第12話 器
【YES】を選んだ瞬間、
視界は強烈な白に塗りつぶされた。
数秒の後、私の目に映り込んだのは、
元々いた洞穴ではなく
——赤く染まった月だった。
(……外?)
驚きに目を見開く。
そこは、等間隔に樹木が並び、
どこか人工的な夜の森だった。
モンスターの気配はない。
しかし、不気味さを醸し出す赤い月が、
ここがただの場所ではないと告げている。
慎重に一歩を踏み出した、その時。
(……っ!?)
地面に何か「違和感」を覚えた。
反射的に身を翻したが、完全には避けられない。
左腕に鋭い衝撃。
「あ……がっ……!」
何が起きたのか分からない。
ただ、腕に走る焼けるような熱さが、
遅れてやってくる。
いたいいたいたいいたい
私は歯を食いしばり、大きく距離を取る。
混乱する思考を無理やり抑え込み、
影が揺らいだ場所に『鑑定』を叩きつけた。
⸻
【個体鑑定:《闇纏い》のソードアヴェンジャー】
レベル:13
スキル:【土遁】 / 【影潜伏】/【気配感知】
状態:闇纏い
⸻
レベル13。スキルも多い。
格が違う事実に、一瞬身体がすくむ。
(どうする!? そうだ、しゅく……)
焦る私の思考を嘲笑うように、
地面が急激に隆起した。
足場を奪われ、身体が宙に浮く。
空中で無防備になった瞬間、
影が爆発的な速さで肉薄した。
重い衝撃が、腹部にめり込む。
「……ぁ、はっ……」
肺の空気がすべて引きずり出された。
吹き飛ばされ、太い幹に背中から激突する。
地面に崩れ落ちた私の視界は、
どろりと赤く濁った。
敵の足音が響く。
(……ここでしぬのか……な……)
指先一つ動かない。
遠のく意識の中で、走馬灯が駆け巡る。
父と母が笑っていた食卓。
咲と一緒に遊園地で遊んだ記憶。
…………。
——かえり、たい。
このまま消えるなんて、絶対に嫌だ!
死の淵で、心が激しく叫んだ。
それに応えるように。
——指先が硬い質感に触れる。
衝撃でポーチから転がり出た『上級回復薬』。
私はそれを、震える手で掴み取り、
無理やり口に流し込んだ。
その瞬間。
——淡い粒子が全身に灯る。
砕けたはずの肋骨が繋がり、
全身が瞬時に再生した。
(——まだ、終わらせない!)
敵がトドメの一撃を放とうと、
地面の影に沈み込む。
(……奴のスキル——【影潜伏】!)
敵が影に潜る瞬間を見た。
あれを真似できれば、背後を取れる。
(……【物真似】しかない!)
私はコンマ一秒の間にステータスを操作し、
温存していたポイントを即座に叩き込んだ。
敵が影から飛び出し、
私の背後に剣を振り下ろそうとした瞬間。
私も敵の影に入り込んだ。
——【物真似——影潜伏】。
急に視界が黒に染まり、
自分がどこにいるか分からなくなる。
(……これが、影の中?)
感覚が歪む。上下左右が分からない。
でも——敵の気配は分かる。
(……背後に出る!)
瞬時に地面を蹴って、敵の背後から飛び出す。
アヴェンジャーが、気づいていない。
間合いに入った。
「……チェックメイト」
影から這い出た勢いのまま、
ナイフを横一文字に振るう。
吸い込まれるように、
刃が奴の首元を断ち切った。
黒い影が霧散し、敵の姿が露わになる。
最後は『それでいい』と言うように
笑顔を浮かべ、粒子に飲まれ消えていった。
…………。
森に静寂が戻る。
「……はぁ……はぁ……」
息が、荒い。
足に、力が入らない。
その場に、へたり込む。
「……勝った、んだよね?」
自分に問いかけた瞬間、
頭に無機質なログが浮かぶ。
⸻
【ソードアヴェンジャーの撃破を確認】
【報酬として新たな器を授与されました】
【称号:闇纏い】を授与
それに伴い【ユニークジョブ:忍者】を獲得
【忍者】
深淵に挑み、打ち勝った者のみに与えられる器。
獲得できるスキルは多々あるため、多様性が大きい。
ーーーーーーー
成長性
体力:B / 魔力:B / 攻撃:A / 防御:C /
敏捷:S / 器用:S / 感知:A / 運:D
初期獲得スキル:【影潜伏 Lv.1】
初期ボーナス:敏捷+4 器用+4
変更しますか?
⸻
その内容に、魂が震えるのを感じた。
迷わず、震える指で『YES』を選択する。
その瞬間、身体が光の奔流に包まれた。
さらに、レベルが10から12へ跳ね上がり、
身体の芯から爆発的な力が湧き上がった。
⸻
【ボーナスポイントを獲得】
敏捷+4 / 器用+4
【レベルが上昇しました:10 → 12】
体力:+4 / 魔力:+4 / 攻撃:+6 / 防御:+3 /
敏捷:+8 / 器用:+8 / 感知:+6 / 運:+2
獲得スキル:【影潜伏 Lv.1】
【ステータス】
名前:相沢 天音 レベル:12
ジョブ:【忍者】 種族:人間
体力:30 / 魔力:32 / 攻撃:44 / 防御:17 /
敏捷:55 / 器用:50 / 感知:36 / 運:23
スキル:【気配遮断 Lv.3】 / 【鑑定 Lv.2】 /
【物真似 Lv.1】 / 【影潜伏 Lv.1】
ユニークスキル:なし
称号:【闇纏い】
所持スキルポイント:0
経験値:136 / 1200(次のレベルまで 1064)
⸻
これが、今の私。
そう思った瞬間、空間が崩れ、視界が歪む。
次に立っていたのは、
普通の月が見える見慣れた山の中だった。
生暖かい風が頬を撫で、
現実に戻ってきたと実感する。
……生きてる。
正直、今回は死んだと思った。
自分の選択を一瞬後悔もした。
それでも忍者という強力な力を
得ることができた。
この先、きっと力が必要な時が来る。
今では自分の選択に、後悔はない。
……二度と、ここへ戻ることはないだろう。
少しだけ感慨深くなり、目を細めた。
風景を目に焼き付ける。
「全部終わった……家に帰ろう」
そう呟いて、フードを被り。
私は歩き出した。
この手に掴んだ、新たな『器』を携えて。
※新たなジョブについた天音。
この先何が待ち受けるのか。
もし「続きが気になる」「天音を応援したい」と
思っていただけましたら、
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