がある者を中心とした義勇軍によって『ベイメント』のリーダーが攻め込んで来た時にそのリーダーを倒すことによって戦争は終結しました」

 ここまでは私になんの関係性もない話だと思っていたが、次の篠山さんの一言があまりにも衝撃的で私に関係があった。

「そしてその組織のツートップが瑠璃様のご両親…つまり宮ノ坂 琥珀様、翡翠様なのです。いや…正確にはツートップでした」

 今、篠山さんはなんて言った?

 私の両親が全生命を救った軍のツートップ?

 さすがに信じられない。

 いや…信じたくなかった。

「……それは…本当なんですか?」

「ええ……私もその軍にいましたから」

「……私の両親は死んだんですか?」

「死んだところは見ていませんが、琥珀様と翡翠様が瑠璃様を産むために居た病院が崩壊しその跡地に残されていたのは産まれたばかりの瑠璃様だけだったと同僚から聞きました。」

「本来なら私達が責任を持って面倒を見るべきだったのですがその同僚が病気で死んでしまい彼の家族が自分の親戚に預けたのです、たぶんその方が今まで瑠璃様を育ててくれていた人だと思いますが……心配の種は尽きませんでした」

「しかしこうして無事に出会えてよかったです……」

「……篠山さん、ひとつ聞かせて下さい」

「なんでしょうか?」

「私の両親は……お父さんとお母さんは立派な人でしたか?」

「それは……もちろんです」

「そう……ですか……」

「瑠璃様?」

「すいません……ちょっとの間……泣かせてください……」


「えっと……その……さっきは泣いてしまってすいませんでした……」

「いえいえ、気にしなくていいですよ」

「茂さんはさすがだなぁ」

 さっきの話の時泣いてしまった私を茂さんは泣き止むまで頭をなでて待っていてくれた。

 そうこうしている内に戒も気を取り戻して、現状に至るわけだが……戒にだけは泣いている姿を見られなくてよかったと心のそこから思っていた…。

「さて、そろそろ本題に入らせてもらいますが瑠璃さん、戒君、よろしいですか?」

「はい」

「もちろんですよ!」

 篠山さんに様付けで呼ばれるのが嫌というかむずがゆくあったので普通に呼んでくれるように頼んでみたが、結果は一時間かけて瑠璃さんと呼ばれるところまでだった。

 …まぁ様よりかはましだからよしとしよう。うん、そうしよう。

 そして立ち直った戒の方はというと…

「ねぇ、戒?」

「…ッ! お、おうどうかしたか?」

「本題っていったい何の話しなんだろうね?」

「す、少なくとも俺は知らねぇぞ?」

 なにやらあのビンタが妙な恐怖心を植えつけてしまったらしい。

 こちらが悪いとは思ってない、譲っても五十歩百歩だったと思うがこんなだとこっちのほうが対応に困って仕方がない。

「そこ? イチャイチャしてないで話を始めますよ?」

「「イチャイチャなんてしてないです!!」」

 くっ…悔しいけど被ってしまった…。

 そんな事を思っている間に篠山さんが話し始めた。

「まず、私と戒君は宮ノ坂夫婦と一緒に戦った篠山 創華と荒尾 縛の子供達です」

「そして瑠璃さんは前対戦で英雄となった宮ノ坂夫婦の子供」

「ここまで条件がそろったのならまた力を取り戻してきた『ベイメント』達相手に戦うのもまた一興ではありませんか?」

 と篠山さんは微笑みながら私達を見てそういった。

「よっしゃあ! やってやりましょう!!」

「え!? ちょ、ちょっとまってください!」

 もちろん私は戦えるはずもないので戦う気満々の篠山さんと戒を止めに入った。

「えー…どうしたんだよ…」

「だってあんな化物と戦うわけでしょ? 篠山さんや戒ならまだしも私が勝てるはずないじゃない」

「いや? 勝てるぞ?」

「え?」

 最初戒の言っている意味がわからなかったが思考が追いついた。

 私が『ベイメント』に勝てる?

 そんなことが実際にできるのだろうか…。

 私が疑問に思っていると篠山さんが口を開いた。

「瑠璃さん、実は戒君の言うとおりで『ベイメント』に勝てる力を貴女は秘めています」

 篠山さん曰く宮ノ坂の血の中にはとてつもなく強い力が宿っていて私が今まで使わずに過ごしてきただけらしいのだ。

「琥珀様の話によるとその力は何かを強く願うことで自由に使えるようになるらしいのですが…残念ながらそこまでは聞かされてないのです…もうしわけございません」

「いやいや、気にしないでください。でも私武器なんて使ったことないですよ?」

「その点については彼女に武器の設計、開発を頼めば…」

「彼女?」

「もしかして、円のことですか?」

「そうです、瑠璃さんは『仁王コーポレーション』を知っていますか?」

「あぁ…あの今の社会の発展に欠かせなかったと言われている…」

「えぇ、そこの社長の仁王 工機の娘ですよ」

 ………………え?

「えぇ!? な、なんで知り合いなんですか!?」

「あぁ、それは私と工機が幼馴染だからですよ」

「そんな人と幼馴染なんですか!?」

 知り合いというだけでも相当驚きだというのにそんな人と幼馴染だなんて…

「あれ? 幼馴染ってことは歳も同じですよね?篠山さんは何歳ですか?」

 嫌な予感が拭いきれない……まさかとは思うがここまで外見が若々しいなら…

「お恥ずかしながら今年で三十路になってしまうのですよ」

 篠山は苦笑して言ったが私は呆然とするだけだった。

 二十九で一大企業の社長をやっている人物の娘に会いにいくだけでなくその社長と幼馴染の人と知り合いにまでなってしまっている。

『ベイメント』が私を襲うようになってきて育ててくれてた宿屋のおばさんに迷惑かけたくない一心で飛び出してきただけなのに……

 …はぁ…私の平穏な日々は何処に行っちゃたんだろう……。。。

「おい? 瑠璃? 聞いてるか?」

「…何よ?」

「いや…急に黙り込んだからどうしたのかなってな」

「ふ…大丈夫よ、何か大切なものが色々と崩れた以外はね」

「? まぁ大丈夫ならいいんだ」

「とりあえず話を戻しますね?」

 私が色々と落ち込んだのから回復したのを見計らって篠山さんが話を再開し始めた。

「明日あたりに円さんに会いに行って瑠璃さん用の武器を作ってもらおうと言うわけです」

「作ってもらうのはもうこの際いいんですけどその円さんはどこに住んでるんですか?」

「隣町の要塞都市『フォードヒルズ』だな」


 ちなみにこの大陸のことを軽く説明しておくと三つの地域に分かれていて、私が育った場所でもあり今いるこの地域がさっき名前が出た『フォードヒルズ』を中心に攻めにくく守りやすい地形のおかげで昔から栄えてきた地域が『ヒュールピス』。この地域に住むものは私達みたいなごく普通の体系をしている。もっともあの戦争での幹部格のような特別な力を持つ人もいるらしいが、話を聞く限り今はまだ私も含めて篠山さんと戒の三人しか知らない。

 次は天空都市『カプワ・ラング』で歴史的な学者が領主としてやって来た地域が『スクルニティ』だ。この地域で栄えた人たちには先天的に翼が生えており基本的には学者肌の人間が多いのが特徴だ。

 そして山岳都市『ストラルフ』に住むドワーフとドワーフに作られたゴーレムが主な種族である地域が『アースゲイル』。技術は三地域の中でどこにも引けを取らないが今まで聞いた話によるとドワーフは人との協調性がなく慣れてしまった人でないとその地域に住むのは辛いそうだ。


「では、明日の早朝には出発したいと思いますので、今日はゆっくり休んでください。」

「わかりました」

「了解です」

 私達にそういうと篠山さんは電話を取り出してどこかへかけ始めた。

『もしもし、円さんですか? 変わらずお元気な様で何よりです』などと言ってるあたりからやはり幼馴染の娘なだけあってやはり仲も良いんだなぁと思ってると不意に方をつつかれた。

 私が疑問に思って振り返ると戒が気まずそうな顔で頭を掻いていた。

「あぁ……なんだ? その、さっきは悪かったな」

 ここで服の事に関する謝罪が来るとは思ってなかったので私は面食らったような態度になりながらも言葉を返した。

「あ……いや、私もあれはいけなかったからって思い始めてたんだけど……」

「いや、いくら服がボロボロだったとしてもせめて何か別のものを着せてやるべきだった……ホントわりぃな」

 ここまで言って戒がうな垂れてしまった。んー……いくら気が動転してたとはいえやっぱあれはやりすぎだったかー……と思った私は戒に手を差し出した。

「……?」

「仲直りの握手、ってとこじゃダメかな?」

 戒が不思議そうに見てたので私が説明すると一転したように顔を輝かせた。

「いや、これからよろしく頼むぜ」

「こちらこそ」

 戒が私の手を取ろうとして近づいて来た時に戒がなぜか何もないのにつまづいて……

「うわっ!!」

「え?」


 むにゅ


 その手は私の胸へと吸い込まれていった。


「………………………………」

「………………………………」

 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 そして。

「キャアアアアアァァァァァァァァ!!」

「げふぅ!」

 どうやら仲直りは遠い道のりになりそうだった。



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