『キャリーズ・パミュ』再び。〜後編〜
「なんだか、見ておれんな」
神シロが顔を上げる。
「うふふ、あら、あなたまだ、ウブなところがありますのね」
神シロの妻、女神東雲がポソっと言の葉を落として微笑む。
「彼女たちの肉食っぷりは、東雲さんにそっくりです……」
黒銀の目の友こと、トランザニヤが小声で漏らす。
神々は目を合わせると、抑えきれず笑い出した。
天上に3人の声が入道雲とともに広がっていく。
陽の光が神殿を七色に輝かせ、清々しい風が女神東雲の桃色の髪を靡かせる。
神々は和やか雰囲気のまま、口元を緩め下界を見下ろした。
その頃、『魔導具と雑貨・服の店 キャリーズ・パミュ』の試着室では、
神シロの末裔ーーアカリとジュリの姉妹と、
狼獣人の女の子アリーが姦しいやり取りを続けていた。
◆(女神東雲が語り部をつとめます)◆
アカリは隣の試着室のカーテンを勢いよく開き、ジュリの姿を見た。
ジュリは"スカスカ”の状態で、
背伸びするアリーに詰め物をしてもらっていた。
その状況にアカリはひとつ息をつく。
彼女は興味深げに微笑む。
「ジュリ……見せてみなさい」
アカリのその言葉にジュリは思わず顔を朱くした。
ジュリは少し恥ずかしそうに、胸を押さえながら振り返る。
一方、詰め物を終えたアリーは照れくさそうに、
でも心なしか嬉しそうにポツリ。
「アカリねぇ……ジュリねぇの、このボーダーは……どうかにゃ?」
彼女のその言葉は精一杯の褒め言葉。しかし慰めにも聞こえる。
アリーは耳をピクッとさせながらアカリの答えを待っていた。
一方のジュリもアリーの言葉にまんざらでもない様子。
鏡の前でボーダー柄のブラを身に着け、
上機嫌なジュリにアカリは満足げに答えた。
「似合ってるわ。やっとあなたも……
”戦装束”を気にするようになって嬉しいわ」
その言葉に思わずアリーが口を挟む。
「良かったにゃ! 僕はオーバーオールを着てりゅ。
"スカスカ”でも目立たにゃいから大丈夫にゃん!!」
顔を見合わせ、3人で笑い合っていたーーその瞬間。
待機していたお洒落な女性店員さんが、声をかけてきた。
「あのう……」
開きぱなしのカーテンの向こうーーその声に3人は振り返った。
場にはどこか緊張感が漂う。
お洒落な女性店員さんは少し謙虚な笑顔で紡いだ。
「昨日入荷したばかりですが、お胸に直接貼るタイプのーー"サイズUP”が出来る商品もあるんですが、お客様、それをお試しになりますか?」
その言葉にジュリが目を見開き、興味深そうに尋ねた。
「えぇっ!?それって!?」
女性店員は、「少々お待ちください……」と、忙しなく奥に取りに行った。
アカリ、ジュリ、アリーの3人はその間、試着を続けながら待っていた。
「こっちの方が良さそうにゃ」と。
興味津々でアリーが派手な戦装束を胸に充てがう姿は、
どこか可憐な乙女に見えた。
アカリとジュリはその姿を見て「「やっぱりアリーも女の子ね」」と、
同時に声を揃えていた。
そんな中、数分後にお洒落な女性店員が戻ってくる。
彼女は息を切らしながら、手に持つ商品を差し出した。
「こちらです。自然な膨らみを生み出す、
最新の魔導具ーー【ヌーブラン】です」
お洒落な女性店員の声は高く、自身に満ちていた。
その魔導具が手渡された瞬間、3人は興味津々で触れてみた。
その感触を確かめながら、ジュリが希望に満ちた表情で尋ねる。
「……し、試着出来ますか? わたしこれ欲しいです!!」
確かめるように言った後、ジュリは耳を赤くした。
その言葉にアカリは軽く口元を緩ませる。
「いいんじゃないかしら……ジュリ、付けてみれば?」
姉の言葉にジュリは頬まで朱くして頷く。
そのやり取りにアリーは、”興奮”したように声を荒げた。
「ジュリねぇ、早くつけりゅにゃ!!」
そう言って彼女は垂れ耳をピクつかせ、その感触を確かめる。
透明で半月型の『ヌーブラン』は、
驚く程柔らかく、肌にぴったりと馴染みーー
"ぷにゅ〜ん”とした感触で、触ると"プルン”と大きく膨らむ。
女性店員曰く、その魔導具を使うと、
なんと最大『ツーサイズ』までアップするという優れ物。
それはまるで【身体強化魔法】を常にーー
"かけている”みたいなものだった。
ジュリは『ヌーブラン』をペタリと貼り付ける。
冷やりとしたその瞬間、
"プルン”と生き物のように『ヌーブラン』は大きく膨らむ。
それは違和感など、まるでない自然な膨らみを見せていた。
見違えるようなバストになったジュリは、目尻を下げ笑みを零す。
彼女は『ボーダー』の戦装束、フロントホックをキツめに閉めた。
するとーー『小谷山』ほどの膨らみが見事に出来上がった。
次の瞬間、ジュリは興奮して叫んだ。
「最高ーーっ! これ、絶対買うーーっ!!」
様子を窺っていたお洒落な女性店員の顔にも、自然と笑みが零れる。
彼女はほっと胸を撫で下ろし、息をついた。
一方、”ジュリは、新たに選んだ服とともに、
三色のボーダーの”戦装束”セットを持って店員に手渡す。
小鼻から「ふん」と息を抜くジュリ。
興奮してテンションが上がった彼女は、そのまま小躍りしていた。
「ジュリねぇ、服を着にゃさい。服をーー」
(*アリーのイラスト)
試着を終えたアリーは、ジュリを見つめながら呆れたように声を漏らす。
「このつけている『ヌーブラン』も、
この三種類も…全部、全部買います。
それともう一つ、新品の『ヌーブラン』も、追加でもらえますか?」
ジュリは頬を朱に染め、店員に向かって続けた。
「わたしやネー、アリーが今着てるのって、
攻撃魔法や物理攻撃の耐性は付与されていますか?」
すると店員は優しく答えた。
「当店の衣類装備は……肌着から全て、
攻撃魔法や物理攻撃の耐性が付与されております。
ですがそれはあくまで、初級魔法程度の耐性です」
女性店員は早口で紡ぐ。
「しかし、その生地には『*裁縫師』の手によって、
一つ一つ丁寧に付与が施されておりますので、
当店の装備を重ねて身につけていただければ、より安全かと」
その言葉にジュリとアリーは、ぽかんと口を開けたまま。
アカリは黙って説明を聞きながら頷いていた。
お洒落な女性店員は、丁寧に続けた。
「あ、『ヌーブラン』の取り扱いについて、
気をつけねばならない点が幾つかございますのでご説明致しますね」
「はぁ…」
ジュリはどことなく気が乗らずに返事をした。
だが、アリーの目は真剣そのもの。
二人の視線の違いに戸惑いながらも、
お洒落な店員はさらに早口で語気を強めた。
(*女性店員のイラスト)
「『ヌーブラン』は粘着力が弱まるため、
水魔法の使用後は乾燥時間を設けてください。
また、アルコールにも弱いので、お気をつけください」
アリーはその説明にうんざりするかのように「うんうん」と頷く。
一方、女性店員は軽く頭を下げ、最後の言葉を添えた。
「それと、肌が荒れるようでしたら、
お近くの薬店でご相談なさってください」
言い終えると、お洒落な店員は息をつく。
アリーは「わかったにゃ!ありがと」と、
感謝の気持ちを込めて、店員にお礼を言った。
こうして、試着室での出来事は一旦幕を閉じた。
***
着替えを終え、試着室を出た3人は『女性肌着(戦装束)売り場』から、
『服・装備全般の売り場』へ向かった。
「わたしはシャツやスカートを何着か探すわ。
アリーも何か欲しいものを見つけてね。ネーは?もう十分なの?」
ジュリの言葉にアカリが服棚を見ながら振り返る。
「着ていたチャイナ服の色違いは買い足すわ。
あ、それとーー
ダー様が気に入りそうな服を少し、あなたに見つくろってあげるわ。
高さのないヒールも何足かね」
アカリの提案に応じながら、ジュリは視線を少し遠くに投げた。
微かな期待と照れくささが入り混じる彼女。
やがて、彼女はどこか吹っ切れたような笑みを零す。
「わたしも服と靴を何足か買うわ。
アリー、ハイカットの靴はどう?好きでしょ?」
ジュリのその言葉にアリーは、耳をピンと立て元気よく頷く。
3人は店内を回りながら、お互いに選んだ服をあれこれと言い合う。
「あ、アリー!これどう? この色、アリーにピッタリよ!」
アカリが手に取った青のアロハシャツをアリーに向けると、
少し照れながら「似合うかにゃ?」と、彼女は鏡に合わせてみる。
尻尾をフリフリさせるその姿は、なんとも言えない癒し。
アカリとジュリもその姿にニンマリを隠せない様子。
そんな和やかな空気が流れる中、アカリが一着ジュリに充てがう。
「ジュリ、このチャイナドレスどうかしら?
前も開いてないし、シンプルで上品よ」
「うーん……悪くないわね」
ジュリは袖を広げて質感を確かめる。
一方のアリーは、その服を見て口を開く。
「ジュリねぇ、こにょチューブトップと、
さっきの紺のボーダー。きっと似合うにゃ!
はみ出ても、色が綺麗に映えてピッタリにゃ!」
その言葉にジュリは小さく吹き出した。
「もう、どこでそんな目を養ったのよ」
彼女の言葉に、アカリとアリーも吹き出す。
その笑い声は、どこか幸せな空気を店内に漂わせる。
周囲の女性店員や、客たちも朗らかなやり取りに口元を緩めていた。
「これのデザインはいいにゃけど。色がにゃぁ……」
背伸びしながら、アリーが棚から取った男物の服。
その色は真っ赤だった。
3人は試着室を行ったり来たりしながら、
気に入った服を試しては、意見を交わし合っていた。
「ダー様はそれこそ、"見せる”ならその色も喜ぶはず。ふふふ」
アカリが悪戯っぽく微笑む。
その瞬間、アリーは垂れ耳をピクッとさせた。
一方で、ジュリはお茶を濁すように口を挟む。
「ったく、ネーはいきなり何を言い出したかと思えば……。
へんダーってさぁ、いつも黒い服ばかりよね……」
一瞬、頬を朱に染めたが、青や茶色の男物をあさりながらつぶやく。
紳士服が並ぶコーナーで三人は、眉を寄せ悩んでいた。
「これにしましょう」
アカリは思いたたかのように、棚から男物の服を一着取り出す。
その瞬間、ジュリとアリーの動きが止まり、彼女の手に目を向けた。
ジュリが控えめにつぶやく。
「わたし……これをへんダーに渡したいの」
その言葉尻を聞くまでもなく、アカリとアリーは視線を交わし頷いた。
「ジュリ、いいじゃない。あなたが言い出したことだもの」
そう言ってアカリは優しい瞳でジュリを見つめる。
その言葉に背中を押されるように、ジュリは意を決して服を手に取った。
3人で選んだ男物の服は、すぐにコーディネートされ、
他の選んだアイテムと一緒にレジに持ち込まれた。
ジュリが少し申し訳なさそうに尋ねる。
「ネー、本当に良いの?わたし、こんなに買ったら高いと思うんだけど……」
その言葉にアカリは穏やかな笑みを浮かべた。
「大丈夫よ。依頼料がたくさん貰えるはずだから、これくらいは平気よ」
「さすがにゃっ!」
アカリに甘えるようにアリーが答え、頬をすり寄せる。
ジュリも最後には「じゃあ、ありがとう」と小さく微笑んだ。
会計を終えた3人は、布油紙袋を抱えて店を後にする。
「ふふ、次はどこに行く?」
アカリの問いかけに、3人は顔を見合わせて「ゲラゲラ」と笑い声を上げた。
店の外に出ると、冷たい空気がほのかに頬を撫でる。
『キャリーズ・パミュ』の看板が、夕陽に溶けるように遠ざかり、3人の笑い声だけが、ビヨンド村にふんわりと残る。
だが、その一方で、忍び寄る影の足音は確実に3人に近づいていたーー。
(*左からアカリ、ジュリ、アリーのイラスト)
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『*裁縫師』ーー神から与えられるギフトで、この世界のジョブスキル。
裁縫のスペシャリスト。
魔力の保有量は高く、稀に獣人種の中にも生まれることがある。
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )




