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妄想図鑑が世界を変える?【異世界トランザニヤ物語】  #イセトラ R15    作者: 楓 隆寿
第1幕 肉食女子編。 〜明かされていく妄想と真実〜

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【鼓動震雷(ビート・サンダー)】と揺れるノビ

 







「やっと、七星の武器がお披露目だな」


 黒銀の目の友こと、トランザニヤがつぶやく。


「誰が持つかのぅ? ちゃんと七星の武器に”選ばれれば”良いがの」


 桃髪の赤い目の神、シロが眉をひそめる。


「大丈夫ですよ、あなた……あの子たちなら」


 女神東雲は苦笑していた。


 神々は期待を膨らませ、下界を覗き込む。





 その頃、ゴクトーは大部屋の前で、ジュリ、ノビの三人でドアを開けようとしていた。





 ◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇





 トントントン。


 ジュリがノックする。



 ”ガチャッ”



 その瞬間ーー花のような香りが鼻に絡み、眩暈が俺を襲った。


 意識はふわっと遠のき、目はぐらぐら霞んでいく。


 いかん……【妄想スイッチ:オン】が……


 思いながらも俺は自分の”癖”の世界に入っていった。



【妄想スイッチ:オン】


 ──ここから妄想です──



「この石鹸や、シャンプーの香り……ふふふ、わたし大好き」


 挿絵(By みてみん)    

(*ゴクトーの妄想キャラクター、妄想鼻の妖精)


 鼻の『香りん』が頬を朱くして、つぶやく。



「これは危険地帯だぞ!主よ、オレに何をさせる気だ?」


挿絵(By みてみん)

(*ゴクトーの妄想キャラクター、妄想眼”死線”)


 ”死線”が目を見開き問う。



「旦那、今日はしんぞうさんも居やすから、どうぞ、遠慮なく」



挿絵(By みてみん)

(*ゴクトーの妄想キャラクター、妄想心臓)



 胸の『江戸っ子鼓動』が揉み手でニコリと笑う。



  一堂に会した俺の妄想”パーツ”たち。



「”死線”サーチだ……」


「あいわかった」


 ”死線”が部屋を眺める。



「報告する……まずはパメラだが、濡れた紫髪、スラリと伸びる美脚が美しいぞ......主。爪先には紅いペディキュアがつややかに光っている。紫のタンクトップ、気をつけねば……あれも魔物と化すかもしれぬ」


「ふむ。そうか」


「『黒薔薇』……あれは厄介だな。紫のタンクトップには薔薇が咲き誇っているんだが、カモフラージュの如く、脇から覗いているぞ。棘の鋭い黒薔薇がほくそ笑んでる……。何かを狙ってるようだぜ、主」



「そんな危険なのか……?」


「こいつは厄介な案件だ……何しろその『黒薔薇』は『爆弾(ダイナマイト)』の破壊力を持つ”GODDクラス”だ、主」



 ”死線”が声をひそめる。



「そこを離れろ!……次はアリーをサーチしてくれ」


「アリーか、お言葉だが、主よ……可愛らしいドット柄のパジャマ姿で、危険度は皆無だが?」


「そうか……次はアカリだ」


「彼女にもサーチは必要なのか?主よ」


 ”死線”に改めて指示を出す。


「アカリの、あの『猛虎キラン✧』の目には、気をつけろッ!」


「あいわかった」


「アカリは洗い髪をポニーテールでまとめているぞ。

 桃色U字キャミソールからは、白い肌が覗いて何とも艶やかだ」


 次の瞬間、”死線”の声が低くなった。


「 だが気をつけろ……彼女の谷間からのぞいてくるーー

 『青の蝶、紺の蝶、ペイズリー姉妹』。綺麗な姉妹たち……だがな……油断するなよ、主」


「死線さん、死線さん……うふふ」


挿絵(By みてみん)

(*ゴクトーの妄想キャラクター、蝶の妖精ペイズリー姉妹)



「そんなにか?」


「ああ、彼女たちは【むにゅっ】との魔法を使うからな……」


 ”死線”が肩をすくめた。


「ご苦労だったな、”死線”」


「はい、長ーい。さっさと……妄想は終了よ」


 鼻の香りんが釘を刺す。



 【妄想スイッチ:オフ】


 ──現実に戻りました──


『妄想図鑑』に『香りん』、”死線”が吸い込まれるように収まった。


「旦那、ペイズリー姉妹は、あっしが図鑑に連れて行きやす」


『江戸っ子鼓動』はそう言って指で印を結ぶ。

 ペイズリー姉妹は、不安げにその美しい翅を広げ、飛び立とうとした。

 目をカッっと開いて『江戸っ子鼓動』が詠唱した。


 「《具現想霊ぐげんそうれい》ーー【神代警告魔法・鼓動震雷ビート・サンダー】!!」


 その瞬間ーー「何するのよ?」「きゃっ!」と。

 その言葉を残し、ペイズリー姉妹が霧のように図鑑に消えた。


「では、あっしはこれで」


 そう言い残し、『江戸っ子鼓動』も『妄想図鑑』に、吸い込まれるように収まった。


 俺は意識を戻し、我に返った。


「長ッ! でも……不思議な感覚だ……」


 つぶやきながら焦りで気が動転する。

 

 マジで、現実と妄想の区別がつかない。

 これって、何かが変わりつつある予兆なのか?

 それともーー呪詛めいた呪いでも受けたのか?

 魔族にでも、なっちまうんじゃないか?

 しかし、不思議だ。

 今、現実で起こってることが、俺にしか見えないなんてーー。

 

 俺は不安と困惑の中、思考だけが空回りし、ただ立ち尽くしていた。

 次の瞬間、風に煽られたのか、ドアの閉まる音がガチャッとした。

 

 思わず驚いてビクッと身体が動く。

 そんな中、呆然と立ち尽くす俺にジュリが声をかける。


「ちょっと、へんダ──そこで、なに突っ立てるのッ!」


 彼女に肩を叩かれ、俺は自分を取り戻したように部屋に入る。


 その瞬間、目の前の光景に頬は熱くなり、耳に熱が籠った。

 一方、横顔を見ていたジュリが口を尖らせる。


 気が気でない俺は、一度大きく息をつき、改めて部屋を見渡す。

 最初に目を引いたのはパメラ。彼女はソファに優雅に腰掛けていた。


 俺と目が合うと眉をひそめ美脚を組む。

 ノーメイクでも整った顔立ちの彼女ーー棒立ちになっているノビに視線を這わせる。


 どこか柔らかく、包み込むかのような視線でノビを見つめる。

 瞬間、ぎこちなさを漂わせるノビに、俺は何となく苦笑した。


 そんな中、モフモフの耳がピクリと動く。

 アリーが少し眠たげな表情で目をこする。思わず「ヨシヨシ」と頭を撫でた。



「にゃ……そんなに見りゅにゃ……恥ずかしいにゃん……」


 そう言って彼女が尻尾を立て、背を向ける。 

 垂れ耳を朱く染めているのが愛らしい。


 愛でるのも束の間、俺は微かな視線の圧を感じる。

 そしてーーアカリと目が合う。


「……恥ずかしいですわ」


 挑発するような目だった彼女は、目尻を下げた。


 一瞬、胸の『江戸っ子鼓動』がピクリと動く。


 動くなよ……鼓動。


 心で命じながら大きく深呼吸。


 胸を押さえ仲間たちの姿をもう一度眺めた。


 パメラ、大胆な色気だよなッ!

 アリーは無邪気で可愛いのは結構だ。

 アカリの品格ある美しさは、ちょっと怖いがな。

 ジュリさんや……その悪戯っぽい仕草、気になるんですけども……。       

 ……ってか、純情、真っ直ぐだなッ!ノビッ!

 だが、全て、異なる魅力……。

 いい仲間たちって、感じだよな。


 思いながら出会ったことにーー胸中では密かに感謝していた。


 目が合う仲間たちにも笑顔がこぼれ、恥ずかしくなって目をふせる。


 そんな俺を他所にアカリは、つややかな声を出す。


「揃ったわね……始めましょう」


 彼女は凛としていたが、その表情は柔らかい。


 俺は戦利品の『宝箱』を『アイテムボックス』から引っ張り出す。


 次の瞬間ーーノビはその光景に目を見張った。


 次々と現れる宝物の数々ーー白金貨、宝石、魔石、武具、魔導具まで。


 部屋の広さがたちまち、戦利品で一杯になった。

 まるで即席の宝の山が出現したかのよう。



 ゲコリ、見つめていたノビが唾を呑む。


 (場違いな気がするんさ……

 ごんな凄いものの中に、オラが混ざっていいのか?)


 ノビの気持ちが俺に伝わる。

 このスキルは、たまに俺を悩ませる。

 ノビの表情には驚きと緊張の色が滲み、交わっているように感じた。


 (でも……もしかしだら、オラにも、何かすごいものがもらえるのがも……

 いや、もらっぢゃいげない……)


 純真無垢のノビの気持ちが伝わってくる。

 そんな俺を他所に、ノビが宝の山を再び見つめる。


「しだっけ……」


 一言漏らして、ため息をつき肩をすぼめた。


 他方、その声に反応したかのようにアカリが声を出す。


「ノビ、緊張しなくていいのよ。これは私たち全員で手に入れたものだから」


 彼女がチラっとノビを一瞥し、わずかに口元を緩めた。


「ゲコココココ!(緊張しまづよ!)」


 ノビがカエル語で軽く返事をして、飛び跳ねた。


 仲間たちはーーカエル語が理解できないようで、その”鳴き声”で吹き出した。


 (凄いんさ。みんなこんなに堂々として、オラなんがと、全然違う……)


 ノビの内心は、訛りがひどくなっていた。

 仲間たちの顔を眺めるノビに、俺は苦笑して一言。


「ノビ、そのうちお前も慣れるさ……」










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