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『妄想図鑑』がこの異世界を塗り替える! 〜英雄トランザニヤの末裔とその仲間たち〜 #イセトラ    作者: 楓 隆寿
第1幕 交章。 〜明かされていく妄想と真実〜

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『魔導具と雑貨・服の店 キャリーズ・パミュ』前編






「なんと!服を買いに行くのか? そんな、のんびりしてて良いのか?」

 

 神シロは目を丸くしながら振り返る。


「あの子たちも年頃ですから」


 神シロの妻、女神東雲の口元が緩む。


「そう言えば黒銀の、ぬしの妻、ルシーヌも”派手”なのを好んで……」


「シロよ、それを言ってくれるな……」


 言いかけたその瞬間、黒銀の目の友ことトランザニヤは苦笑。

 

 一方、 興味津々で女神東雲が下界を覗きつぶやく。


「装いは、女の”武器”にもなりますから。楽しみですわ」


 神シロとトランザニヤはその言葉に、呆れた表情を浮かべ下界を眺めた。




 



 ◇(ゴクトーが語り部をつとめます)◇





 雲がぷかりと浮かび、日差しがほどよい。

 暑さもさほどでは無くなってきた。

 村で唯一、目立つ魔時計の針は月の3オクロックを指す。

 暖かい風が吹く中、俺たちは服屋を求めてビヨンド村を散策する。


 苔むしる石畳のメイン通りは様々な亜人、

 冒険者たちで賑わいを見せていた。

 新設された店舗が軒を連ね、冒険者たちは当然のように武器屋へ。

 亜人たちは汗を流し、錬金道具を片手に土木作業を続けていた。


 歯ブラシや洗剤、飲料や菓子まで売る小さな商店。

 前世の記憶で言えば、まるでコンビニのような店舗だ。

 人々の出入りも激しい。


 一方で、豪華な緑碧石が積み重ねられた重厚な建物ーー

 大陸では有名な高級店も新たな出店準備をしていた。


 

 ……ギルド支部長は、尊重も兼任してるって言ってたな。

 だからの商業ギルド設立か。なるほどな。


 俺は昨日ギルド職員から聞いた話を思い出す。

 商店や露店を見ていると、この村の活気が目の端に飛び込む。


「オヤジ、いつものな」


「毎度」


 屋台のカウンターに立ち、麺をかき込む黒毛の獣人。

 きっと休憩時間なのだろう。

 中では職人の魚人が忙しなく汗を流す。


 カツオ節の芳醇な香りが、

 鼻の『香りん』をくすぐり、「きゃ!」っと、俺の頭をコツンと叩いた。


 『香りん』は手を振りながら、すぐに『妄想図鑑』に収まった。


 「いきなりか? いかん、妄想図鑑が暴走し始めてる……」

 

 ポツリと落とし、ため息をつきつつ歩みを進めた。

 

 そんな中、村人たちが一瞥して通りすぎる。

 至極当然だ。仲間たちの装備はボロボロ。


「あらま」

「クエスト失敗したのか?」

 

 すれ違う度に陰口を囁かれた。 

 周囲の騒めきを勝手に耳が拾ってくれる。

 迷惑なよく聞こえる耳だ。

    

 そう思いながら歩みを進める。

 ふと道すがら目に入ったのは、大手チェーンの看板。

 

『魔導具と雑貨・服の店 キャリーズ・パミュ』

 そう描かれた看板は派手な色彩で、大きなショーウィンドウも目を引く。

 

 隣で目を輝かせるアリーの垂れ耳を撫でる中、

 横から近づくジュリが店を覗き込む。


「服を買うなら、ここはどう?」


 彼女の声に仲間たちも後ろから店内を覗き込んだ。

 俺も彼女たちに習い、冷たいガラスに鼻を押し付ける。


 店内には華やかさと上品な雰囲気が漂っていた。

 印象的なのは、凛とした美しい女性店員が多い。

 彼女たちの接客態度の良さに目を奪われた。

 

 窓にへばり付くように覗き込むアリーがポツリ。


「ここで売ってりゅかにゃ? 僕にょ服……」


 彼女が少し不安げな表情を見せる。

 窓ガラスの冷たさが手に伝わるが、彼女の言葉に少し驚いた。


 えっ! アリー、

 〝僕っ子〟だったのかッ!

 まぁ、前世の記憶では、アニメに出てくる女の子が、

 僕っていう一人称をよく使う。

 まさかここで本当に〝僕っ子〟と出会えるとはーー。


 思ったが口を噤む。得意技だ。


 そんな俺を横目で見ながら、パメラも中の様子をじっと眺める。


 「冒険者ギルドのロビーとかよりも、ずっと広いわねん」

 

 彼女はつぶやくが、あまり興味はなさそうな声色。

 

 一方、影のリーダーアカリが口を開く。

 

「取りあえず、入ってみましょうか?」


 桃色の髪を靡かせさらりと指示を出す。


 仲間たちとともに、期待に胸を膨らませ足を踏み入れた。

 パメラとアカリが俺の腕を離さず店内を見渡す。


 アリーは尻尾をフリフリ、垂れ耳をピクピクさせ目を輝かせる。


 店員や客の視線が俺たちに一斉に集まった。


「ちょ、離さないのかよ……」


 じっとりとした汗が滲む中、思わず声が漏れる。


 右腕にアカリの『むにゅっ』。

 左腕にはパメラの爆弾(ダイナマイト)『ブルン』。


 挿絵(By みてみん)


 

 ふたりに挟まれ、どうにも落ち着かない。

 当たり前だ。

 男の客は俺以外見当たらないし、店員さんの視線もどこか痛い。

 まるで煮えたぎる鍋のように顔が熱を持つ。


 そんな状況の中、一人の女性店員が頭を下げた。


「いらっしゃいませ」


 その声に次々と同じ言葉が繰り返され、店内は一つの挨拶の坩堝と化す。

 他方、物怖じなど微塵も見せないパメラが足を止める。


 「壁の飾り、立体的なオブジェねん。 

 面白いわよ、この人物画、表情が変わるわん」


 ニヤニヤしながらその絵画と睨めっこしていた。

 当然、彼女の足が止まれば、俺とアカリの足も止まる。


 「色とりどりで綺麗ね。この花のガーランド」


 アカリが少し触れながらつぶやく。


 ガーランド? どこかで聞いたようなーー。


 思いながらも二人の様子に半ば呆れながら気配に気づき、ふと見上げた。

 組み木式の木目が美しい高い天井には、

 水色や銀色のバルーンが浮動ーー

 それはまるで飛行船のようで、仲間たちも目を輝かせていた。


 店内はフローラル、シトラスといった香りの化粧品が、

 一層華やかにしている。

 上質でお洒落な雰囲気が店内を満たしていた。


 俺は目に留まるもの全てが新鮮。

 師匠はこういった店を好まず、個人商店ばかりを好んで利用していた。

 今世ではーーこの手のチェーン店、なにしろ始めて入ったのである。


 興味と不安が交錯する中、

 店員さんが洗練された動きでこちらに近づく。


 ここぞとばかりにジュリがアリーを前に押し出し、店員にたずねた。

 

 「獣人用の服ってありますか?この子のなんですけど」


 店員を前に、恥ずかしそうなアリーがモジモジしながら口を開く。


「ありゅかにゃ……?  僕、オーバーオールが欲しいにゃ……」


 その言葉と仕草にアリーを見た店員の瞳が、キラキラと煌めいた。

 

 次の瞬間、 店員はアリーを見つめ、「か、可愛いーーっ♡」と、

 歓喜の声を上げた。

 まるで可愛いぬいぐるみでも見るかのように、店員が目尻を下げる。

 そのやり取りに、店内の客の視線も集中し始めた。


「あら、可愛いわね、あの獣人の子」


 そんな声が囁かれる中、

 店員が優しげな眼差しを向け「案内するわね」と、

 アリーの”照れ耳”をそっと撫でた。

 モフモフの尻尾をピンと立てるアリーの手を握り、

 ジュリがその店員とともに、売り場へと向かった。


 俺もニヤニヤしながら彼女たちを見送る。

 

 一方パメラが俺の腕を離し、店内を眺め始めた。

 

 パメラが揺るぎない瞳で優雅に歩く。 

 少し安堵したのも束の間、

 彼女が立ち止まり、煌めく服をパッと広げた。

 

「どうかしらん、ゴクちゃん?」


 彼女は甘い声を出し一着、身体にあてがう。


「これ、流行りなのよねん」 


 それは『*レッド・バード』の赤い羽が煌めく超ミニのワンピースだった。

 さらに言えば、胸元が大胆に開いたもの。


「あ! ……これもどうかしらん?」


 黒のレースの”派手”を手に取り、挑発するかのような目を俺に向ける。

 その瞬間、パメラから目が離せなくなった。


 周囲の客たちも足を止め、その光景を興味深そうに眺めている。

 店員からの熱い視線が俺に突き刺さるのも辛い。


 こ、これっ!

 新品のはずなのにーー

 この派手なパンティ、裂けているのではッ?


 俺は女性の下着には、てんで疎い。

 興味がないわけでもないが、顔には血が昇る。

 

 そんな俺をパメラの視線が、まるで心中を見透かすように貫いた。

 彼女がニヤッと目尻を下げる。

 

 そんな中、目を逸らしながらも俺は、声を絞り出した。


 「い、い……いいんじゃないか……サ、サイズも……い、色も……」


 どもりながらも声を裏返して答えたのだが。


「ふふん」


 パメラが軽く鼻を鳴らし、紫の髪を耳にかけた。


 (うぶで可愛いわね、ゴクちゃん。 

 これなら……あたいの大人の魅力、活かせるわん)


 口元が綻ぶ彼女の思いが俺に伝わる。

 

 なんだってんだ、何がうぶだ。

 つくづく損なスキルだ。

 この心読スキルで良い思いをした事がないぞ。

 

 思いながらキッとパメラを睨む。

 けれど、急に恥ずかしくなり、心中穏やかではいられなかった。


 だが、じっと見つめるパメラの視線から逃れられない。

 

 そんな中、”派手”を目立つように掲げ「試着してくるわん」と、

 彼女が一瞥して、クスッと笑いながら試着室へ向かった。


 一方、横で黙って見ていたアカリの表情が一変。

 まるで焦りと嫉妬が混じってるかのようーー。

 

 何かを探すようにアカリが店内を眺め始めた。


「少し見てきますわ」


 そう言ってアカリが腕を離す。

 どうやら”お目当てのもの”を見つけたようだ。

 

 一方で俺は、彼女たちが離れた瞬間、ほっと息をついた。


 店内をぼんやり眺めながら「やっと、解放された」と思わず零す。

 

 そんな時間も束の間。

 ジュリとアリーが店員と戻ってきた。


 ようやく、ひと息ついた所なのにーー。


 そう思うが口には出さない。 察してくれ。


 アリーが一歩踏み出し、くるっと回った。

 小首をかしげ、「みせにきたにょ」と、言わんばかりの表情を見せる。


「どうにゃ?」


 俺を見上げる彼女のメタリックブルーの瞳が煌めく。

 様子を窺うように、垂れ耳をピクピクと動かし、尻尾をフリフリさせた。


 んーん。

 可愛いぞッ!

           

 そう思いながらアリーを褒めた。


 「似合ってるな」


 彼女が嬉しそうな笑みを溢したその瞬間、

 尻尾がふわりと俺の手と重なった。

 

 アリーが満足したように口を開く。


 「ジュリねぇのお洋服は、僕が選んであげりゅーー!」


 そう言いながらジュリに微笑みかけ、手を引いていく。

 店員さんも笑顔で付き添い、3人がまた店の奥へと向かった。


 彼女たちの背中を眺め、しばしそこで佇む。

 なかなか帰ってこないアカリやパメラは、さておき。


 一人になった俺は店内を見て回った。

 

 華やかなブルゾンやスラックス、シャツが陳列棚に並ぶ。


「さすが大手チェーン店、品揃えが凄い」


 思わず独り言ちながらショーケースを眺めつつ、

 歩みを進め、一際大きなショーケースの前で立ち止まる。


「眼鏡じゃなく『*コンタクト・アイ』や、

『アイテムボックス』といった品まで、ここにはあるんだな」


 驚きを隠せず、思わず声が漏れる。


 そして 、気つけば『女性肌着』の陳列コーナー。

 派手な下着が目の前にあった。


 ヤバイッ! 

 ”死線”ッ!危険だっ!

 

 心で命じ、その場を離れようとしたーーその時。


 柔らかい感触が背中に当たった。


 ”むにゅっ”て、したんですけども……。


 一瞬、この感触の記憶が頭をかすめ、額に汗が滲んだ。


 背中越しに視線を感じる。

 振り返るとそこには、ほんのり頬を朱くしたアカリが立っていた。

 彼女の瞳がわずかに揺れていたのは、なぜだろう。

 それはどこか可憐に見え、いつもの彼女とは違って見える。

 その視線に耐えられず、俺は咄嗟に目を逸らした。


「ダー様の趣味がわかりませんわ……

 好きな色と、どんなデザインがお好みなのか、教えてくださいますか?」


 控えめな声でアカリが尋ねてくる。

 まるで恥じらいと確信が入り混じっているかのようだ。



 で、でましたーーっ! 

 アカリの【デス】攻撃!

 こりゃ逝くなッ!俺っ!



 俺は言葉を失いーーただその場に立ち尽くした。

 ガリガリと、ただ頭をがむしゃらに掻く。

 身体はまるで蛇に睨まれたカエルのように動かない。

 目をはぐらかそうと踠くーー

 だが、これが中々に実行できなかった。


「アカ……」


 焦っ声は喉の奥がつまり言葉にならない。


 ゴクリ。 

 唾を呑み込み、しばらくその場に固まってしまった。

 

 一方でアカリが動揺に気づいたのか、俺をじっと見つめる。


「ダー様の好きな色に染まりますわ……うふんっ」


 派手な色を嬉しそうに手に取る、その声は妙につやっぽい。

 下着を眺める彼女の瞳には、何か特別な色が滲んでいる。


 それは赤く光ったり、碧に光ったり。

 照明の当たる角度でその色は変わっていく。

 

 そして彼女が、瞳の奥に『猛虎キラン✧』を宿らせたーー。

 と、思ったのはさておき。


 その瞳に引き込まれる俺を他所に、アカリが顔を寄せて囁く。


「うふんっ……選んでくださるの……?」


 その言葉に思わず息を呑む。

 場には緊張した空気が流れる中、

 悪戯っぽい視線を向けるアカリが俺の顔を見上げた。

 

 その刹那、身体は硬直し、全身から汗が吹き出す。


 ……ってか、 アカリさん。

 俺の耐久値っ!ゼロになるんですけども。

 自分で選んでくれーー!


 心の声は今にも零れそうだったが、言い訳じみた言葉を並べる。


「い、いや、あの……お、俺は……ふ、普段……黒、ばっかりだから……」


 その実、声を出すのもやっと。


 そんな俺の言葉に、「ふっ」と鼻で笑うアカリが、艶やかな唇を動かした。


「黒ですか……沢山持っていますわ。この間のブルーは? 

 お気に召しませんでしたか? 

 それともお会いした時の……赤がお好きですか? ふふふ」


 彼女が捲し立てるようにさらに追い打ちをかける。


 その言葉に度肝を抜かれたのは言うまでもない。

 頭は混乱、思考が止まる。


「何色でもお似合い、だと……思いますけども」


 消え入りそうな声で俺はなんとか答えた。


「あら、嬉しいですわ。お待ちになっててくださいね。 

 適当に、みつくろってきますわ!」


 アカリがそう言うと、”俺好み”を颯爽と探しにいった。


 一方でこの場から逃げ出したい一心で、

 そこから後退り、何かに躓く。


「あぶねっ」


 思わず声が出た。

 振り返るとそこは試着室。

 

「あら、その声はゴクちゃん」と。

 

 カーテンの奥から声がした。


 ”シャーー!” と、派手な音とともに 開かれたカーテンーー

 その刹那、パメラが背を向けつつ、引き締まるbodyで現れた。


「後ろのホック止まってるかしらん?」


 

 挿絵(By みてみん)


 その言葉と彼女の姿に、俺の脳はパンクした。

 その瞬間、目はかすみ、ぐらんと身体が傾く。

 脳内でスイッチがカチッと音を立て、

 ふわりとした感覚が襲う中、俺は自分の”癖”の世界へ入っていった。


 

 【妄想スイッチ:オン】

  

 ──ここから妄想です──


 名付けるなら『紫薔薇の女O(王)様』が、

 桃のような頬をして見下ろす。


 「ははは、くるしゅうないぞ」


 「ハハッ!」

  

 俺の妄想眼”死線”が恭しく跪く。


「主よ、装備の詳細だ……」


 そう言って”死線”が『妄想図鑑』のページを開いた。

 スキル【シジマビジョン】を通して、その内容が頭に浮かんでくる。


 

 パラ。


 =図鑑付録001:紫薔薇の女王(ムラサキバラノ・ジョウO)装備=



  【ローズヘアオーナメント】

  魔力を帯びた薔薇の飾り。

  精神集中を助け、暗黒魔法の詠唱速度をわずかに上げる。


  【クロスストラップ・トップス】

  柔軟性に優れた戦闘用ボディスーツ。

  胸部を保護しつつも、動きを妨げないよう設計されている。


  ーーなどなど、その装備の詳細が書いてあった。

 

 

  【妄想スイッチ:オフ】


 ──現実に戻りました──


 「主よ、跪く理由がわかってくれたか?」


 そう言い残し『妄想図鑑』とともに”死線”が消えた。

     

「っは??」


 我に帰り、意識を取り戻す。


 おいおい……俺っ!

 ここで死ぬな。

 

 思いつつも、呼吸がさらに早まる。


「ここ、服屋だよな? なんで俺は命を削られてるんだ……?」


 細やかな声でそう零し、額の汗を拭う。

 だが、この現実から俺は逃れられなかったーー。









 お読みいただき、ありがとうございます。

 引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )



 




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― 新着の感想 ―
まんまと死地に飛び込んでしまったゴクトーは妄想が暴走して止まらなくなりそうな感じですね。突っ込むが大変そうでした。今回もとても面白かったです。
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